お花見ですか!?その6
向井様と南並さんが暴君。
富士山は遠くで見ると綺麗だけど、近くで見ると案外岩肌が鋭くてごつごつしている。
と、いつだったかそんなことを書いた小説を国語の教科書で読んだ気がする。
その小説と今の状況は似てると思う。
遠くから見ると仲の良い高校生達がバドミントンをしているように見える。
でも実際は殺気をむき出しにして、いかに相手をねじ伏せるか、しか考えていない。
目はぎらぎらと闘志に満ちていて、背中から溢れ出す雰囲気はどす黒い。
今回のバドミントンのルールは簡単。
土の地面に棒で書いた十五メートルくらいのコート半分がそれぞれの領域。
羽が相手の領域に落ちれば一点。
相手が返した羽が自分の領域に落ちる、または自分が返した羽が相手の領域の外に落ちた場合は相手に一点。
先に十一点取ったほうが勝ちとなる。
違反行為は相手のプレーの妨害と第三者の介入。
違反行為をした場合は即相手の勝ち。
そして勝利した賞品は……『|高槻憩(私)』。
大事なことだからもう一度いおう。
どうしてこうなった!?
「Ten Matchpoint Five」
滑らかな英語を発したのは自由さん。
さすが本場の発音は違う!
綺麗な英語を話せる人ってかっこいいよね!
なんでも今日のためにバドミントンのルールを覚えてきたらしい。
真面目さんだなあ。
私は隣で点数係り。
バドミントンって世界最速のスポーツといわれていて、目に当たると失明する可能性があるそう。
情報源は自由さん。
なにそれ恐ろしい。
でもバドミントンよりも嬉しそうにその事実を教えてくれた自由さんが怖かった。
実は天然に見せかけたドSさんなのかな?
少し離れた場所では四分一様が雪彦くんと鈴ちゃん、蘭ちゃんを一緒に肩に乗せている。
五歳くらいなら一人で二十キロ弱あるのに、相変わらず力持ちだ。
まるでサーカスみたい。
側を通り過ぎ人や周りにいる人達の視線を集めているけど、気づいてるのかな?
さっきまで怖がられていたのに、いつのまにか仲良くなってる。
さすが四分一様!
純粋な者同士、波長があったんですね!
「……勝者は葉様と歩真様です」
よそ見をしている間に試合が終わっていた。
絶対にいえないけど、向井様と城野様が負けたのは予想通りだった。
向井様と城野様はパワーでゴリ押しするスタイルでプレーしていた。
一方の葉ちゃんと南並さんは取りづらい場所に羽を飛ばして、相手のリズムを崩すプレーしていた。
葉ちゃんは頭がいいし、運動神経もある。
それに南並さんは葉ちゃんよりもスキルが高い。
直感でプレーする向井様と城野様にとっては、二人は最悪の相性の相手だったと思う。
勝った葉ちゃんと南並さんはハイタッチで喜びを分かち合っていた。
スポーツ漫画の名シーンみたいで青春を感じる。
負けた向井様と城野様は悔しそうに顔をしかめていた。
向井様ってやっぱり負けず嫌いなんだ。
振り向いた葉ちゃんがドヤ顔でいった。
「まだまだだね」
葉ちゃん、それテニス!
あと向井様を煽らないで!
向井様のナニカがキレる音が聞こえた。
「誰が一回で決めるっていった?二回戦やるぞ!」
向井様、そんなじゃんけんで負けた小学生みたいないいわけ通じませんよ……。
「はあ!?負けたらいっちゃんを諦めるって話だろ!?」
葉ちゃん、いい方!
通り過ぎたおばちゃん達が勘違いして『三角関係?』とか噂してる!?
違います!
だからそんな楽しそうに噂しないでください!
「なんだ?勝てる自信ねえのか?」
向井様……大差で負けたのにどこからそんな自信がくるんですか?
「上等じゃない。その喧嘩買ってあげるわ」
南並さんって意外と挑発に弱いのかな?
「ハッ。後悔させてやれ湊、正義」
向井様はドヤ顔で少し離れた場所にいた関元様と四分一様の方へ視線を送った。
ええぇ!?
向井様がやるんじゃないんですか!?
そう思ったのは私だけじゃなかったようで。
「自分じゃ負けるからって俺達に丸投げしない」
「うるせえ!さっさとしろ!」
父親のように諭そうとする関元様を向井様は一蹴した。
ほんとに負けず嫌いなんだなぁ……。
それに相性が悪いことも自覚してるんだ。
関元様はやれやれとため息を吐いて、肩をすくめた。
なんか申し訳なくなってくる……。
「……ハナが戦わないならいい」
四分一様はちらりと橙さんを見た。
バドミントンとはいえ彼女と試合したくないなんて、愛を感じます!
「まーくんそれちょっとひどくない!心配しなくても昔みたいにラケットを振り回して殴ったりしないし!」
振り回して殴った、って聞き間違いですよね!?
金髪なのは昔と関係なくてただのファッションですよね!?
まさか四分一様との出会いはけん……いやいや!?
そんな漫画みたいな出会いがそうそう転がってるわけない!
四分一様は優しいし、橙さんを大切にしてるし!
だ、橙さんって冗談が過激だなあ。
「ならこっちも選手交代よ!蛍、佐々竹くん。期待してるわよ」
南並さんがいい笑顔で高萩さんの肩を叩く。
その目は一切笑っていない。
「うわぁ……南さんに応援されるとプレッシャーが」
高萩さんは顔を引きつらせる。
でも弟さん達の前のせいか、やらないとはいえないようだ。
「あの人達に勝つとか無理無理!絶対無理!日向か自由さん、変わってくれ!」
佐々竹さんは顔面蒼白プラス冷や汗でほんとにいやがっている。
なんでそんなにいやがっているんだろ?
バドミントンだよね?
もしかして佐々竹さんって元ヤン?
そう考えるとさっきも向井様に驚いていたし、関元様達とバドミントンをするのがいやそうな態度とかに説明がつくんだよね。
昔、ヤンチャしてたなら向井様達の噂をたくさん聞いたこともあるだろうし。
でもその割には言動が不良っぽくないんだよね。
髪の色とかそんなに明るくないし、服装もちょっとチャラいだけで、そこまで派手じゃない。
それとも私の基準がうちの学校だからかな?
まあ、ほんとにそうだったとしても葉ちゃんの友達っぽいからいい人なんだと思う。
けっきょく佐々竹さんの意見は無視されて、第二試合が始まった。
Q.主人公(?)高槻憩の第一印象は?
長澤葉「地味で根暗なメガネっ娘だったなあ。いつも一人で自分の席でラノベ読んでるか、寝てるような感じだな」
Q.主人公(?)高槻憩の現在の印象は?
長澤葉「俺のお姫様。反論は許さん。最初は警戒心バリバリの猫みたいだったのがだんだん心を許して笑顔を見せるようになってさ!その笑顔がまたかっわいいんだぜ!もう見てるこっちが幸せになる!」




