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腐った乙女と俺様イケメン不良  作者: 真下地浩也
第一章  高校2年生3月
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まさか死亡フラグですか!?

 セクハラ、ダメ、絶対。

 お兄さん達に連れて来られた場所は旧校舎の三階にある音楽室だった。


 連れて来られて思い出した。

 旧校舎の三階にある音楽室は代々“校内最強の不良が使う場所”だと。


 “誰だこいつ”って容赦ないカラフルな頭をしたピアスだらけのお兄様方の視線が辛い。 


 あと部屋に染みついた煙草の匂いがきつくて、緊張と合間って吐きそう。

 

 私の学校生活オワター!


 入口から見て死角となる部屋の隅に頭を抱えて座りこむ。


 昨日の自分のバカ!


 アニメは録画しているからいつでも見られるけど、向井様にお詫びをするのはあの日しか出来なかったのに!


 過ぎた時間をどれだけ悔やんでも戻ってはくれない。


 タイムマシンはいつになったら完成するんだろう?


 現実逃避をし始めた私の耳に音楽室の扉が開く音が聞こえた。


 少しだけ顔を上げると向井様と後ろに取り巻きさん達が見えた。


 気づかれる前に慌てて頭を下げた。


 騒がしかった教室が向井様と取り巻きの登場によって静まり返る。


「“あいつ”は見つかったか?」


 それほど大きくないのに威圧的な向井様の声が部屋に広がる。


 あいつっていうのは多分私のことだ。


 怖くて体を小さくさせる。

 どうか見つかりませんように。


「いわれた通りここに連れてきやした!」


 いきのいい声が聞こえた。


 多分、私をここへ連れてきたお兄さん達の一人だ。


「それでどこにいる?」 


 お兄さん達の視線が私へ集まるのがわかった。

 

 少し間があって、向井様の視線も私に向けられるのを感じた。


 私の願いも虚しく近づく足音が聞こえる。


 そんなに近くに来ないでぇえええ!

 プレッシャーで朝食がこんにちはしちゃいますよ!?


「……お前そんなところでなにしてんだ?」


 どこか呆れたような声が頭の上から降りてきた。


「すみませんでした!」


 私は恥もプライドも捨てて土下座をした。


 制服が汚れることも今はどうでもいい。


 怖くて顔が見られなかったわけじゃない。

 

 嘘です。顔も見られないくらい超怖いです。

 今すぐここから逃げたい。


 目の前に向井様が立ってるから無理だけどね!

 

 ああ、無情だ。


「それはなんに対しての謝罪だ?」


 氷よりも冷たい声が突き刺さる。


 思った以上に向井様は怒ってらっしゃった!



「それはその……昨日お話の途中で帰ってしまったのでその謝罪です。昨日は本当にすみませんでした!」


 私は額を地面にこすりつける勢いで頭を下げる。


 なんで推しキャラを拾ってもらっただけでこの状況になったんだろうと心の中で思った。


「謝って済むなら警察もやくざもいらねえんだよ」


 そこでなんでやくざが出てくるんだろ?

 

 気になるけど深く聞いちゃだめだ。

 恐ろしいことになりそうな気がする。


「ならどうしたら許してくださるんですか?」

 

 顔を伏せたまま向井様に伺う。


 やや時間をかけて向井様が口を開いた。


「そうだな。ここを綺麗にしたら考えてやってもいい」


 音楽室の掃除。

 そんなことでいいんだ。


 正直、俺の下僕になれとか、お前の金で昼飯を買って来いとか、気が済むまで殴らせろとか、いわれると思っていただけに拍子抜けした。

 

 それくらいなら私にも出来る。 


「それで本当にいいんですね?」


 少しだけ顔を上げて向井様の目を見た。 


「ああ。お前にそれが出来るならな」


 相変わらず心臓に悪い笑顔を浮かべていらっしゃる。


 でも嘘を吐いているようには見えなかった。


「……わかりました」


 私は立ち上がり、制服についた埃を払った。


「じゃあみなさんここから出て行ってください」


「はあ?お前なにいってんだ?」 

 

 向井様は切れ長の瞳をすっと細めた。

 

 怖いという次元を超えた威圧感に屈しそうになるのを堪える。

 

 私よ、自由のために闘え!


「別に私はみなさんがいたまま掃除してもいいんです。でも煙草の吸殻や溜まった埃が一気に舞い上がった部屋の空気を吸いたいんですか?あっ。食料品の空の容器もあるようですし、ゴキブリが大量発生しているかもしれませんね」


 私は落ちていたポテトチップスの袋をつまみあげて、微笑んだ。


 イメージは腹黒ドSで陰湿ないじめが好きな女。


「お前ら今すぐここから離れるぞ!」


 顔を青ざめた向井様達は私を置いて、蜘蛛の子を散らすように部屋から出ていった。


「不良が埃やゴキブリを気にするなんて」

 

 ゴツい男達が一目散に逃げて行く姿が面白くて声を殺して一人笑った。


 でもいつまでも笑っている暇はない。


 ジャケットとスカートを脱ぎ、ワイシャツと短パン(常時装備)で掃除を始める。

 

 音楽室の奥に古い掃除用具があったけど、使われた様子はなかった。


 ですよねー。

 むしろ使っていたらこんなに汚くなってないだろうし。 

 

 それから私は午前中すべての授業をサボって音楽室を綺麗にした。


 落ちていたゴミは分別してゴミ袋にまとめ、埃の溜まった棚や床はほうきで掃いてから落ちていた布切れで何度も拭いた。 

 室内に水道があってよかった。


 想像よりも汚れが酷くて、時間がかかってしまったけど綺麗になった音楽室を見るのは達成感もあって気持ちよかった。


 ソファーの上に置いていたジャケットとスカートを着て、大きく伸びをする。


 これでもう向井様と関わることはない。

 今まで通り遠くから見るモブに戻れる。


 お昼休みのチャイムの音と共にためらいがちに音楽室の扉が開いた。


 振り返ってお兄さん達を出迎える。


「あの……終わりました」


「エロ本が棚に並んでる!?」


 お兄さん達の誰かが叫んだ。


 え?驚くとこそこ!?

 もっと綺麗になったところに驚いてよ!


 近くの床なんて変な黒ずみがあって落とすの大変だったのに!


「えっと……散らかっていたので棚に整理しました。わかりやすいように本の題名で五十音順に並べました。その、勝手に触ってすみません」


「お前なにも思わなかったのか?」


 向井様が信じられないものを見るような目で私を見た。


「いえ別に何とも」


 本の中身はグラビアアイドルが表面積の少ない水着などを着て、際どいポーズをとっていた。


 普通の思春期の女の子なら嫌悪感もあるかもしれないけど、私はこれくらいなら恥ずかしいとも思わない。


 薄くて高い本にはもっと過激なシーンもあるし、それに比べたら可愛い物だと思う。

 

 本を見て思ったのは、この人達はおっぱいでかいなあ、こんなに大きいと肩こりそうだな、ってくらい。


「信じられねえ。お前本当に女か?」

 

 目の前に向井様が立たれる。


 え?なんでこちらに来られるんですか?

 そちらのソファーが空いてますよ?


 訳が分からずに後退したけど、すぐに壁にぶつかる。


 私、何か向井様を怒らせるようなことをした? 

 冷や汗が滝のように流れ出す。


 私に向かって伸ばされた手が行きついた先はおっぱいだった。


 現実に脳の処理が追い付かずに固まる。


 え?もしかして私は今、向井様におっぱいをもまれてる?

 

 いやいやそんな夢じゃないんだからありえない。

 

 あはははは。

 私まだ寝ぼけてるのかな?

 もうお昼だよ?


「……本物だな」


 向井様の言葉でようやくフリーズしていた体が動いた。

   

「くぁwせdrftgyふじこlp!?」


 腐っていても多感な乙女だ。

 おっぱいをもまれて恥ずかしくないわけがない。

 

 気がつくと自分でも驚くような速さで向井様の顔を平手打ちをしていた。


 乾いた音が部屋に響き、お兄さん達の視線が突き刺さる。


 向井様が驚いたような顔で私を見返していた。


 ああ、私の人生が終わったな。

 どこか他人事のように思った。  

  

 話が進むごとに主人公が残念な性格になっていきます(笑)。

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