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腐った乙女と俺様イケメン不良  作者: 真下地浩也
第一章  高校2年生3月
37/111

こいつはバカ?

 勘違いが解けた日。


 ※すみません!次の話と日付が合わなかったので訂正しました。


 一週間と一日目→一週間と三日目

 まだ誰も学校に来ていない時間帯、高槻憩の靴箱に手書きの果たし状を入れた。


 校舎裏に来るように書いたがどうせ来るわけがない。


 これで来るのは相当なバカだ。


 そう思っていたのにそいつはのこのことやってきた。


 呼び出された理由を知ってるくせに間抜け面をしてやがる。


 マジでムカつく。


「あんたこれ以上拓哉さんに近づかないでくれる?そもそもあんたがあの人の側にいること事態がおかしいんだから!」


 最終警告だった。

 

 なのにあいつは目を輝かせていった。


「はい!喜んで!」


 わかってます、といわんばかりの視線。


 バカにしてんのかと思えば、全力で否定してきた。


 いってることは相変わらず気持ち悪かったけど。


 一応念押しをして、その場を去った。 


 背中越しにあいつの声が聞こえた。

 

 でもどうせまた約束を破るんだろうと嘲笑(わら)ってやった。


 


 それから一週間が経った。


 今度はあいつも約束を守る気はあるようで、拓哉さんに近づくことはなかった。


 そして今日は一週間と三日目の昼休み。


 あいつが階段を登りきった先の曲がり角の死角になる場所に拓哉さんが立っていた。


 遠くから見ても不機嫌そうだ。


 あいつは顔を青くさせる。


「理由をいえ」


 と拓哉さんはいった。


 全部いうのかと思ったら違った。


 あいつは何もいわずに拓哉さんに来た道を戻ったんだ。


「あ」


 間抜けな声をあげて、最上階から段差を踏み外す。


 その後のことはスローモーションのように見えた。


「何してんだ!」


 拓哉さんが焦った顔であいつの後ろから腕を引いて、階段から落ちるのを助けたんだ。


 拓哉さんが誰かを助けているのを初めて見る。


 拓哉さんにまとわりつく奴は皆顔か拓哉さんの家のことしか見てなくて、拓哉さんもそれを知っていたから。


 だから拓哉さんは見知らぬ他人が困っていても助けない。


 例外は俺だけのはずだった。


 なのにどうしてその女を助けたんだろう?


 あいつは勢いのまま拓哉さんの腕の中に収まる。


 まるでそこにいるのが当然のようで、その図々しさに怒りが湧いた。


 物陰からあいつを睨むとさらに顔色を悪くする。


 出て行って二人を引き剥がしたかったけど、拓哉さんに勝手なことをしているのをバラされたくなかったから我慢した。


 怒りを貯めて、その場を後にした。




 放課後、あいつの教室に行くとまだ湊さんも正義さんもいなかった。


 二人が最近こいつのボディーガードみたいなことをしているのは知ってる。


 こいつの何がそんなにいいんだか。

 二人とも見る目がない。


 俺が教室に入ると、ざわついていたのに静かになった。


 でもあいつは全く気づかない。


 あいつの目の前に立ち、机を殴ってようやく俺に気づいた。


 バカ過ぎて言葉にならない。


 驚いたように目を丸くしている。


「話がある。ついてこい」


 どうせ来ないんだろうと思いながら行ってみた。


「わかりました」


 なのにあっさりと従った。


 俺が歩き出すとついてくる。


 これから何をされるのかわかっているくせに、呑気なもんだ。


 辿り着いたのは前に一度来た校舎裏。


 立ち止まって振り返りあいつを睨みつける。


「俺は拓哉さんに近づくなっつたよな?なのにさっきのはなんだよ?」


「あれはその、向井様を避けてるのがバレまして……それで理由を聞かれて逃げたら落ちそうになって、助けていただいただけです!」


 そいつは自分は悪くないとつまらない嘘を吐き始めた。


 拓哉さんがお前なんかを相手にするわけがねえだろう!


「くだらねえ嘘つくな」


 俺は怒りのままにそいつを壁に突き飛ばした。


 思ったよりも軽くて壁から背中を強くぶつける。


 そいつは驚いたような戸惑いが見えた。


 だけどすぐに何かを悟ったように表情が消える。


「……嘘じゃないです」


 そういった声にもなんの感情が込められていない。


 まるで人形になってしまったかのように不気味だ。


 光の消えたガラス玉の虚ろな目で俺を見上げる。


「拓哉さんがお前なんかを助けるわけがない!」


 さっきまでだったら睨みつけたら怯えていたくせに今はなんの反応も示さない。


「……そうですね。私もそう思ってましたよ」


 そいつは独り言のように続ける。


「どうして私なんかを助けてくださるんでしょうか?」


 そんなこと俺が知るわけない!


 っていうかあんたのことなんてどうでもいい!


 俺に媚を売るつもりか!?

 

「俺はお前みたいなやつが嫌いだ!」


 俺はそいつの腹を蹴る。


 わずかに顔を歪め、最小限のうめき声を漏らす。


「今みたいに弱いふりをして拓哉さん達をたぶらかしたんだろ?」


 俺の怒りは一発だけじゃ収まらない。


「あんた痛くねえのかよ?Mか?」


 無様なそいつを俺は嘲笑う。


 どうせ何をいっても反応もしないんだろうと思っていたのに。


 当然、泣き始めた。


 無表情のまま泣く姿は気持ち悪かった。


「都合が悪いと泣くのかよ」


 そいつはいわれて始めて泣いていることに気づいたらしい。


 瞳にほんの少し戸惑いを浮かべて、手で涙を拭く。


 誰も来ないと思っていたが。近づいてくる人の足音が聞こえた。


 足音は迷いなく近づいてくる。


 音の方を見てそこにいた予想外の人物に俺は驚いた。


「なんで」


 俺とそいつの声が重なる。


 俺の視線の先にはいたのは拓哉さんだった。


 全身から不機嫌なオーラを出している。


「涼、なにしてんだ?」


 拓哉さんは俺を睨みつける。


 その視線は喧嘩の時と同じ温度だった。


 情けないことに本能的に全身が震える。


「この女が身の程知らずだからしめてました」


 俺の声も震えていた。


「誰がそんなことをしろっていった?」


 氷のように凍えるような怒気が浴びせられる。

 

 拓哉さんが敵に向ける態度だ。


 確かに俺は勝手なことをした。

 

 でもそれは…………


「お前のそういうのうぜえ」 


 拓哉さんは俺をバッサリと切り捨てた。


 俺は助けられた日から恩返しをしていたつもりだった。


 今回もそうだ。


 でもそれは俺の一人よがりだった。


 拓哉さんにとって俺のすることは全部無駄なことだったんだ。


 拓哉さんに慕うこの気持ちもうざかっただけ。


 目の前が真っ暗になる。


 地面の感覚さえもあやふやになった時、そいつの声が聞こえた。


「……そんないい方ないじゃないですか?」


 一度も聞いたことのない凛とした声。


 あいつはゆっくりと立ち上がって、拓哉さんを睨みつけた。


 そこにある表情は怒りだ。


「何いってんだ、お前?いくらバカでも涼に何されたか忘れたわけじゃねえだろ?」


 俺に向けられていた視線を正面から受けて、あいつは泣きそうになっている。


 それでも視線の強さは変わらない。


「やり方は間違っていたと思いますが、城野様は向井様を思って行動したんですよ。それがどれだけありがたいことかわかってますか?」


 この間拓哉さんに睨まれた時は泣いていたくせに。


「城野様は向井様に嫌われるかもしれないってわかってて行動したんです!それは誰にでもできることじゃないんです!」


 さっきまで何もいわず、抵抗もしなかったくせに。


「向井様はそれをちゃんとわかってますか!?」


 そいつはいいたいことをいうと肩で息をしていた。


 小さな背中がやけに大きく見える。


 あの日俺を助けてくれた拓哉さんと姿が重なって見えた。


 なんで……なんで……あんたが俺を庇うんだよ!?


 俺が何をしたのかわかってんだろ!?


 あんたが俺をかばう理由なんてねえだろ!?


 どんな疑問も言葉にならない。


 目の前にいる拓哉さんさえも面食らったような顔をしていた。


「涼、そいつのいったことは本当なのか?」


 拓哉さんは驚いたように俺に聞く。


「……はい」


 あいつの言動に混乱していた俺は返事が遅れる。


 それは拓哉さんも同じだったようで、しばらくしてから口を開いた。


「涼、悪かった」 


 拓哉さんの謝罪に俺は目を見開いた。


 俺なんかに拓哉さんが謝ってるなんて、現実なのに信じられない。


 呆然とする俺を無視して、向井様はずんずんとあいつに近づく。


 あいつ背後は壁で逃げる場所はない。


 あっさりと距離を詰められ、拓哉さんに捕まる。


「あ、え?な、な、何してるんですか!?」


 拓哉さんに強引に制服のシャツと下着を胸元近くまでめくられ、暴れだす。


「チッ。うるせえな。黙ってろ!」


 拓哉さんの舌打ちと冷たい声にあいつは動きを止めた。


 蛇に睨まれた蛙ってこいつみたいな奴のことをいうんだろうな。


 さすがに肌を見られるのは恥ずかしいらしく、顔を赤くして、視線をウロウロさせている。


 じっくり観察した後に、拓哉さんはあいつの膝裏に手を入れて空いた手で支えるように持ち上げた。


「へ?」


 あいつはぽかんとした間抜け面で拓哉さんを見上げる。


 拓哉さんはそんな視線を無視して歩き出す。


 俺も慌てて後をついて行く。


 目の前で信じられないことが起こりすぎて、頭が痛い。


「どこに向かっているんですか!?」


 校舎内に入ってようやくあいつは抵抗を始めた。


「保健室に決まってんだろ?」


 拓哉さんの言葉にそいつの顔が真っ青になる。


「大丈夫です!ほらこんなに元気ですよ!」


 あいつは笑うが、どう見ても無理しているとわかる。


 拓哉さんに軽く体を揺すられ、顔をしかめる。


「どこが大丈夫だ?あ゛ぁ?」


「湿布貼れば一週間くらいで……すみません!ありがとうございます!」


 拓哉さんに睨まれてようやく大人しくなる。


 そのまま保健室に行き、三人とも加東先生にものすごく怒られた。


 特に俺は腹を一発殴られた。


 慌てた様子で湊さんと正義さんも来て、その後にのんびりと蓮さんも来た。


 あいつは拓哉さんに送ってもらうでまたいい争いになったが、湊さんになだめられ、家の近くまでタクシーで送ることになった。

  

 申し訳なさそうな顔をして、拓哉さんと湊さんに何度も頭を下げている。


「涼、ちょっと話があるからついて来なさい。正義もよ」


 蓮さんは有無もいわさずに先に行く。


「ん。わかった」


 その後を正義さんが続く。


 何をいわれるかわからないし、正義さんに怒られるかもしれない。


 でも逃げるなんて許されるはずもなくて、俺は二人に従うしかなかった。


 蓮さんが向かったのは屋上だった。


 太陽はだいぶ傾いていて、一番星が見える。


 蓮さんはフェンスに寄りかかり、空を見上げていた。


 正義さんは蓮さんと同じくらい距離を取って、まっすぐな目で俺を見ている。


 いつもと変わらない視線は何を考えているのか読めない。


「アンタも馬鹿なことをしたわね」


 蓮さんは容赦なく俺の傷口を抉った。


「それ、どういう意味?」


 その言葉に正義さんがピクリと眉を動かす。


「どういう意味も何もないわよ。拓哉があの子ばかりを構うから涼は嫉妬しただけ。あの子をいじめていたのは他の人間よ」

 

 あいつがいじめられていたのは知っている。

 

 でもそれは靴箱や机の中にごみを入れられるくらいの小さなことだった。


「でも涼と違ってあの子は一度だって私達に助けてなんていわなかったわよ?むしろ隠そうとしていたわね。それをアンタは知ってるかしら?」


 嘘だ!

 観察していたからわかる。


 正義さんも、湊さんもだってあいつを助けようとしていた!


「憩は嘘が下手。全部顔に出るから隠し事も出来ない」


「そういうこと。何より拓哉と関わることになったのもあの子の意思じゃないの。全部拓哉のわがままよ」


 あいつは好きで拓哉さんの側にいるんじゃない……?


「脅された上に、殺すとかいわれて好きになるわけないじゃない。世界にはそういう人もいるのかもしれないけど、少なくともあの子はそうよ。わざわざいわなくても初めて会った時のことを思い出せばわかるでしょ?」

 

 確かに初めてあいつに会った時、拓哉さんに脅されて本気で怯えて泣いていた。


 拓哉さんをビンタしたことばかり考えて、あいつがどんな顔をしていて、何を考えていたか思いもよらなかった。


 俺は拓哉さんに手を出したことを許せない。


 拓哉さんがいなかったら俺は今も苦しんでいたから。


「あの子ね、とんでもない馬鹿よ。多分死んでも治らないんじゃないかしら」


 馬鹿なのは知っている。

 

 俺の呼び出しにのこのこやって来たから。


「だってアンタがしたことを許しているんだもの」


 蓮さんの言葉を意味を理解するのに時間がかかった。


「普通なら拓哉からアンタを庇わないわよ?自業自得だって笑われてもおかしくなかったわ。それなのにあの子はアンタを庇ったのよ?その意味わかるかしら?」


「憩は馬鹿じゃない。優しいだけ」


 正義さんがむっとした顔で訂正を入れる。


「馬鹿よ。それもどうしようもない馬鹿。アンタを庇ったところで何もいいことなんてないのにね。いえあの状況だったら拓哉の機嫌を損ねて殴られてもおかしくなかったかもしれないわね」


 拓哉さんに歯向かっているあいつを見た時から思っていた。


 なんで俺を庇うのかって。


 いくら鈍くても俺が嫌っていることくらいわかっていただろう。


「あの子ね、いじめられたのは今回が初めてじゃないわよ。多分何度もいじめられていたんじゃないかしら?」


 蓮さんの言葉に驚いたのは俺だけじゃなかった。


「湊も気づいていたんじゃないかしら?だってあの子にしちゃ上手く処理しすぎているわよ。いじめの内容がエスカレートするまでに時間がかかったのもそのせい」


 まあそのおかげで湊と正義がいじめの犯人を突き止めることが出来たんだけど、と蓮さんは続けた。


 あいつが何度もいじめられていた?


 湊さんや正義さんと一緒にいる時は普通に笑っていたのに?


 でもいじめの内容がこの学校にしてはぬるかったのは、あいつがいじめられることに慣れていて、事前に対策していたからだって考えるとつじつまが合う。


 いじめられる辛さは俺が一番分かる。


 だって俺も中学の時にいじめられていたから。


 一年生の時にレギュラーになったことがきっかけでレギュラー落ちした上級生から恨まれた。


 サッカーシューズをぼろぼろにされたこともあったし、俺だけ片づけをさせられたこともあった。


 部活だけじゃなくて普段の生活でも嫌がらせを受けた。


 そんな時、助けてくれたのが偶然通りがかった拓哉さんで、それから俺は拓哉さんを慕うようになった。


 辛い時に助けてくれる力がある人間が側にいる時、すがりたくなる。


 でもあいつはその力を求めなかった。


 それどころか敵だった俺を庇ってくれた。


 そんな強い人に俺は最低なことをした。


 周りの状況を考えずに自分の感情で突っ走って、過去にされて嫌だったことをした。

 

 あいつは何も悪くなかったのに。


 自分の馬鹿さ加減にどうしようもなく腹が立った。


 一番怒っているのはあいつ……いやあの人だろう。


「悪かったと思うなら憩に謝って。大丈夫。憩は絶対に許してくれるから」


 正義さんは俺の目をまっすぐに見ていた。


 俺はこの人に殴られてもおかしくないことをしたのに。


「謝るだけじゃだめよ?あの子は嫌がると思うけどアンタを庇ってくれたんだからちゃんと償いなさい」


 蓮さんは厳しい口調で忠告する。


「はい!」


 俺ははっきりと頷いた。

Q.加東薫の第一印象は?


高槻憩「白衣とスーツと眼鏡の三種の神器が似合う知的イケメンで優しい人ですね。初めて会った時に大した怪我じゃないんですけど、わざわざ保健室に連れて行ってくれたんですよ」


Q.加東薫の現在の印象は?


高槻憩「変態サディストですね。あ!あとロリコンです!でも時々優しくてちょっと怖……いった!先生いつからそこにいたんですか!?え?最初からそこにいたんですか!先生相変わらず性格が悪……ったい!先生ファイルで頭を叩くの止めてください!これ以上馬鹿になったらどうしてくれるんですか!」



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