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腐った乙女と俺様イケメン不良  作者: 真下地浩也
第一章  高校2年生3月
29/111

これはいじめでしょうか?

 阿部先生がおかんです。

 私が高槻憩さんを知ることになったきっかけは、思いを寄せる彼が彼女を気にかけていたからでした。


 教師と生徒の恋愛はご法度であるという建前で、私は高槻さんのことを観察しました。


 恥ずかしいことですが、私は教師らしからぬことに私情を挟んでいました。


 高槻さんはこの学校には珍しい生徒です。

 

 時々授業中に寝ていることがありますが、基本的には真面目に受けています。


 観察すればするほど高槻さんは他校にもいるような普通の生徒でした。

 

 そんな彼女と会話をしたのは、入学してから一年が過ぎた頃でした。 


 六時間目の化学実験の授業を終え、片付けをしていると彼女から話しかけてきたのです。


「阿部先生、お手伝いすることありますか?」


 高槻さんは少し不安そうに提案しました。

 

 私は同じ表情を見たことがあります。


 それはかつて私に思いを寄せて告白してきた女性達が告白する前に見せていました。


「ありがとうございます。ですが一人で大丈夫です。暗くなると危険ですから早めに帰りなさい」


 拒否する態度を見せれば、たいていの生徒は引いてくれました。


 大人しそうな高槻さんもそういえば諦めて帰ってくれると思ったのですが……。


 彼女は顔を赤くしながら私を見上げました。


 ああこれはまずいと思いましたが、止める前に高槻さんが発言しました。


「すみません!今から失礼なことを聞きます!阿部先生は男性が好きって本当ですか?」

 

 この後の展開は予想がつきました。


 その言葉は何度も告白される前に聞かれました。


 そして私はその度に心を切りつけられた心地がするのです。


 まるで男が好きな私が異常といわれているように感じてしまってひどく辛くて苦しくなります。


「そうですよ。私は女性ではなく男性に魅力を感じるのです」


 目を見てはっきりといえばどんなに強気な女性も諦めてくれました。


 ですが、高槻さんは私の予想の斜め上を行きました。


「噂はほんとなんですね!だったらどんな男性が好きなんですか?」


 高槻さんは私に嫌悪感を見せることはなく、キラキラした目で私を見上げました。


 予想外の言動に私は言葉を失いました。


「噂では生徒に手を出したと聞いていたのですが若い人が好きなんですか?」 


 高槻さんは私の変化に気づかずに笑顔のまま話し続けました。


 後からわかったことですが、高槻さんは私に告白しようとしたわけではなく、ただ噂が本当なのかを確かめたかっただけなのだそうです。


 勝手に観察し、勘違いまでした私はとても恥ずかったです。


 


 それから私達は仲良くなり(節度はわきまえています)、時々昼食を一緒にとるほどになりました。


 今は四時間目。

 二年B組は化学の担当クラスで高槻さんのクラスでもあります。


 高槻さんはいつも真面目にノートをとっているのですが、今日は違いました。


 彼女の後ろの席に座る山崎くんが彼女の椅子を蹴っていたのです。


 一度くらいならば偶然だと思いましたが、何度も繰り返すので、さすがにそうは思えませんでした。


 高槻さんは困った顔をしながらも何もいいません。

 

 彼女の性格だといえないのでしょう。


 山崎くんの行動に自分でも驚くほど苛立ち、思わず握っていたチョークを折ってしまいました。


 私の怒りが漏れていたのかもしれません。


 何度注意しても騒がしかった教室中が静まり返りました。


 私は折れたチョークを拾ってから、黒板から生徒の方へ振り返ります。


「山崎くん、高槻さんの椅子を蹴るのをやめなさい。他の生徒の迷惑です」


 私は静かな厳しい声で椅子を山崎くんを注意しました。


 ですが、残念なことに彼は素直に聞くような生徒ではなかったようです。


 私が黒板に向き直してしばらくすると再び高槻さんの椅子を蹴っていました。


 それも先程よりも強くです。


 高槻さんは真っ青な顔をしながら椅子にしがみつきます。


 山崎くんは少し叱る必要がありますね。


 私ははチョークを置いて、教卓に広げて教科書を閉じました。


「キリがいいので今日はここで終わります」


 私がいい終わった直後に授業の終わりを知らせるチャイムが鳴りました。


 今日の授業も予定通り進められました。


「山崎くん、高槻さん。今から一緒に生化学準備室に来なさい」


 私はわざわざ二人を呼び出しました。


 高槻さんは不思議そうな顔をしながらも鞄に教科書などをつめて、私の後を山崎くんと一緒についていきました。




「二人ともなぜ呼ばれたのかわかりますか?」


 山崎くんは不機嫌そうな顔を隠そうともしません。


 高槻さんはなんて答えたらいいのかわからないのでしょう。


 居心地の悪そうな顔をして黙っていました。


「高槻さんがあなたに何かしたのですか?それとも何かいいたいことがあるんですか?」


 山崎くんは固く口を閉じて何もいいません。


 最近、生徒達の高槻さんへ向ける態度が激しい物であることに、私を始めとした数人の教師は気づいていました。


 しかしそれを上に訴えても大事になることを恐れ何も対処をしてくれないのです。


 このままでは近いうちに取り返しのつかないことになるような気がします。


「山崎くん、高槻さんにいいたいことがあるのなら暴力ではなくちゃんと言葉で伝えなさい。わかりましたか?」


 一介のしがない教師に出来るのはこうして注意することくらいです。


「………………はい」


 もう二度としないように念を押すと、山崎くんは蚊のなくようなとでもいいそうなほど小さな声で返事をしました。


「では話は終わりです」


 山崎くんは高槻さんを置いて先に(多分教室)に帰ります。


 高槻さんは表情をゆるめました。


 彼女にとってはクラスメイトすら緊張の対象なんでしょう。


「高槻さんもやられるばかりじゃいけませんよ。私でよければ力になります」


 私の心からの言葉で、辛いなら頼ってほしいと、いってくれるのなら高槻さんの味方になるからと伝えたつもりでした。


「ありがとうございます。じゃあその時はよろしくお願いしますね」


 ですが、高槻さんはにっこりと悲しい笑顔で私の申し出を断りました。


「それよりもどうして私まで呼んだんですか?」


 私が発言をする前に高槻さんは話題を変えました。


 まるでなんでもないことのように。


 教師として年の離れた一人の友人として、高槻さんの力になれないことにやるせない気持ちになりました。


 仮にこの気持ちを高槻さんにぶつけてもきっと困らせるだけだとわかっているので、私は本音を隠して彼女の話に乗ります。


「高槻さんと先週以来話す機会がなかったので作ってみました。少々強引になってしまってすみません」


 本音ではないですが、嘘でもありません。


 高槻さんと話すのは楽しいと思います。


「いいえ!私も色々とお話したいことがあったので嬉しいです!ありがとうございます!」


 高槻さんはさっきまでと一転して心からの嬉しそうに笑います。


 彼女が笑うと私まで私まで嬉しくなります。


「そういってもらえてなによりです。では昼食をとりながらお話しましょうか?」


 私は鞄からお弁当風呂敷を取り出して机の上に乗せ、風呂敷を解き、蓋を開けました。


「わあ!相変わらず先生のお弁当は美味しそうですね」


 私のお弁当を見て高槻さんは尊敬の眼差しで見てくれます。


 この年でそんな目で見つめられると気恥ずかしい物がありますが、嬉しい物があるのも確かです。


 持って来ていた魔法瓶の水筒から温かいお茶(私の好きな緑茶)をコップに移して渡します。


「高槻さんのお母様には負けますよ。ですがよかったら食べますか?」


「先生ありがとうございます!いただきます!」


 お弁当を差し出すと高槻さんはお菓子を目の前にした子どものように目を輝かせます。


「はい。お好きなものをどうぞ」


 思わず私の頬も緩んでしまいます。


「先生ならいいお嫁さんになれますね!」


 高槻さんは千切り大根の炒め煮を頬張りながら、そんなことをいいました。


「そこは婿ではないんですか?」


 高槻さんはよくこうしたずれたことをいうのです。

 

 その表現が独特でおもしろく、彼女の魅力の一つでもあると思います。


 それからしばらくして、昼休みが終わる頃には高槻さんの表情は明るいものに変わっていました。


 私は教室に向かう彼女の小さな背中を見守りながら、一つ願いました。


 高槻さんが私ではない誰かと心からの笑顔で一緒に過ごす日々が増えますように、と。 

Q.主人公(?)高槻憩の第一印象は?


阿部帆邑「真面目で大人しい生徒ですね」



Q.主人公(?)高槻憩の現在の印象は?


阿部帆邑「笑顔の素敵な少し変わったところのあるおもしろい生徒ですよ。ただ生徒に友人がいないことが気がかりです。本人も頑張ってはいるようですが難しいようですね。誰かいい友人になってくれる人はいないんでしょうか?」

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