これっていじめか?
喧嘩するほど仲がいい?
六時間目終了のチャイムと同時にスマホの無料通話・メールアプリ『LINK』の着信を知らせる音が鳴る。
発信したのは湊だった。
妹が作った兎の縫い包みが顔写真だ。
本人は気づいているのかいないのか。
湊は相当なシスコンだ。
まああんな事件が遭ったらそうなるか。
画面に指を滑らせてアプリを開く。
《今日は高槻さんが掃除をするから一時間くらい音楽室には入れないよ》
そういえばそんな命令をしたか。
すぐに逃げ出すと思っていたから忘れていた。
ついで昨日コーラを買いに行かせたことを思い出す。
遅かったせいで外側からでもわかるくらい温かったし、振ったらしく開けた瞬間に顔や髪に服まで濡れた。
たまたま湊がジャージを持ってきていたからよかったものの、家に帰ってから話を聞いた家の奴らやクソジジイに笑われた。
そうか。
今あいつは一人なのか。
俺は笑みを浮かべて教室を後にした。
音楽室は俺の予想通りあいつしかいなかった。
扉を開けるとあいつはジャケットを脱いでスカートに手をかけたところで、顔だけ振り返えっていた。
俺がここにいるのが意外だったのか、驚きで声が出ないようだ。
「……お前ここでなにしてんだ?」
俺は扉に手をかけたまま、あいつに聞く。
「えっと……今から掃除をしようと思いまして」
スカートから手を離して、体ごと俺に向き直す。
「だったらなんで脱ごうとしてんだ?」
「ああ。これですか?汚れるといけないので脱いでいたんですよ。制服ってなかなか洗濯できないので」
強張っていた顔から少し力が抜け、ふにゃりと情けなく笑う。
掃除をすれば服が汚れる。
だから服が汚れないように着替えるというのはわかる。
だけどなんでこいつはここで着替えようとしてんだ?
もしLINKを見なかった奴がここに来ていたら、襲われていたかもしれねえって考えなかったのか?
「馬鹿かお前」
こいつは不思議そうな顔をする。
どうやら一切考えていなかったらしい。
「今は誰もいねえけどいつもは男ばっかだろ?そんなとこで服脱ぐとか誘ってんのか?」
少し考え込んだ後、顔を青ざめた。
俺のいう意味がわからないほど純情じゃねえみたいだな。
「いやいやありえないですよ!?こんな私なんかが服を脱いだところで皆さん何とも思わないでしょ!?」
両手を顔の前に突き出して、左右にパタパタと振る。
「やっぱお前は馬鹿だ」
俺は追い詰めるようにゆっくりとこいつとの距離を縮める。
少しでも俺から離れようと後ろに下がるが、すぐに逃げ場はなくなった。
壁際に追い詰めたこいつの顔の横に手を突き、顔を近づける。
俺に怯え今にも泣きそうな顔がよく見える。
「男は好きでもねえ女でも抱けんだ」
涙で濡れる目を捕らえてじっと見る。
こいつは目を合わせられるのが苦手だ。
すぐにそらそうとする。
まあ許さねえけど。
シャツのボタンに手を伸ばすとさらにいい顔をする。
「や、やめ、て、くだ、さ、い」
初めて聞くか細い声がこいつの喉奥から漏れる。
思わず動きを止める。
こいつはそういう声も出せるのか?
俺の動きを勘違いしたのか、こいつの顔と体から力が抜ける。
「え?」
小さな顎を掴んで上を向かせる。
「さっきの顔もう一度しろ」
再びこいつの顔と体が強張る。
「い、いや」
さっきよりも怖いのか体が震えていた。
それでもこいつはぐっと唇を噛んで涙を流さない。
倒れそうなほど青ざめた顔で俺を見上げ、睨んできた。
さっきよりもいい顔だな。
二度と立ち直れなくなるくらいに壊してやりたくなる。
いや壊してやる。
精神的には強いみたいだからな。
肉体的な苦痛を与えてみるか。
そう思ったのだが……。
「しゃわりゃないでくだしゃい!」
一瞬、こいつがなにをいっているのかさっぱりわからなかった。
こいつは気まずそうに赤くなった顔を背けた。
状況と雰囲気がちぐはぐなのが、おかしくて声を殺して笑ってしまう。
けっきょくは耐えきれずに声をあげて笑った。
不思議そうなこいつの顔がさらに俺を笑わせる。
「あー。ヤル気なくなった」
こいつの馬鹿な姿にヤル気が失せた。
こんな女を抱こうとしていたことがアホらしい。
そして俺はそのまま音楽室を出て家へ帰った。
Q.主人公(?)高槻憩の第一印象は?
城野涼「地味でチビで頭悪そうな女」
Q.主人公(?)高槻憩の現在の印象は?
城野涼「超性悪女!向井さんにビンタしやがって!湊さんや正義さんが許しても俺は絶対に許さねえから!あと向井さんに近づくな!」




