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腐った乙女と俺様イケメン不良  作者: 真下地浩也
第一章  高校2年生3月
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四度目の再会は修羅場か?

 向井拓哉の悩み。

 初めて会ったのはあいつがアニメだか漫画だがのキャラクターを描いた紙落とした時。


 二度目は舎弟達に音楽室へ連れてこさせた時。


 三度目は鬼ごっこの時。


 四度目は……


「拓哉があんなに感情的になったのは中学以来かしら?」


 ふいに聞こえてきたヒールの音と蓮の声に考えていたことが消えてなくなる。

 

 十センチほどの高さのヒールの靴でよく歩けるものだ。


「うるせえよ」


 足元にも転がる男を蹴り飛ばして、声のしたほうへ振り返る。


 男達はもううめき声すらあげない。


 そっちから喧嘩を売って来たにも関わらず、図体ばかりがでかくて舎弟達よりも弱かった。


 ああ、苛々する。


「あんなちんちくりんに振り回されているなんて『冷王(れいおう)』の名が泣くわね」


 俺の前で立ち止まった蓮は大きなため息を吐いた。

  

 その名前は俺がいい出したわけじゃねえ。

  

 玄博高校と対立する白藤(はくとう)高校の総長の二つ名『狂皇(きょうこう)』にちなんでつけられたものだ。


 白藤高校の総長は残虐で気まぐれで何より“狂っている”。


 殴られても笑って済ませることもあれば、肩が触れただけで半殺しにする。

 よほどのことがない限り近づきたくない。


 対して俺は自分からは喧嘩を売ることはないが、売られた喧嘩は数倍返しにする。

 喧嘩の際に冷笑することと、態度が冷酷だから『冷王』。


「お前はさっきからなにがいいてえんだ?」


 蓮はよく回りくどいいい方をする。

 普段なら流せるが今日は機嫌が悪い。

 

「なんでそんなにあの子に構うの?地味な普通の子でしょ?」


 “普通”。

 俺達には当てはまらない言葉だ。


 俺達は世間的にいう普通ってやつから大きく外れている。 

 そしてこれからも外れ続けていくだろう。


「理由なんてねえよ。ムカついたから壊す。ただそれだけだ」


 昔からそうして生きていた。


 だからか、あいつが俺にやったことを思い出すだけで腸が煮えくり返る。


「拓哉も湊もらしくないわ。正義は……いつも通りね」


「お前の方がらしくねえだろ」


 半径一メートル以内に入れたくないほど女を嫌っているのにあいつには普通に接している。


「何それ?嫉妬かしら?」


 嫉妬?誰が誰にだ?


「わけわかんねえこといってんじゃねえぞ」


「……無自覚なのね。まあいいわ。でも涼には気をつけなさいよ」


 蓮は残念なもののように俺を見た。


「はあ?なんで涼が出てくんだよ」 


「涼がアンタを慕っているからよ」


 涼は昔、偶然助けた奴だ。

 それ以来、犬のように俺の後をついてくる。


 喧嘩も強いし、俺の家族や力目的ではなく、純粋に慕ってくる姿に好感も持っている。


 蓮もそれを知っているはずだ。

 なぜわざわざ忠告する?


「ねえ拓哉。あの子のことはどう思っているの?」


 あいつをどう思っているかだと?

 そんなの決まってんだろ。


「殺したいほどに嫌いだ」


 散々コケにされたんだ。

 さっきは感情が昂りすぎてうやむやにしてしまったがいつか絶対にヤル。


 楽に殺してなんかやらねえ。

 俺の手で苦しませて殺してやる。


 蓮は俺の答えになぜか苦笑した。


「それがアンタの答えなのね。それはそれで面白いことになりそうだわ」


 いいたいことをいって満足したのか、蓮は帰っていった。 


 結局、何がいいたかったんだよ。

 

 喧嘩をすれば少しはましになるかと思ったが、変わらない。


 やはり元凶をどうにかしない限り無理そうだ。


「お前まだこんなことしてんのか?」


 背後から聞いたことのある声が聞こえてきた。


 振り返らなくとも誰だかわかる。


「だったらなんだ?あんたには関係ねえだろ」


 顔だけ振り向くと予想通りクソジジイのお気に入りの屋斎十真十(やさいとまと)がいた。


 今日は緑色の髪をオールバックにまとめ、品のいいブランド物のスーツに身を包んでいる。


 鋭い視線は一睨みするだけで、相手を威圧する。


 服の上からでもわかる引き締まった体は野生の肉食獣を思わせる。


 取り立ての途中なのか周りに数人の部下がいる。


「なにをしても結局なるようにしかならねえだろ」


 俺のことをわかったかのような口ぶりに腹が立つ。


「なに自棄になってんだ?」


 自棄になってる?

 そんなの今さらだ。


「あんたさえいなきゃ今頃親父は組長になっていた」


 五年前にクソジジイは実の息子である親父を差し置いて、トマを次の組長へと指名した。


 親父の方がずっと実力があったにも関わらずにだ。


 だから俺は……


「親父の未来を奪ったあんたを許さねえ」


 恨みをこめて目の前に立つトマを睨みつける。


 悔しいが今の俺ではこいつに何も出来ない。


 純粋な力の強さもトマの方が上だ。


 額に青筋を浮かべて一歩踏み出した部下をトマは手で制した。


「いいたいことはそれだけか?」


「他にいうことなんざねえよ」


 トマは大きな溜め息を一つ吐いて遠くを見つめた。


 その視線の先に何を思い浮かべたのだろうか。

 


「一つ聞くがお前には自分の命よりも大切なやつはいるか?」


 トマは何の脈絡もないことをいい出した。


「そんなやついねえよ」

 

 即答した俺にトマは苦笑した。


「それが俺とお前の違いだ。あと俺を幹部から引き摺り下ろしたかったら、睨んでねえで力をつけてかかってこい。いつでも相手してやる」


 それで話は終わりだといわんばかりにトマはきびすを返した。

 後を部下どもがついて行く。


 俺は反対方向へ歩く。


「……大切なやつなんていらねえよ」


 ぽつりと呟いた言葉は誰にも届かずに空気に消えた。

 


 

 いつもより少ない上に、シリアス(当社比)が続きました。


 次回からはギャグ中心で行きたいと思います。


 トマの外見を書き加えました。

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