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腐った乙女と俺様イケメン不良  作者: 真下地浩也
第一章  高校2年生3月
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それで嘘を吐いてるつもりか?

 向井拓哉から見た主人公。

 嘘を吐けないやつ、ってこいつのことをいうんだと思う。


「これお前のか?」


 そう聞いてやれば、目の前に立っている女はわかりやすく顔を青ざめた。


 自分でいうのもなんだが、俺は『玄博高校』で実力・人気ともにナンバーワンの不良『向井拓哉』だ。

 

 道を歩けば人は避けるか、喧嘩を売ってくる。

 まあ、売られた喧嘩は倍で買ってやるが。


 だいたいのやつがワンパンで黙るからつまらねえ。

 そもそもそんなに弱いなら俺に喧嘩売るんじゃねえよ。

 

 多分、目の前の女も俺の噂を知っているんだろ。


 生まれて一度も染めたことのなさそうな黒髪に目にかかる前髪、どこにでも売ってそうな黒縁眼鏡に中学生みたいに小さな体。


 俺と並べばガキ一人分程度の身長差がある。

 

 一言でいうなら“いてもいなくてもわからない地味な女”。


 だがそれがこの学校ではどれだけおかしいことか。


 うちは県内でも有数のバカ校で、名前さえ書けばどんなやつでも受かるといわれるほど偏差値が低い。


 だから他の学校には通えないような不良とギャルが集まる。


 染髪、ピアス、制服改造は当たり前。


 学校のどこでも煙草の吸い殻やゴミが落ちている。


 授業は誰も聞かず、教師が一人で勝手に進めるだけだ。


 数日に一度しか学校に来ない奴すらいる。


 そんな中で女は規則通り制服を着て、ピアスホールすら開けていない。


 女の視線は俺が持っている紙から離れない。

 紙にはアニメか漫画だかのキャラクターが描かれていた。


 女が二階の廊下の窓から落としたそれをたまたま通った俺が拾ったのだ。


 拾い上げ、二階を見上げれば女の姿はなかった。

 恐らく俺に気がつかなかったんだろう。


 何も知らずに息を切らして取りに来た女は俺を見て固まった。


 そして、冒頭へと戻る。


「御手を煩わせてすみませんでした!」


 女は膝につくんじゃないのかってほど、頭を下げた。


 あまりの必死さに吹き出しそうになるのをぐっと抑える。


 こんな紙切れがそんなに大事なのか? 


 試しに女の目の前に紙を差し出してみた。


 小動物のように警戒しながらも女はそれを受け取ろうとした。


 手が届く前にひょいと上に持ち上げられば、紙につられて顔を上げていた女は俺と目が合う。


 女は顔を強張らせ、小さく震え出した。


 顔色の悪さはさっきの比ではない。

 

「これお前が描いたのか?」


 もう一度はっきりとした声で聞いてやれば、女の目が泳ぐ。 

 

 理由は知らないが、この紙のことは隠したいらしい。


「ちゃいます!」


 動揺したのか謎の関西弁を話し出す。


 これが自室なら腹を抱えて大声で笑っていたところだ。


「へえ?違うのか。ならこれ俺がもらってもいいよな?」


 追い打ちをかければ女は冷や汗をかきだした。 


「それは友達のです!」


 女はいいわけを思いついた!といわんばかりにそういった。


 誤魔化せていないにも程がある。


 俺を馬鹿にしてんのか?


「友達?お前に友達とかいんの?」


「他校にいます!」


 心外だといわんばかりに女は声を張り上げた。


「ああだからお前はいつも一人なのか」 


 何度が見かけた時、こいつの側に友達らしいやつはいなかった。


 偶然だと思っていたが違ったのか。


 なぜか俺の方が虚しくなってきた。


 可哀想なやつだ。


「余計なお世話です!それ借り物なので早く返してください」


 俺に焦れた女はキレ始めた。


 だが小さいせいもあってか全く怖くない。


 子供に睨まれて怖くないのと同じだ。


「条件がある」

 

「条件?」


 女は疑うように俺を見上げる。


 今さら警戒したところでもう手遅れだ。


 俺はお前の弱みを手に入れたんだからな。


「この俺様が拾ってやったんだ。ただで返してもらえると思うなよ」


 何をしてもらうか。


 そういえば俺達が使ってる旧校舎の汚れが最近酷いな。


 掃除でもしてもらうか。


 こいつ馬鹿そうだけど、女だからその程度は出来るだろ。


 掃除するやつっていや、あいつらなんかいってたな。


 ええと確かやたらフリフリした服を着た……そうだ。

 あれ“家政婦(メイド)”っていうんだったな。


「俺のメイドになれ」


 女は冷めた俺を見た。


 しかもそういう趣味だったんですね、と顔に書いてある。


 俺の趣味じゃねえよ。


「嫌です」 


 それに対する女の答えは拒否だった。


 今までのおどおどしていた態度が嘘のように、目に怒りを浮かべる。


 なぜそんなに怒っているのだろうか?


 メイドになれといわれたことがそんなに嫌だったのか?


 だが最初の言動はどう見てもプライドの高いやつの態度じゃなかった。


 むしろ長い物には巻かれるタイプに見える。


 女は困惑する俺から紙を奪い取って、一目散に逃げた。


 その動きは見た目とは裏腹に素早く、一切の躊躇いがない。

 

 証拠に女は一度も振り返らない。


 いつもならそれでその女に会ったことすら忘れていただろう。


 女のあべこべな言動を思い出して俺は笑う。


 そして俺に一度も媚を売らず、反抗してきた女に興味を持った。


「久々に面白いやつを見つけた。絶対に逃さねえ」


 旧校舎に戻り、階段を登り、三階の元音楽室の扉を開ける。


 中には髪を思い思いに染め、ゴツいアクセサリーをつけたガタイの良い男達がたむろっていた。

 

 全員が俺の舎弟だ。

 

 挨拶もそこそこにそいつらに向かって俺は命令した。


「明日、黒髪で眼鏡の地味なチビの女を見つけたら朝一で俺のところへ連れて来い」


 舎弟達がざわりと騒ぎ出したが無視して、持ちこんだ黒革のソファーに身を沈める。


 明日、こいつらに捕まった女がどんな顔をするのか、想像して笑みがこぼれた。


 怯えて真っ青な顔で震えるか?


 それとも気丈に反抗して睨んてくるか? 

 

 はたまた予想外の言動か。


 なんにせよ面白い結果になりそうだ。


 さて、お前はどんな風に俺を楽しませてくれるんだ?

 他人の視点になると、主人公がさらに残念な娘に(笑)


 

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