三度目の再会は修羅場ですか!?前編
気づいたらブックマークが13件で、夢かと思いました。
頬をつねると痛いので現実ですね。
ブックマークしてくださった方、読んでくださっている方、どちらもありがとうございます。
《迎えに行くから教室で待ってて》
ヴェルさんと食事をした(おごってくださった)翌日の月曜日。
昼休みに届いたメールを見て、溜め息を吐いた。
土曜日のことは夢じゃなかったんだ。
行きたくないなー。
ほんとは学校も休みたかったけどその後のことを考えたら恐ろしくて実行に移せなかった。
悲しいかな……。
この二年で染みついた『長いものに巻かれとけ!』ならぬ『強いものには頭を垂れよ!』精神には敵わないのだよ。
そうは思っても時間は無情に過ぎていくわけで。
放課後になってすぐに関元様が迎えに来てくださった。
放課後のチャイムが鳴ると同時に現れたから、待たせていたんじゃないかな?
ちょっと……いや、かなりこわ……ありがたい話だ。
うん。そういうことにしよう。
目的地につくまで逃さないようになんてわけない。
そのおかげか、旧校舎の音楽室につくまで注目され過ぎて辛かった。
隠密スキルがほしい。切実に。
ステルスでも可。
もう一生発動したい。
でも本当に辛かったのは音楽室に着いてからだった。
なにが辛いかって?
アウェー感が半端ないんだよ!?
いや向井様をビンタしたから当然の反応なんだけど、いかついお兄さん達の容赦ない視線って人を殺せると思う。
さっきまでの道のりでイエローゾーンに差し掛かっていた|MP(精神力)がレッドゾーンに入りそう。
ただ中には私を完全に無視して思い思いのことをしているお兄さん達もいた。
そのうちの数人(前に私をここに連れてきた虎刈り)のお兄さん達はテレビゲームをしていた。
はっ!?
あれは去年発売されたホラーゲーム『呪呪』シリーズ最新作!?
デビュー当初から爆発的な人気を誇る若手小説家の『比良吉不二介』さんがシナリオを手掛け、『呪呪』シリーズで最高の売り上げを出したあの名作がここにあるというのか!?
ああ!何度見てもいい!
キャラクターデザインがよくて、ストーリーと映像と音響とかも合ってて、怖いけど切ない!
なのにどこか懐かしくて満たされた気分になる!
予約購入して発売日から徹夜して全クリましたとも!
今の私はどこにどんなアイテムが落ちているのかもわかる!
でもこんな遠くからじゃよく見えない!
もっと近くで見たい!
「た、高槻さん!?」
「へっ?」
関元様の焦ったような声に正気に戻る。
関元様の近くの床に座っていたはずの私は、少し離れたお兄さん達の隣で画面を食い入るように見ていた。
私、なにしてんの!?
関元様が近くにいるからって、さっきまでの警戒心どこへいった!
二次元(一部三次元)への愛が無意識に刷り込まれているというのかっ……!?
お兄さん達は私をドン引きした顔で見ていた。
「あはは。えっと……み、皆さんはこのゲーム好きなんですか?」
コントローラを手にしているお兄さん(虎刈り赤)が画面から目を離さないまま小さく頷く。
「あ、やっぱりそうなんですね!私もこのゲームが大好きで全クリしたんですよ!だからその同じ趣味の人がいてちょっと興奮しすぎたといいますか!嬉しくて暴走したといいますか!そんな感じで!このリアルなCGいいですよね!音響もじわじわ恐怖が来る感じがジャパニーズホラーらしくて大好きです!」
恐怖を誤魔化すためにゲームの良さを語るとさらにドン引きされた。
なんでっ!?
「……何度やってもこの先に進めねえんだけど」
でも虎刈り赤さんだけはドン引きしてなかった。
さっきから視線は画面から離れないままだ。
あ、この人同志(ガチ勢)だ!
どうしよう、すごく嬉しい!
しかもネタバレオッケーの人!
だったら全力でサポートいたしますとも!
敵の位置から出現タイミング、隠しアイテムに隠しルートもお教えしますよ!
「ここはですね!少し戻ったところにキーアイテムが落ちているんですよ!あ、そこです!廊下の隅の少し影になっていて見えにいくところ!」
私は嬉々としてアドバイスをしていく。
気分はカーナビである。
そんな私を関元様は初めて自転車に乗る子どもを見るような顔で見ていたなんてことは知らない。
虎刈り赤さんのコントローラさばきは見事だ。
向かってくる幽霊を引きつけてかわす姿はうっかり惚れてしまいそうだ!
私なんかに惚れられても嬉しくないだろうけどね!
「赤さん、かっこいいです!」
「赤さんって俺のことか?」
「はい!素晴らしいコントローラさばきです!感服です!」
私なんて足元にも及ばないぜっ!
弟子にしてほしい!
ただこのゲームは二人プレイが出来ないのが残念。
見てるだけでも楽しいけどね!
「ああ……」
虎刈り赤さんは驚いた顔をしながらそっけなく顔をそらした。
ちょっと悲しい……。
「なら次はこれをするか?」
そういって見せてくれたのは二人プレイが可能なホラーアクションゲーム。
とある生物研究施設に閉じ込められた主人公達が、襲いかかってくるゾンビ達を様々な武器で倒しながら、脱出するというストーリーだ。
「いいんですか!?やります!」
私はパブロフの犬のように頷く。
アニメとゲームと漫画とBLは三度のご飯よりも美味しい!
虎刈り赤お兄さんはコントローラを貸してくれた。
ほんとにやっていいんですね!
ああっ!
急所である、頭への正確な射撃が素敵です!
まさに一撃必殺!
虎刈り赤兄貴、一生ついていきます!
「高槻さんはゾンビが気持ち悪くないの?妹はそういうの大嫌いなんだけど?」
関元様の妹さんは勝手なイメージだけどガラス細工みたいに繊細そうな気がする。
あ、ロリータファッションとか似合いそう!
「そうでもないですよ?むしろこうしてずっと見ていると……可愛く感じますね」
ゆっくりとした動きとか、虚ろな目とか、だらしなく零れた内臓とかがなんか可愛く見えてくる。
「俺……高槻さんがわからない」
またドン引きされた!?
さっきからほんとになんで!?
お兄さん達とゲームを楽しんでいると背後から爆音が聞こえた。
え?
聞き間違いじゃなきゃ、今普通の教室の何倍も頑丈な音楽室の扉が壊れる音がしたんですけど……?
ゲームの弾丸のように飛び出してきたのは四分一様だった。
「憩!大丈夫?何もされてない?」
四分一様は勢いをそのままに私の元に来ると両肩を掴んで前後に揺らす。
あ、お兄さんは四分一様に気づいて道を開けて、避難してました。
気づいていたなら教えてくださいよ!
ちょっと四分一様落ち着いて!?
目が回ってお昼ご飯出ちゃうっ……!
「ちょっと正義やりすぎよ。それ死にかけてるわよ」
私を助けてくれたのは葉山様だった。
ありがとうございます。
「湊から話は聞いていたけどアンタほんとに捕まったのね。相変わらずどんくさいわね」
グサッと見えない矢で胸を貫かれた。
お兄様、オブラートに包んでください……。
私だって傷つくんですよ?
「お前ら……なにしてんだ?」
デジャブ!
向井様のお声に、部屋の空気が一気に氷点下を超えて絶対零度まで下がる。
部屋にいた人全員の視線が向井様に集まる。
そして怒りに染められた視線が私に向けられた。
たったそれだけで私の体は意思とは関係なく震え出す。
向井様の瞳は言葉よりも雄弁だった。
“今度は殺す”
蛇に睨まれた蛙が動けないのは、恐怖からだけじゃないって始めて知った。
ああ、今度こそ死ぬ。
向井様からの一瞥だけで、私は全てを悟ってしまった。
後編へ続きます。