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腐った乙女と俺様イケメン不良  作者: 真下地浩也
第一章  高校2年生3月
16/111

たかが鬼ごっこに本気ですか!?(最終日)

 ラスボスより隠しボスの方が強い。

 今朝は相当ひどい顔をしていたらしい。

 

 四分一様はお菓子をくださるだけではなく、頭を撫でてくださった。


 うん。四分一様は癒し系だ。

 もう全身からマイナスイオンを感じる。 


 四分一様が世界中にいたら戦争なんて終わるんじゃないかな?


 って、昼休みに加東先生にいったら納得してくれた。

 先生も四分一様の魅力をわかるんですね! 


 最後のメールは今までで一番短かった。


『今日は俺だよ』


 詐欺か!?ってツッコミは不粋だ。

 だって送信元が関元様だもの。


 むしろ詐欺だったらよかった……。


 今日もまた六時間目を抜け出して、生化学準備室へと向かった。

 目的は阿部先生にかくまってもらうこと。

 

 阿部先生とは恋バナ(一方的に質問責めにするだけ)をする仲だ。


 男である関元様が阿部先生を苦手なことを知っている。


 好きな人を見つけるとちょっと暴走する見た目は草食系なのに中身はガッツリ肉食系ってギャップ持ち!

 けど基本的には優しくて穏やかないい先生だ。


 昨日は向井様とどうなったのかも気になるし。


 でも向井様はすごく怒っていたから私が想像するような展開にはなってないんだろうな。

 かなり残念だ。


 両想いになってくださったら、私のことなんて忘れた向井様と阿部先生の二人のイケナイ関係を見られると思ったのに。

 

 あ、でも先生は噂とは違って生徒には手を出さない主義なんだった。


 あくまで鑑賞するだけなんだとか。


 さすがに手を出したら仕事がなくなるからって困った顔してた。


 しかも今同じ学校に好きな人がいるらしいけど誰なんだろう?

 今日こそは教えてくれるかな?

 

 辿りついて生化学室の扉を開けようとしたのに、扉が開かない。


「あれ!?開かない!?」


 何度も扉をゆすったり、他の扉を開けてみたりしても、全く開かない。

 今日は先生も学校に来ていたのになんで?


「授業をサボるなんて高槻さんは意外と悪い子なんだね」

 

 背後から聞こえてきた声に振り返えると予想通りの人がいた。


「せ、関元様!?どうしてここに!?まだ放課後は始まってませんよ!?」


 動揺のあまり声が裏返えってしまって恥ずかしい。

 

 でも本当にどうしてここにいるんだろ?

 始まるまで十五分くらいあるのに。


「そうだね。ところで今日の全クラスの授業を知ってる?」

 

 関元様はくすくすと小さく声を立てて笑った。

 同じ歳とは思えない上品な笑い方だ。


「え?知りませんけど……?」


 うちの学校は全クラスの授業の時間割がプリントして配られる。

 けど普通自分のクラスの時間割しか見ない。


 だから私は関元様の質問の意味が分からずに首を傾げた。


「今日は全クラスが特別教室を使わない日なんだ」

 

 私のクラスの生化学は座学だった。

 つまりそれは生化学室を使わなかったというわけで、片付けとかがないなら先生も近づかない。

 

 うちの学校は三つの棟がある。

 

 そのうちの二つは生徒と職員室のある棟。

 そして、私のすぐ側にある生化学室のように特別教室しかない棟。


 授業がないなら当然、教室も開いていない。


 関元様の距離は十メートルもない。

 少し足を出して、手を伸ばせば届く距離に私はいる。


 さらに二人の間には障害物になりそうな物も、鍵がかかっているから逃げ場所もない。


 たらりと冷や汗が頬を伝い落ちてきた。

 でもそれを気にしている余裕はない。 


「『チェックメイト』かな?」

 

 どこかで聞いたことのある決め台詞を関元様は口にした。

 前に一度見た目が笑っていない笑顔で。  


 心が落ち着く前に開始を知らせるチャイムが鳴った。


 私は何も考えずにただひたすらその場から逃げ出した。

 少しでも関元様から離れた場所に行かなくちゃ。


 頭の中はそれだけだった。

 意外なことに関元様は追いかけて来なかった。


 後で落ち着いた時に罠かと思ったけど、他の教室とかには何もなく。

 鬼ごっこが始まる前と変わらない、いつも通りの放課後の教室だ。



 おかしい。

 そう思ったのは残り時間が十分を切ったところだった。


 チャイムが鳴ってから関元様と“一度も”出会わなかった。

 最初の場所から動いていないのかと思って戻ってもいなかったし、他の教室を見ても誰もいなかった。


 私を捕まえる気がないとか?


 いやそれだったら私の行動を予測して、動揺させたのはなんだったんだ。

 それに『チェックメイト』って言葉。


 その通りの意味だとしたら『私の敗北』。

 なのに現状はどうだろう。


 関元様が私を追いかけている気配は全くない。

 

 自分の席で悩んでいる(開き直った)と下校時間を知らせるチャイムが鳴った。

 教室の壁掛け時計も下校時間を示している。


 私は机にへばりつくように倒れこんだ。 


 やっと、やっと……終わったんだ。


 たった五日。

 でも今まで生きてきた中で一番長く感じる日々だった。


 もう二度と同じ目に遭わないように気をつけよう。

 平穏に卒業できるまで今まで以上に空気になろう。


 関元様の言動が気になるけど、もう全部終わったからいいや。

 これで本当の意味で私は自由なのだ。


「大丈夫?」


 優しい声が頭の上から降ってきた。


「え?」


 聞き覚えのある声に思わず顔をあげたけど、涙でぼやける視界じゃ何も見えない。 

 

 あれ?

 私、いつの間に泣いてたんだろう?


 眼鏡を外して、ハンカチで涙を拭いた。

 キャラハンカチじゃなくて普通のハンカチを持ってきていてよかった。


「なんか泣いていたから声かけたんだけど余計なお世話だったかな?」


 少し困っているのが見えなくてもわかって、慌てて頭を下げた。


「い、いえ!ありがとうございます。大丈夫です!これ嬉し泣きですし!」


 いやほんとに。

 これで元の生活に戻れると思ったら嬉しくてたまらない。


「それならよかった。立てる?」


 視界の端に差し出された手が映った。


「いえ!大丈夫です!一人で立てます!」


「いいからいいから。ほら、ね?」


 お兄さんはコテっと首を傾げる。


 可愛い仕草と見た目のギャップに心臓を射抜かれた。


 何このお兄さん!?

 あざと可愛いすぎる!


「あ、ありがとうございます……」


 差し出されたお兄さんの手を取って立ち上がる。 

 恥ずかしすぎて顔があげられない。


 え?これ夢じゃないよね?

 起きたら『まだ鬼ごっこの途中でした』とかじゃないよね?


 見た目通りすべすべで綺麗だけど男らしい大きな手だ。


 受けもいいと思ったけど、このお兄さんなら攻めもイケる!?


 こんな綺麗な手で口ではとてもいえないようなあんなところやこんなところを撫でられたら、感じられずにはいられないだろう!


 丁寧な優しい口調で淫らな言葉でも攻められながら、感じる受けくん!

 ああ、鼻血が出てきそう!


 妄想にふけっていると掴んだ手を引き寄せられ、お兄さんの腕の中に閉じ込められた。


「ん?」


 距離が近づいたことで柑橘系の香水のようないい匂いがふわりと香った。


 あれ?

 この匂いどこかで嗅いだことのあるような?


 あとどうしてお兄さんに抱きしめられているんだろ?


 子供を抱きしめるような優しい感じじゃなくて、まるで私が逃げないように捕まえたような……?


「つかまえた」


 上から降ってきた声が答えをくれた。


 つかまえたって……まさか!


「ごめんね、高槻さん」


 壊れたロボットのようなぎこちない動きで顔を上げると、ほんとに申し訳なさそうな顔でお兄さん。

 いや関元様は謝ってくれた。


 こんな至近距離でよく気づかなかったな、私!?

 

 でもなんで?

 もう鬼ごっこは終わったはずじゃ?


 私の疑問をかき消すように“二度目のチャイムが鳴った”。


「校内の時計を十分早めて、下校時間の放送を二回に設定したんだ」


 関元様は私にスマホを見せてくれた。


 時刻は六時を指しているのに、壁掛け時計は六時十分を指していた。

 

 私は今までずっと騙されていた。


 鬼ごっこは“私の負け”。

 負けた時の条件は『向井様の好きなようにする』


 これから私はどうなるんだろ。

 考え出したら悪いことばかり浮かんでいく。


 私は前にいっていた通りに半殺しにされるんだろうか?

 

 無視されたり、嘲笑されるのは何とも思わない。

 でも痛いのはきっと耐えられない。


 怖いことは嫌いだ。


 止まったはずの涙がまた溢れだした。


「え?高槻さん、もしかして泣いてる?」


「ごめ、な、さい……」


 嗚咽が絡んで上手く言葉にならない。


 拘束が緩んだ隙に腕を突っ張って関元様から距離を取る。

 

 関元様はそれ以上何もしない。

 

 二人だけの教室に私がすすり泣く声だけが響いた。


 月曜が怖い。

 もう一度、向井様のあの殺気を浴びせられて、暴力を振るわれるのなら二度と来なければいいのにと思ってしまう。

 

 腐っていても私は女だ。

 口喧嘩以上のことをしたことがないのに殴られるなんて恐怖しか湧かない。


 あの日、私が絵を落としたことがこんなことになるとは思わなかった。

 

 拾いに行かなければよかった。

 あんなものいつでも描ける。


「……高槻さん」


 沈黙を破ったのは関元様だった。

 信じられないと思うけど、と前置きして言葉を続ける。


「負けたら拓哉の好きなようにするって条件だけど、高槻さんに無理させるようなことはいわせないし、させない。だから俺を信じてほしい」


 予想外の言葉に涙も引っこんでしまった。

 

 え?無理なことって殴られることも含まれますか?

 

「俺さ、妹がいるんだ。一つ下の涼と同じ年。その妹が高槻さんと似ているんだ。見た目じゃなくて雰囲気とかそういうのがなんとなくね。だからちょっとこのまま放って置けないなと思った」


 私に似ている妹さんというのが想像できない。

 でもその気持ちは理解できる気がした。


「私も、同じです。一つ下ですけど、弟がいます。その弟が同じ目に遭っていたら多分私も同じことを考えたと思います」


 私は関元様のように出来た人じゃないから似た人だからって助けられない。


 けど家族が同じ目に遭っているって聞いたら多分何も考えずにつっこんでいってしまうと思う。


 うっとおしいと思うこともあるけど、それ以上に私は家族が大好きなんだ。

 多分、関元様も同じなんだろう。


 少し嬉しくなって笑ったら、関元様は驚いたように目を見開いた。


「ごめん。それにありがとう」


 申し訳なさそうに笑ったのは罪悪感があるからかな。


「そう思うなら私を助けてください」


 少し調子に乗って関元様に大胆なことを頼んでみた。


 関元様には悪いけど向井様と対峙するなら力はいくらあっても足りないからね。


「俺に出来る範囲でなら喜んで」


 肩をすくめる姿がやけに様になっていて、おかしかった。

 普段向井様の無茶振りに付き合っているからかもしれない。


 声を上げて笑い出した私につられて関元様も笑い出す。


 問題は何も解決していないのに、なんとなくどうにかなってしまうような気がした。

 

 本当に何も解決してませんね(笑)

 むしろ悪化してます。


 

 

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