表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腐った乙女と俺様イケメン不良  作者: 真下地浩也
第四章  高校3年生6月
110/111

高校イベントといえば文化祭ですか!? その13

 蓮の暴力表現があります。苦手な方は該当部分を飛ばしてください。

 葉山様が出るなんて聞いてませんよ!?


 まさかまさかドッキリで教えてくださらなかったとか?


 ちらりと横目で葉山様を伺うと、見たことないくらいの殺気を出しながら、アキラ様をにらみつけている。


 ……見たことを全力で後悔するご尊顔でした。


 好奇心は猫をも殺すって本当かも知れない。


 どうやらアキラさんのムチャぶりみたいですけど、葉山様はどうなさるおつもりんなんでしょう?


 名指しされてしまった以上、無視することは出来ませんが、だからといって、モデルの葉山様がアキ様やシン様と一緒にイベントをやるなんて想像もつきません。


 黄色い声や期待の視線が集まる中、葉山様は溜め息を一つ吐くと、ゆっくりと覚悟を決めるように立ち上がりました。

 

 そして葉山様は『後で覚えてろよ』と声に出さずにいって、ステージに向かっていきました。


 正しく意味を理解した、アキラ様は笑顔をひきつらせています。


 けれど私には自業自得みたいな気がする。


「さてさて長澤さん、永崎くん。主役がそろったところでさっそく初めてもいい?」


 アキラ様が二人にウィンクを飛ばしました。


 黄色い声の音程がさらに高くなった。

 

 さすが人気モデルですね。ウィンク一つで会場のボルテージが上がりましたよ。


「主役じゃないのが一人混じっているけど、時間がもったいないので始めてください」


「それってもしかして僕のこと!?」


 葉ちゃんと長澤くんが舞台袖に去っていく。


 ほんと葉ちゃんぶれないね!

 永崎くんは苦笑してしまっていたけど。


 その間に定位置についた四人。


「仕切り直して!それでは今日限りの特別四人組ライブ Love Life Itself 始めます!最初はこの曲!」


 コホンとアキラ様が咳を一つして、音楽が始まった。


 それから先は一つのアーティストグループとしか思えないライブだった。


 アキ様とシン様は歌いながらダンスを、葉山様とアキラ様はダンスだけだった。


 でも、どの曲も一日や二日で踊れるようなダンスじゃなかった。


 頭の先から靴の先まで流れるような動き、なのに一曲で疲れてしまいそうなほど激しいダンスを、四人で息を合わせて踊っていた。

 

 葉山様は一度も笑わなかったけど、射抜くようなギラギラした鋭い視線に目を奪われた。


 モデルの仕事が忙しくて、ちゃんと学校にも来られない葉山様はいつ練習したんだろう?


 きっと寝る時間も削ったんだろう。


 最高の時間のはずなのに、頭の片隅でさっきまで隣にいた葉山様をテレビの向こう側にいる芸能人のみたいだと思った。 




 アンコールの曲も終わると葉山様とアキラさん、アキ様やシン様達がステージから降りていった。


 この後に行われるサイン会のために移動するんだろう。


「……おい、行くぞ」


 向井様は私を見て一言そういって立ち上がった。


 葉山様が戻ってないのにどこに行くんですか?


「珍しく蓮がキレてるから高槻さんも止めに行こう」

 

 関元様が困ったように苦笑していた。


 え?葉山様がキレてる? 

 

 確かにステージに上がる前は『後で覚えてろよ』っていっていたけど、終わった後はいつもの顔してましたよ?

 

 疑問に思いながらも向井様達の後を追いかけた。  


 四人はステージから離れた人目につかない場所にいた。


「アキラ、テメエ調子に乗ってンじゃねえぞ!」


 普段の葉山様からは想像も出来ない大きな怒声がそこから発せられた。


 そして、そこらのモデルよりも長くて綺麗な脚から、しなやかな鞭のような蹴りがアキラさんに向かって放たれる。

 

 アキ様が驚いて止めようとするも間に合わなかった。


「うぐっ!?」


 葉山様の膝蹴りがアキラさんの腹部へ埋まるように刺さった。

 

 そしてアキラさんはその場に崩れるようにお腹を抱えて膝をつく。


 葉山様はアキラさんに追い討ちをかけることはしなかった。


 ただとても冷たい目で見下ろす。


「モデルとして人気があって、仕事でこの二人とも親しくなって、社長にも気にいられて。天狗になる気持ちはわからなくもない。だからって俺を巻きこむな」


「お前がこういう風なのが嫌いだってことは知ってる。だけどさ、上手いったからいいじゃん」


 アキラさんは勇者ですか!?


 あんなに分かりやすくキレている葉山様に対して、いいわけするとか死亡フラグしかないですよ!?


「上手くいった、だ?テメエの頭は何も詰まってねえのか!今回はたまたま上手くいっただけだろうが!それをテメエの手柄みてえにいってんじゃねえぞ!」


 ああ!?やっぱり!?すっごく怒ってらっしゃる!


 むしろアキラさんを蹴ってちょっと収まっていた葉山様の怒りにガソリンをぶちこみましたよ!?

 

「俺のダンスの練習に付き合ってくれって嘘ついて練習したんだから上手くいかないわけがない」


 ア、アキラさんはどうしてそんなに葉山様を煽るんですか!?


 人と場所と時を選びましょうよ!?


「やっぱりそれも嘘だったのかよ。俺を騙してダンス仕込んで嫌いなステージで躍らせて、テメエはそれで満足か?もし失敗していたらこの二人の名前に泥を塗ってたってのによ。いつもテメエは誰よりも自分勝手で最低な野郎だな」


 葉山様はアキラさんをあざけるように笑う。


 突然、自分達のことをいわれたアキ様とシン様は驚いたように目を見開いた。


 確かに葉山様のいう通りだ。


 もし今回のライブが失敗していたら葉山様やアキラさんだけじゃなくて、共演していたアキ様とシン様も悪くいわれていたかもしれない。


 普段の飄々としている葉山様からはわかりにくいけど、仕事に対して真剣だからこんなに怒っているんだ。


「……そうだよ!俺は誰よりも自分勝手で最低な野郎だ!それはアレンだって知って……っぐ!」


 開き直ってような態度をとってアキラさんに対して、葉山様は容赦なくその頭をハイヒールで踏みつけた。


「知ってたがここまで酷いとは思わなかった。次はねえからな」


 葉山様はそういってアキラさんから脚をどけて、背を向けた。


「拓哉、悪いけど先帰る」


 それだけ伝えてここから立ち去っていった。


 何ともいえない暗い雰囲気を残して。


 えっと……この雰囲気どうしたらいいんだろ。


 アキ様とシン様も困ってるし……。


 そんな雰囲気をぶち壊したのはアキラさんだった。


「……っはあ!マジでキレたアレン超怖かった~!腹蹴ってきたり、踏んでくるとか俺がМに目覚めたらどうすんだっての!責任取ってくれんのかねえ?」


 アキラさんはけたけたと一人で笑いながら、体や服についた土を払いながら立ち上がった。


 葉山様にあんなに怒られてたのに、どんだけ神経が図太いんですか?


 ワイヤーで出来てるんですか!?


 アキ様はそんなアキラさんを見て溜め息を零した。


「ちったあ反省してるかと思ったんだけど、ぜんぜんじゃねえか。アレンくん?だったか?そいつが可哀想だぜ」


 アキ様、私も同じことを思いました。


「フォールのいう通りだね。アキラくんって本当に性格悪いよね。君のためにあんなに真剣に怒ってくれる人ってそうそういないのに。でもこのままアキラくんのことを嫌いのままの方がアレンくんにとってはいいよね」


 シン様ってほんとにアキ様以外どうでもいいんですね。

 それともアキラさんが嫌いなんでしょうか?


 どちらにしてもすごい毒を吐いてますよ


「二人ともひどくないっすか?だけどアレンはあれで面倒見がいいっすから多分モデルをしている間は俺のこと見捨てないっすよ」


 アキラさんの顔が少しだけ曇る。


「拓哉さん達も見てて気分悪かったでしょ?巻きこんで悪かった。アレンにはちゃんと謝るから気にしないで」


 でも、見間違いかと思ったくらいアキラさんはすぐに笑顔に戻った。


 その後は文化祭を見て回る雰囲気にならず、そのまま向井様達に送られて家に帰った。


 明日の準備を終え、後は寝るだけとなったベットの上で、今日のことを思い出した。


 終わった瞬間の圧倒的な大作の映画を観たみたいな余韻に、これが『本物(プロ)』の演出だと悟った。


 仲良くなったつもりだったけど、やっぱり葉山様はちっぽけな私とは全然違う世界の人間だ。


 そもそも仲良くなったなんて、最初から距離は変わってない。


 どうやら私はちょっと調子にのっていたみたい。


 最初から向井様達との関係は高校を卒業するまでって話で、それから先も続くだなんて痛い妄想は止めよう。


 今日は葉ちゃんの誘われてよかったなあ。

 おかげで一生分の思い出ができたよ。


 私は笑顔で目を閉じた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ