高校イベントといえば文化祭ですか!?その11
(多分この作品で一番)性悪な彼の再登場(笑)。
リョーヘイ様、シン様、アキ様から別れ際に連絡先までいただいてしまった。
誤解がないようにいっておくけど、最初は全力で断ったんだよ!?
なのに。
『シンに一目惚れしない、本性を知ってもドン引きしない貴重な人』
という、御三方の意見の一致でなぜか押し切られてしまった。
お二人のファンならドン引きなんてしませんよ!
むしろもっとやれ!!って感じです!
このスマホ、絶対に中身を見られたり、落としたりしないようにしなきゃ。
どんな風に悪用されるか、ちょっと考えただけでも恐ろしすぎる。
「憩ちゃん、どうしたの?」
ゆーくんが少し身を屈めて、顔を覗きこむ。
それまで考えていたことを止めて、ゆーくんと視線を合わせる。
「考えごとをしてただけだよ。それより楽しみだね。大人気新人歌手って誰だと思う?」
ゆーくん達と再会するまでに思ったよりも時間がかかり、今日の一大イベント『大人気新人歌手の生ライブ』が始まるまでほぼ時間がなかった。
だが、諦めかけた私をゆーくんが背負って全速力で会場の体育館へ走り、その後を向井様達が追いかけるという感じで、なんとか開演に間に合った。
私を持ってくれたゆーくんもだけど、向井様達も走らせてしまって申し訳なかった。
でもありがたかったので謝罪とお礼をしたら。
『憩ちゃんのためなら俺はなんでもするよ』
と、加糖二百パーセントのゆーくんの笑顔。
うん。今日もゆーくんの優しさが心にしみる。
ゆーくんの優しさはいくらでも話せるけど今回はこのくらいにして、別の機会で話そう。
そもそも例年の文武祭では芸能人のイベントはなかった。
だが今年は有志達(葉ちゃんが中心だったとか)が学校側を説得。
さらにその芸能人と在学生が知り合いで伝手があり、ダメ元で出演依頼をしてみたところ、信じられないほどの格安で了承をもらえたらしい。
さすが葉ちゃん。
本気出した時の勢いは誰にも止められない。
っていうか、芸能人の知り合いがいる在校生もすごい!?
どこで知り合ったんだろう。
そして今回出演してくれるのは『大人気新人歌手』らしい。
私は芸能人(声優さんとかアニソン歌手とか一部の人は除く)にあまり興味がなくて知らない。
だから、葉ちゃんに出演する歌手のことを聞いたんだけど答えてくれず。
むしろいたずらっぽい笑顔で。
『来てみればわかるぜ。むしろ来なかったらいっちゃんは一生後悔すんぞ』
といわれてしまった。
そんな風にいわれたら、気になって行きたくなるよね!
葉ちゃんが一生後悔するなんていうのは、よっぽどのことだし!
きっと超美声の歌手なんだろうなぁ。
天気のいい今日のイベント会場は校庭。
客席は用意された椅子では足りず、立ち見客もかなり多い。
客席より一段高いステージの左右には巨大なスピーカー。
運よく真ん中、前方の席がもらえて今からわくわくが止まらない。
大人気新人歌手ってどんな人なんだろう!
会場に張られた左右の幕から葉ちゃんと男子生徒が一人現れる。
二人はステージの真ん中に立つと視線を合わせて軽く頭を下げる。
「こんにちは!!今から午後の部最初の“大人気新人歌手のライブイベント”を始めます」
葉ちゃんの声に会場中がざわついた。
「司会は放送部部長の長澤葉と」
「同じく放送部副部長の永崎陽太が務めさせていただきます。
どうぞよろしくお願いいたします」
二人がもう一度頭を下げると会場のざわめきはさらに大きくなった。
え?イベントが始まることへの期待でざわついた?
いえいえ、多分、理由は別のこと。
それは、男子生徒こと永崎くんが兎のお面を被っていたことと。
永崎くんの声が“女の子”にしか聞こえないほどかわいかったこと。
葉ちゃんが“男”にしか聞こえない地声で話していたこと。
それらが三つが原因だと思う。
二人とも制服姿と声が逆じゃない!?
って、会場中がつっこんだ。
向井様達も驚いたのか、ぽかんと目や口を開いちゃってる!
葉ちゃんの地声は知ってるけど、永崎くんの地声は知らない。
でも、どう見ても今流行りの男装女子じゃないんだよねえ。
男子平均身長より少し高くて細身だけど、しっかり喉仏もある。
名前も男の子っぽい。
いや、声的には男の娘っぽいけど!
歌のお姉さんの声をちょっとロリっぽくした感じの、甘すぎない透き通ったかわいい声だけど!
二人は両生類……いや、性別を間違えて生まれてしまった系か!
どちらの声も魅力的でついつい聞き惚れてしまうよ!
二人とカラオケに行って、ずっと歌を聞いていたい!
……コミュ障だから永崎くんとは話せないけどね!
「ではさっそく大人気新人歌手の」
「ちょっと待って!」
ゲストを呼び出そうとした葉ちゃんを、少年と青年の間のような声がさえぎった。
自然と視線が声のした方へ集まる。
ざわめきがさっきとは比べ物にならないほど大きなものへ変わっていく。
「進行を邪魔したのはだれですか?名前を教えてください」
永崎くんが声の主に聞く。
彼はもったいぶるようにゆっくりと立ち上がり、ステージの階段を上る。
「そうだね……。ならあえてこう名乗ろうかな。僕の名前は“アキラ”だよ」
全身が見えた瞬間、黄色い(特に十代から二十代の女の子の)声が爆発的に響いた。
そんな中で、彼は猫みたいににんまりと笑った。