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腐った乙女と俺様イケメン不良  作者: 真下地浩也
第四章  高校3年生6月
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高校イベントといえば文化祭かな?

 湊視点です。


 最初から最後までシリアスです。

 高槻さんの友達の誘いで清駿高校の文化祭に参加した。


 こういう学校行事に参加したのは小学校以来だろうか。


 校門で教師と少し揉めたが、その後はどことなく懐かしい気分で、模擬店をまわっていく。

 

 途中で正義の食事量に高槻さんも筧も長澤さんも驚いていた。


 見慣れた俺達だけど見ているだけで胸焼けがする。


 正義の成長期はまだまだ終わりそうにない。


 だが何事もなかったのは午前中だけだった。


 昼過ぎに蓮のファンに見つかったのだ。


 同年代が多いからばれるかもしれないとは思っていたが、予想以上の人数に筧ですら引いていた。

 

 一応、蓮はファンにばれないように顔がわかりにくい服装をしている。


 でもその程度の変装ではファンの目をごまかせなかったようだ。


 ロボット研究会の展示場から出た瞬間に、次々に黄色い声が上がり、近くにいた女が出入り口を取り囲んだ。


 続いて聞こえたスマホのシャッター音。


 まるでマスコミに囲まれた時と同じだ。

 口々に甲高い喚き、耳が痛い。


 蓮はいつもこれを相手にしているのか?


 と、思っていたら拓哉も話しかけられていた。


 眉間のしわが見えなんだろうか?

 自殺志願者はどこにでもいるらしい。


 人数が多すぎて教室の外に出るにしても出られない。


 仮に出られたとしてもこの集団に付きまとわれるのは目に見えている。


 どうすればいい。


「このままじゃもっと騒ぎになる!いったん中に戻るぞ!」 


 中心部から長澤さんが声を張り上げる。

 やや低めの声はよく通った。


 確かにここは一端教室に戻った方がいいだろう。

 

 このままここにいたら、拓哉か、涼か、筧がキレて手を出しかねない。


 玄博高校ならば日常だが、清駿高校では警察沙汰になる。

 誘ってくれた長澤さんにも悪い。


 それなら椎葉くん達には悪いが、騒ぎが落ち着くまでかくまってもらうか。


「ちょっと待って!憩ちゃんがいないよ!」


 焦ったような筧の声。

  

 いつの間にか高槻さんがいなくなっていた。


 あの集団の外にいるかもしれないが、小柄だからか姿が見えない。

 

「んなこといってる場合じゃねえだろ!見ろよ!拓様とりょーちゃんの顔!今にも殴りかかりそうだぞ!」


 正義がこっそりと二人の襟を掴んでいるが、キレたらそれでは止められない。


「そんなの嫌だ!俺は一人でも憩ちゃんを探しに行く!」


 無理やり先に進もうとしてるが、多勢に無勢だ。


「そんなこといってる場合じゃないだろ!まーさん、ゆーゆー確保してくれ!」


 長澤さんが叫び、正義が二人から手を離し、筧を後ろから羽交い絞めにした。


 俺と蓮は目配せて、拓哉と涼が手を出さないよう側に移動する。


「離してよ!俺は憩ちゃんを」


 さすがの筧でも正義に力で敵わずに、教室の中に引きずられていった。


 その後に蓮と涼、拓哉が続き、女の子達が入る前に扉を閉める。


 しばらく扉の前が騒がしかったが、出てこないとわかったのか自然と人が引いて行った。


 高槻さんを残して扉を閉めたことを涼と筧は許せなかったようで、二人とも不機嫌そうな顔を隠そうともしない。


「これからどうすっと?」


 気まずい雰囲気を壊したのは椎葉くんだった。


「とりあえずいっちゃんと合流するか」


 長澤さんはポケットからスマホを取り出す。

 高槻さんと連絡を取るのだろう。


 筧は無言で立ち上がり、扉へと向かう。


「どこ、行くの?」


 正義は筧の服の裾を掴んで、引き止めた。


「憩ちゃんを迎えに行くに決まっているでしょ。邪魔しないで」


「闇雲に探しても疲れるだけよ」


「俺と憩ちゃんは相思相愛だからすぐに見つけられる」


 筧がそういうと冗談に聞こえない。


「ダメだな。マナーモードにでもしてんのか、繋がんないわ。しょうがねえから三つに分かれて探すぞ。二時までに見つからなかったら体育館に集まるってことでどうだ?」


 長澤さんはやれやれと肩をすくめた。


「なんで体育館なのよ。その時間に何かあるのかしら?」


「そこでいっちゃんの好きな歌手のライブがあるんだ。だから這ってでも体育館に行くはずだ」


 高槻さんにどれだけ好きなんだと聞きたくなった。


「それでいいんじゃないかしら」


「拓様と蓮兄貴とりょーちゃんはここで待機。ゆーゆーとまーさんは一階から順に、俺とみーさんは三回から探すぞ」


「なんであんたがしきってんだよ!俺も姐さんを探しに行く!」


 涼が長澤さんに噛みついた。

 

 あれだけ高槻さんに懐いているんだ。

 探しに行きたい気持ちはわからなくもない。


「いやまたさっきの集団が来た時に蓮兄貴だけじゃ危ないだろ。いろんな意味で」


 “いろんな意味”に涼は言葉を詰まらせた。


「先にいっちゃんがこっちに帰ってくるかもしれないしな。じゃあそういうことで頼んだぞ」


 長澤さんは無理やり終わらせて、教室を出て行った。



 そういって拓哉達と別れたのが数十分前。

 まだ高槻さんは見つからない。


「みーさんはいっちゃんのことどれだけ知ってる?」


 何の脈絡もなく長澤さんは聞いてきた。


「逆に聞くけど、長澤さんは“俺達のこと”をどれだけ知ってる?」

 

 この答え一つで俺のいえることが変わってくる。


 もし長澤さんが俺達のことを何も知らず、噂話程度しか知らないというのなら、いえることはほぼない。


「それは拓様がやくざの息子ってことか?それとも蓮兄貴が人気モデルだってことか?それとも……みーさんが中学時代野球部だったってことか?」


 一瞬、息がつまった。


 忘れたくても忘れられない記憶がよみがえる。


 長澤さんはそんな俺を射ぬくように見つめて続けた。

 

「特にみーさんは野球部で問題を起こしたんだろ?俺といっちゃんが通ってた中学にまで、気にくわない先輩を半殺しにしたって噂が広がってたぜ」


 長澤さんは俺の噂話のほとんどを知っていた。


 どこ学校も野球部の人数は多い。

 おそらくそこから漏れたんだろう。


 特に俺が通っていた中学は当時、優勝候補校と噂されるほど強かった。

 

「まあ、んなこと俺には関係ねえけど」


 重い話を長澤さんは明日の天気を聞いた後のような軽い調子でそういってのけた。


「……簡単に暴力を振るうやつが怖くないの?」


「おいおい、何をいってんだよ?俺は魔法も剣も使えねえんだぜ?暴力とか怖いに決まってんだろ」


「だったらなんでこいつらと一緒にいても平気なの?」


「そんなのみーさん達がいっちゃんの友達だからに決まってんだろ」


 ……高槻さんが俺達を友達だと思ってる?


 いやそんなはずがない。


 理由はともかく、俺達は高槻さんを脅した。


 だから高槻さんはよく楽しそうに笑っていても、どこか俺達に対していい感情を持っていない。


「いっちゃんから聞いてるかも知れないけど俺は中学で会ったんだ。昔からこんな性格だったから女友達がいなくて、男友達の方が多かった」


 だけどさ、と長澤さんは二階の廊下の窓から中庭を見下ろした。


 視線の先には清駿高校の生徒や教師、客達がそれぞれ楽しげな笑顔を見せている。


 俺達が輪の外でいつも見ていた光景だ。


 自業自得だといわれればそれまで。

 確かに俺達はやってはいけないことをした。


 だが本当に全てが全て自業自得だったとはいいがたい。


 それぞれ事情があって、こじれても自分じゃどうしようもなくなって、こうなってしまった。


 特に拓哉は生まれた時から一人だったのだから。


「だけどさ、中学生になったら男は男と、女は女と。なんて意味不明で理不尽な不可視ルールが出来ちまってた。ただ少し話しただけで色目使ってるだとか、ぶりっ子だとかもいわれたし、仲の良かったやつらもよそよそしくなってった」


 そういえば中学くらいから男女の壁が出来た。

 俺は昔から男ばかりと過ごしていたから大して変化はなかった。

 

 だが、長澤さんはそうではなかった。


「そうして一人で過ごしていたら、集団が強くて、平等な多数決原理っていう数の暴力で俺の意見はすべて無視されたり、やりたくないことをやらされたりしたし、反抗すればたちまち悪役にされた。

 学校ってなんてつまらねえ場所だって本気で思ってた。いっちゃんと出会うまでは」


 長澤さんの瞳の奥が陰っていく。


「いっちゃんも俺と一緒だった。いや……俺よりも酷かった。

 いっちゃんは存在がうざいってわけわかんねえ理由で虐められてた。


 私物は全部ぼろぼろで使えるかもわからない。いつも制服で見えない場所は傷だらけ。それでも、いっちゃんはこういったんだ」


『こんなの大したことないよ。だから気にしないで』


「まるで何もないところでつまづいたのを見られたみてえに苦笑いしたさ。最初は強がっていってんのかと思ってだけど、違うって気づいた」


 見ていないのに、高槻さんが笑っているのが思い浮かんだ。


「いっちゃんは自分をいじめるやつらも、見て見ぬふりをする教師や他のやつらも、自分すらも“どうでもいい”って思ってる。

 

 だからいっちゃんはくそったれな学校生活でも当たり前の平凡な日常だった。


 けどさ、そんなの見てられねえだろ?


 俺はいっちゃんのことを大事な友達だと思っているのに、いっちゃんは自分のことを大切に出来ないんだ。その気になれば何の未練もなく簡単に命を捨てられる」


 固く握られた両手は当時のことを思い出してか、力んで白くなっていた。

 

「みーさん達にお願いすることじゃねえかも知れない。けど俺じゃダメだった。もし、みーさん達が本当ににいっちゃんを友達というんなら……いっちゃんを“変えてくれ”」


 長澤さんのまっすぐな突き刺さるほど真剣な視線。


 最初から長澤さんはこれをいいたくて、俺を指名したのか。


 本当に高槻さんを大切な友達だと思っているのがよくわかる。

 だからこそ俺の本気で答えるべきだと思った。

 

「……長澤さんの信頼は嬉しいと思う。けど俺は誰かを変えられるような人間じゃない」


 俺はキレたら暴力をふるうことを躊躇しない人間だ。

 

 そんなやつが誰かの価値観を変えられるとは思えない。


「……そう、だよな。こ、こんなこと頼まれても困るよな。悪い。聞かなかったことに」


「だけど、守りたいと……いや守るよ。いっちゃんとも約束したからね」


 両手を緩めて力なく笑う長澤さんの言葉を遮って、宣言した。


 俺は暴力をふるうことしかできないけれど、それでも守れるものがあると思いたい。


 それは多分、純粋な友情じゃなくて、高槻さんに妹の姿を重ねているんだとわかっている。


 ただの自己満足だ。


 それでも俺は、また大切な誰かが目の前で傷つけられるのは耐えられないんだ。



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