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腐った乙女と俺様イケメン不良  作者: 真下地浩也
第一章  高校2年生3月
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たかが鬼ごっこに本気ですか!?(二日目)

 主人公のストライクゾーンは海よりも深く、空よりも広い。

 変態サディ……保健医の加東先生のおかげで少し元気になった。

  

 この勢いで放課後も乗り切るぜ。

 

 放課後のチャイムが校舎に鳴り響く。


 いざ!いかん!

 我の自由のために!


 意気込んで教室の扉に向かって歩く。


 右よし、左よし、もう一度右よし。

 さて廊下へ。


 でも私の出鼻は茶色の馬の被り(マスク)をした巨人にくじかれた。


 首から上が覆われていて誰だかさっぱりわからない。


 もしかして私が知らないだけで今日は仮装の日かな?


 いっけな〜い、私ったらなんの準備もしてない☆


 顔に御札を貼ってキョンシーの仮装でもしようかしら?


「高槻憩?」


 お馬さんが口を開いた。

 低いくぐもった声だ。


 いきなり呼び捨てだなんて普通の学校だったら、馴れ馴れしいと思うけど、この学校では普通のことだ。


 年上だろうが年下だろうが自分よりも弱ければ、タメ口、呼び捨てが基本。


 いやそもそも敬語をまともに話せる人の方が少ない気がする。


 それより中は苦しくないのかが気になる。


「そうですが、あなたは誰ですか?」


 お馬さんは答えてくれない。

 え?そっちから聞いたのに無視?


 でもお馬さんは私を見つめ続ける。


「私に何か用でもあるんですか?」


「捕まえたらうまい棒十袋くれるっていわれた」


 このお馬さんは探し物をしていたらしい。


 全く。そうならそうとはっきりいってほしい。

 驚き損だ。


 うまい棒って一本十円のあれだよね?

 この人……百円で買収されたの?


 安いというか、人がいいというか。

 将来が不安になる人だ。


「何を捕まえるんですか?私も手伝いたいところなんですけど、今忙しくて。見かけたら声かけますよ?」


 こうしている間にも四分一様が私を探している。

 一刻も早くここから逃げなくては。


「見つけた」


「え?」


 辺りを見渡してみてもそれらしいものはない。


 お馬さんはゆっくりと私を指差していった。


「“高槻憩(さがしもの)”」


 お馬さんじゃなかったーっ!?

 この人は四分一様だぁあああ!


 私も私でこの学校には背が高い人はたくさんいるけど、四分一様ほど高い人はそうそういないってのに、よく気づかなかったな!


「し、しし、失礼します!」 


 私は慌てて体を反転させ、走る。


 入院コースは嫌だぁあああ!


「ダメ。待って」

 

 四分一様は馬の被り物をしたまま私を追いかけてくる。


 何この状況。いろんな意味で怖い。


「ごめんなさい!無理です!」


 私の学生生活だけじゃなくて人生と家族がかかっているんです!


「どうして?」


「だって怖いじゃないですかあ!」


 怖いお兄さん達に囲まれたこととか毎晩夢に見てるんですよ!

 捕まったらどうなるかなんて想像もしたくない。


「拓哉が?俺が?それとも皆が?」


 怖い人はたくさんいる。

 でも今一番怖いのは。


「向井様に決まっているじゃないですか!あ……」


 しまった!

 いってはいけないことを関係者にいってしまったー!


 どうしよう……また死亡フラグを自分で立てたよ。

 馬鹿だ、私。


「本当に俺のこと怖くない?」


 四分一様は私を追い越して前に立ちはだかる。

 背が高い分、足も長い。


 私は足を止めて、四分一様を見上げた。

 いつでも逃げられるように重心を後ろに置く。 


 長身を屈めて、ぐっと顔を近づける。


 妙にリアルな馬が私の目にドアップで映し出される。


 ヤバイ。視覚の暴力ですやん。

 四分一はんが笑わせに来とるで。


 笑ってる場合じゃないのに笑いがこみあげてくる。


 怖すぎて無意識に現実逃避をしているのかもしれない。


「……こうして話すだけなら別に怖くないです」


 むしろシュール過ぎてだいぶ面白いですよ。

 今も笑いをこらえるのに必死ですから。


 なんて流石にいえない。

 私も馬鹿じゃないよ。


 でもそろそろ表情筋と腹筋が辛いから少し離れてほしい。


「うまい棒」


 少しだけ距離を取った四分一様がぽつりといった。


「へっ?」


「もう一つの探し物。加東先生から持ってるって聞いた」


 あっ!そういえば昼休みに加藤先生からうまい棒をもらったんだ。


「これ四分一様のだったんですか!?私なんかが持っててすみません!」


 私は慌ててポケットからうまい棒を取り出して渡した。


 押しこむように入れていたから角が少し崩れているかもしれない。


 それでも四分一様は受け取ってくれた。


「様とかいらない。同じ年だし正義でいい」


 私が四分一様を名前呼び?


 ・・・・・・・うん。これは冗談だね。 


 ノミ虫にも劣る私ごときが四分一様を呼び捨てだなんて恐れおおすぐる。 


「そんな名前で呼ぶなんてできませんよ〜」


 私はヘラヘラとした笑顔を浮かべる。


「できる。呼ばないと今すぐ捕まえる」


 正に有言実行。

 四分一様は密かに離れていた私との距離を詰めてきた。


 マジですか!?


「えっ!じゃ、じゃあ正義さんで!」


 叫ぶように四分一様の名前を呼ぶ。


「ん。及第点」


 四分一様は少しだけ不満げな声をしながらも距離を詰めるのをやめてくれた。


 バレないようにこっそりと息をつく。

 

 四分一様は行動の予測が出来ないから向井様とは違う意味で心臓に悪い。


「飴は嫌い?」


 四分一様は子どものように首を傾げる。


 ちょっと可愛いなあと思った。

 ギャップ萌え。


 でも馬マスクが萌えを半減させている。

 私は四分一様の顔を知っているし、外したらいいのに。


「いえ嫌いじゃないです。好きです」


 特にママの味がする飴が好き。

 ん?あれって飴だったっけ?


「よかった。手を出して」


「はあ……ええっ!?」


 いわれた通りに両手を差し出すと四分一様は零れそうな程の量の飴を私の手の平に落とした。


 どこにそんな量を持っていたんですか!?


「お菓子交換した。だからもう友達」

 

 満足そうな声が上から降ってきた。


「本気でいってます?」


「当然」


 四分一様は向井様達ともお菓子交換をしたのだろうか?


 だとしたらかなり面白い光景だったに違いない。


 遠足の小学生のような向井様達を妄想し、笑みが零れた。


 一つだけ外れの運だめしお菓子の外れを食べて悔しがる向井様が見てみたい!


「拓哉のこと嫌い?」


 四分一様は少し悲しそうな声だ。


 この人はなんて答えにくいことを聞くんだ……。


「嫌いというより怖いです」


 嫌いとは思うほど付き合いの長くない。


 あの日に作品を落とさなければ、話すことも向井様の視界に入ることすらないような関係だった。


 私は向井様のことを何も知らないから怖いのだ。


 どの言動が向井様を怒らせてしまうかわからない。


「憩は優しい。俺だったらキレてる」


 暑くなったのか四分一様は馬マスクを脱いだ。


 滴る汗が肌に浮かび、雫となって首筋を流れる姿がエロい。

 三白眼と制服の上からでもわかる筋肉質な体との組み合わせも最高です!


 なんかもうごっちゃんです!


「いやー正義さんと一緒にしないでくださいよ」


 私が向井様にキレたら倍といわず、やり返しされる。

 多分じゃない、絶対。


 私は優しくなんかない。

 ただ我が身が可愛い臆病者。

 

 特技は現実逃避でっす(笑)。


「同じ人間。心があるって姉ちゃんがいってた」


 少し拗ねたような声だ。

 

 まさかの四分一様は長身シスコン甘えた属性!?


 なんて豪華セットなんだ!?

 

 ギャップ萌えぇええええええ! 

 大事なことだから何度でもいおう。


 ギャップ萌えぇええええええ!

 普段なら怖い四分一様が可愛く見えてしまう。


 それで彼女さんをゲットしたんですね!

 わかります!四分一様の言動が母性本能的な物を刺激しますもの!


「そうですね!四分一様は素敵です!」

 

 四分一様はびっくりした後、嬉しそうに笑った。


「ありがとう」


 少年のような無邪気で純粋な笑顔に眼鏡のレンズが割れた。


 かっわいぃいいいいい!

 四分一様が私を萌え殺しに来とるで!?



 四分一様と話して萌え萌えしていると下校時間になった。


「またね、憩」 


 四分一様は満面の笑顔で私に手を振って帰っていきました。

 

 私?

 私は興奮しすぎて鼻血を噴出してました。


 鼻血が収まったのはそれから三十分後で、途中で加藤先生に会って、誤解されて保健室強制連行されたけど。


 主観的に見ても残念な主人公です(笑)。

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