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第8話 触れ合い

第8話 触れ合い


寮の部屋につくと、横山くんが、私にTシャツとスウェットを渡してくる。


「すぐに洗濯しよう。血が乾くと、シミになるよ」


「うん」


私がブレザーを脱ぎ、ネクタイを外していると、横山くんが鼻息荒く血走った目で私を凝視する。


「ちょっと。私、着替えたいんですけど」


私が軽蔑の目で見ると、横山くんはクルリと後を向いて正座した。

本当は見られてもいいんだけど、こんな体だと幻滅しちゃうよね。

胸は小さいし、腹筋は割れてるし。

筋肉質な女なんて、嫌がるだろうな。きっと。

横山くんには、嫌われたくないもん。


「ご、ごめん。う、後向いとくよ」


私はブラウスとスカートを脱いで、横山くんを見た。

耳まで赤くして、じっとしている。

横山くんは、私の裸に幻想をいだいてるんだろう。

きっと、彼の頭の中では、私の裸は、桜みたいに丸みを帯びているはずだ。


 私は、勇気を振り絞って、横山くんの肩に触れた。

横山くんは、ビクンと体を震わせる。


「横山くん。私の体みたい?」


「う、うん。見たい……」


「幻滅するかもしれないよ? それでもいい?」


「しないよ。幻滅なんて。坂野の全部が好きだから」


横山くんなら、この体を見ても幻滅しないでいてくれるかもしれない。

体を見られずにいるために、寮のお風呂は時間をずらして入っていた。

この体を見ても、驚かないでいてくれるかもしれない。


「横山くん。私、男の人と付き合ったことがないの。というか、普通の生活してなかったから。

でも、男の子が女の子の裸をみたいって思ってるのは知ってるわ。

下着姿だけど、見てくれる?」


横山くんは、ゆっくりと振り返る。

ああ、どうか神様お願い。横山くんがこの体を見ても、私のこと嫌わないようにして。

私は、手をおへその前で組み、なるべく腹筋を見られないようにした。

横山くんは、私を見て、口をポカンと開けている。

どうなの? 早く声を聞かせて


「こ、こんな腹筋割れてる女子高生なんて、おかしいよね……。嫌いになった?」


横山くんは、正座したまま私の足元から、上までじーっと見る。

私は、恥ずかしさと怖さで下を向いてしまう。心臓が口から飛び出てしまいそうなぐらい高鳴っている。

なんだか、呼吸も苦しい。

彼は、今どんなことを考えているんだろう。


横山くんは、立ち上がり私の両肩に手をかけた。

私は、ビクリとして横山くんを見る。


「綺麗だ。綺麗だよ。まるで女神みたいだ……」


「胸だって小さいし、腹筋割れてるのに?」


「何言ってるんだよ! こんな綺麗な体見たことがないよ! まるでアスリートみたいだ! さ、触ってもいい?」


「え? さ、触るの?」


横山くんが触るって言ってる! ああーん。どうしよう。

私は、怖いような嬉しいような今まで味わったことがない感情に混乱してしまう。

足に力が入らず、胸がそわそわする。もうどうにかなってしまいそう。


「だ、ダメか? 俺、坂野に触れたい」


「じゃあ、ちょっとだけならいいよ。こ、怖いから優しくしてね」


横山くんの手が肩から私の手を撫でる。

彼の手が触れると、すごく暖かい。

横山くんは、そのまま私を抱き寄せて、背中を撫でてくれる。


なんだろう。ついさっきまで、すごく怖かったのに安心する。

ずっとずっとこうしていたいと思う。

もっともっと触って欲しいって思う。


横山くんの手が腰から下がり、私のお尻に触れた。

ビクンと私は体を震わせてしまって、思わず声が出た。


「ひゃん」


よりによって、なんて間抜けな声を出してしまったんだろう。

もっと、かわいい言葉を言えばいいのに。


「坂野のお尻、すごく柔らかい。それに肌はすべすべだし、いい匂いだ」


恥ずかしい。顔から火が出そうだ。でも、気持ちがいい。

もっともっと、横山くんを身近に感じたい。

横山くんが、パンツの上から手を入れてきた。


私は、びっくりして横山くんを見る。

横山くんも私の反応を見て、驚いて手を放す。


「ご、ごめん。調子に乗っちゃった。あんまり気持ちいいから。へへへ」


「私の方こそ、ごめんなさい。こういうの経験なくって、どうしたらいいのかわからないの」


横山くんが、ニコリと笑ってくれる。

私は、ホッと胸を撫で下ろす。よかった。嫌われなかった。


「さっ、服着てくれよ。そのまんまのカッコだと俺、我慢できなくなっちゃう。坂野とは、キチンと付き合いたいんだ」


「う、うん」


私は、横山くんの用意してくれたTシャツを着る。

ブカブカだ。見かけによらず、大きいんだね。

やっぱり男の子だ。

私がスウェットを履こうとしていると、ドアが開かれた。

桜が驚きの顔で、立っている。


「えーっと。桜、違うのよ。これには訳があるのよ。誤解しないで。ね?」


「ち、違うぞ。仙谷。服が汚れたから、着替えてただけだよ」


桜は、ずかずかと部屋に入ってくるなり、横山くんの顔をひっぱたいた。


「ちょっと! 桜! いきなり何すんのよ?!」


批難する私の手をつかみ、桜は必死の形相をする。


「どうして? どうして言ってくれなかったの? 

こんな男に弱みを握られて、汚されるなんて! 

私たち親友でしょう!」


「違うって。誤解してるわ。横山くんは、無理矢理そんなことしないって」


桜は、私の目をじっと覗き込んでくる。ついで横山くんをチラリと見て、下を向く。


「じゃあ、合意の上でしちゃったの?」


「し、してないって! ただ、服を借りて着替えようとしてただけだから」


本当は、ちょっと違うことしてたけど、今の桜にそんなこと言ったら、

大事になっちゃいそう。


「ほんとにほんと? 何もされてないの?」


「ほんとだってば。ねえ、横山くん」


「お、おう」


桜はニコッと笑い、私から離れた。


「なーんだ。心配して損した」


横山くんは、叩かれた頬をさすりながら、桜を横目で見る。


「仙谷は、俺をどういう目で見てるんだよ? 

それに坂野と俺は付き合ってるんだからな。

無理矢理変なことするわけないだろ」


「ふーん。どうだかねー。男の子なんて、エッチなことしか考えてないんだから。

紗季、安売りしちゃダメよ。いい?」


今日の桜は、朝から迫力がある。いつもおっとりしてたのになあ。

なんでだろ?


「それは、そうと何で、桜がここにいるの?」


「部活してたらさ、襲撃があったから早く帰りなさいって言われたの。

しかも、紗季が横山くんと一緒に襲われたって聞いたから、

私ビックリしちゃって。紗季の部屋に行っても、帰ってないし、もしかしたらって思って、横山くんの部屋にきてみたってわけ。

紗季もいつまでも、パンツ見せてないで、ズボン履きなさいよ。

横山くんに襲われるよ」


私が、ズボンを履いていると、桜が横山くんのホッペを引っ張る。


「女の子の着替えを、見るんじゃないの!」


「いててて! わかったよ! 放せよ!」


「ふん。汚らわしい。ホントなら、触りたくなんてないんだからね」


桜は腕を組んで、ふんといって横を向く。

おかしいな。桜は別に横山くんのこと嫌ってたわけじゃないのに。

むしろ、私が横山くんのことを悪く言ってると、なだめてきてたぐらいなのに。

いったいどうしちゃったんだろう?


「ちょっと、あなたたち、そこに座りなさい。紗季、私が納得するように説明して」


横山くんが、正座したので、私も横に同じように座った。

桜は、ベッドに腰掛ける。


「説明って、何を説明したらいいの?」


「まずは、あなたたちが、どうして付き合うようになったかよ。それから、今日のことも」


横山くんが、桜をまっすぐに見る。


「僕が付き合ってくれって言ったんだよ。朝言っただろ? ずっと坂野のこと好きだったんだ。別に弱見を握ってるとかそんな変なこと何もないぞ」


桜が、身を乗り出し、横山くんを睨む。

怖い。今にも飛びかかってきそうだ。

なんなのこの迫力は。


「あなたには聞いてないわ。ちょっと黙ってて。私は、紗季に聞いてるの! 本当に好きなの? 横山くんのこと。一時の気の迷いじゃないの?」


「す、好きだよ。横山くんのこと。横山くんと一緒にいると、安心できるの。横山くんは、こんな私でも受け入れてくれるの」


桜は、私をしばらく見たあと、ふーっと息を吐いて、不機嫌そうに頭を掻いた。


「あー、あー。もうわかったわよ。そんな目で私を見ないで。

なんか、私が悪者みたいじゃないの」


「うん。なんかごめんね。心配かけたね」


桜は、ジロリと横山くんを見る。

うう。この迫力。いつもほわーっとしてる桜とは別人みたいだ。


「横山くん、紗季とはちゃんと付き合うんでしょうね? 

あんた他のクラスの子からラブレターもらったりしてるみたいだけど」


「お、おう。坂野ことは、大事にするよ。さっきだって、ぐっと我慢したんだからよー」


桜の目がキラリと光る。まずいわよ。横山くん余計なこと言っちゃ。


「さっき? さっきって何?」


桜の勢いに、横山くんの腰が引けている。

頑張って横山くん! 私も話を合わせるから。


「いや、その着替えてただろ? それでムラムラっと来たんだけど。

ちゃんと我慢したんだぜ? な、なー。坂野よー?」


「う、うん。そうだよ。桜。横山くんは、無理に変なことなんてしないよ。ほんとだよ」


「そっかー。なら、安心だね」


桜がニコリと笑って、私たちほっとした。

さっき、横山くんといけないことしてたのは、内緒にしとこうっと。


「でさ、もうひとつの方は? 大丈夫だったの?」


「もう一つ?」


「教室で襲われたんでしょ?」


「ああ、うん。なんでか知らないけど、狙われてるのよ。

昨日も、今日も横山くんが私を助けてくれたんだ」


「ふーん。なんか、そういえば赤井先生が感心してたわよ。

魔装具を使いこなしてるって。ね、見して見して」


私が辺獄を渡すと、桜はふーんと言いながら軽く振る。

桜が魔法力を高めると、辺獄の刃先が壁に打ち出されて、突き刺さった。


「ちょっと! 危ないわよ! 桜! いきなり何してんのよ!」


桜も目を見開き、驚いている。汚いものでも触っているかのように、

私に渡してきた。


「何なのこれ? てんで制御できないわ。こんなの使いこなすなんて、紗季すごいね。前から攻撃魔法はうまかったけどさ」


私は、フィンガーリングに人差し指を入れ、辺獄をくるくると回した。

小さい頃から持ってるから、変に思ってなかったけど、確かにワイヤーが伸びたり縮んだり、あんなに早くできるのは、おかしい。

モーターでも入ってると思ってたけど、しらずしらずの内に、魔法力で操ってたのか。


「そうそう、それだ、それ。俺も言おうと思ってたんだけどさ、坂野はできないと思い込んでるだけで、本当は回復魔法とかもできるんじゃないのか?

たしかに、得て不得手があるから、俺みたいにはできないとは思うけどさ」


「いいの紗季? もう亭主関白気取りだよ。今、最後に自慢がさらりと入ってたし」


桜には、本当のことを言った方がいいかもしれない。

私の雰囲気を感じ取って、横山くんが止めろと目で合図してくる。

私は、大丈夫と頷く。


「あのね、桜。聞いて欲しいことがあるんだ。私、実わね。魔法力がないのに、井上学園に嘘ついて入ってきたんだ。

でもまあ、なんか魔法力があったみたいなんだけどね」


「は? 意味がわかんないんだけど。魔法力がないのに入れないって。それに魔法力は急に身につけたりできないよ。

血で魔法が使えるか使えないか決まるんだよ。

お父さんか、お母さんが魔法使ってたかぐらい知ってるでしょ?」


うーん。話しずらいな。でも、桜にこれ以上嘘をつくのは嫌だ。

こんなに私を心配してくれている桜に嘘なんてつけない。


「私ね、親を知らないんだ。物心ついたときは、同じように親を知らない子達と一緒にいて、訓練させられてた」


「訓練? 魔法の?」


「ううん。人殺しの技。私がこの学園都市に来たのは、超能力者と魔法士を殺すため。ここのとこ、ネオ教会とか魔法院の人たちが死んでたでしょ?

あれ、私がやったの」


「うそ? どうして?」


「私は、忍びの残党に育てられたんだ。また忍びの地位を確立するために、超能力者と魔法士を戦わせて弱体化するために、動いてたってわけ。

もっとも、その元仲間からも狙われるようになったけどね。

ネオ教会のベル=ロッコには、顔をしっかり見られちゃったし、

魔法院の人もたくさん殺してるから、私はみんなから狙われてるの。

桜、私が犯人だって言いたければ言っていいんだよ。

私は、何の恨みもない人の命を奪ってきた。その報いは受けないと」


横山くんが、私の肩を掴み驚いた目で見る。

ありがとう。横山くん。でも、桜が私を罰したいなら、それは仕方ないもん。


「ダメだ! 何言ってんだよ! 坂野は、無理にやらされてたんだ! 

なあ、仙谷! わかるだろ? 密告なんてしないよな?」


桜は、私をじっと見ると、私をぐっと抱き寄せた。

桜の胸に、私の顔が埋まる。

すごい柔らかい。ふかふかだ。

でも、苦しいよ。

私は、顔をずらして、やっと息をした。


「紗季、一人で、辛い思いしてたんだね。ごめんね気付いてあげられなくて」


私の額に、桜の涙がポタポタと落ちてくる。ありがとう桜。こんな私のために泣いてくれるなんて。

私のことを友人と思ってくれてるんだね。私は、ずっとあなたを騙していたというのに。


私は、体を起こし桜を見る。桜は涙でぐちゃぐちゃだ。

私も涙が溢れてくる。


「桜、桜ごめんね。ずっと嘘ついてて。私、私この前までずっと思ってたんだ。私なんて早く死んじゃえばいいのにって。

任務に向かうたびに、今日は死ねる。この次は、死ねるってずっと思ってた。

でもね、横山くんと桜にあえてよかった。やっと私を人殺しの道具としてじゃなく、人として見てくれる人に会えたよ。

うれしいよ。すごく。暖かいよ。二人の気持ちが」


桜はうんうんと言って、ハンカチで私の涙を拭う。自分だって涙でぐちゃぐちゃなのに。

横山くんが、パンと手を叩いた。

私が見ると、横山くんも目が赤い。横山くんは手を突き上げる。


「よっし! これで決まったな。坂野を俺と仙谷で守るぜ! 

俺は、回復魔法と防御。仙谷は、移動系が得意なんだからさ!

俺たちが揃えば、何も心配することないって! よし! 

そうと決まればピザ頼もう! ピザ!」


私がキョトンとしていると、横山くんは首を傾げる。


「坂野、もしかしてピザ嫌い?」


「ううん。嫌いじゃないけど。なんでピザ頼むの?」


「いや、なんていうかさ、決起集会つうか、まっ、なんでもいいじゃん!」


「そうね。うふふふ」


私と桜は、声を出して笑った。


ピザが到着し、3人で折りたたみ式の丸テーブルを囲んでいると、横山くんが口を開いた。


「なあ、坂野も魔法使えるはずだよ。魔法力はあるんだしさ。明日から練習しようぜ」


桜も、それに同意する。


「うん。魔装具が使いこなせるなら、使えるはずよ。使い方がわかってなかっただけで」


「そっかー。私ってば、魔法使えたんだね。思ってもみなかったわ」


「授業受けてた時に、使えたりしなかったの?」


「授業のときは、なんとかごまかすことばかり考えてたからさー。

真面目に、魔法使おうなんて、これっぽっちも思ってなかったもん」


「よし! じゃあ、明日から特訓しようぜ。俺が教えてやるよ!」


「うん。ありがとね」


桜が私と横山くんの間に手を入れる。

ちょっと、何すんの?


「はいはい。いちゃつかないで! 私もいるんだから!」


「い、いちゃついてないでしょ? 別に」


「見つめ合って、二人の世界に入ってるよ。はぁ。紗季はそんな人じゃないって思ってたのにさあ」


私が、眉をひそめると、桜がニコッと笑った。


「嘘よ。二人があんまり仲いいんで、ちょっと妬けちゃただけ。さ、食べましょう」


ピザの容器を開けていると、ドアが不意に開いた。


「横山ー! ピザ頼んだんだろ? ちょっと、くれよ……」


ドアにいる男子は、目をまん丸くして、驚いている。

私と桜が会釈すると、ドアがバタンと乱暴に閉められた。

続いて、部屋まで響き渡る大声が聞こえてきた。


『おーい、みんな! 横山が女連れ込んでるぞー!』


「なに?」

「かわいい?」

「嘘だろ? あのやろ!」


バタバタと足音がいくつも聞こえ、ドアが開かれると数人が、部屋を覗き込んでいた。

びっくりしていると、桜はニコリと微笑んで手を小さく振った。

男子たちが、おおーっと歓声を上げる。嫌だ。なんか恥ずかしいよ。


男子たちは、ドアを開けっ放しで、ドタドタと走りさってしまった。

横山くんが、苦笑いをする。


「ごめんね。変な奴らでさ。悪い奴らじゃないんだけど、女気がみんななくって」


「ううん。私の方こそ、急に押しかけてるんだから。気にしないで」


男子生徒の一人が、部屋にかけこんできた。手にバターピーナッツの袋を持っている。

たしか、同じクラスの岩井くんだ。


「な、なあ、俺も一緒にいい?」


横山くんが、私と桜を見ていいか? という顔をする。


「うん。いいよ。岩井くん」


「やった! 横山なんで仙谷と坂野がここにいるんだよ? 

独り占めはずるいぜー?」


続いて、また一人部屋に走り込んで来た。手にポテトチップの袋を持っている。

また、男子生徒が走り込んで来た。

次々と男子生徒たちは、手にお菓子を持って、部屋にやってくる。

6畳の部屋は、あっと言う間に満杯になる。

手にお菓子をもって、すがってくる男子たちの迫力に、私はただただ驚き、横山くんは、男子たちを部屋から押し出そうとする。

桜が、パンパンと手を叩いた。


「はいはい。みんな落ち着いて。こんなにいっぱいだと、話もできないでしょ? 

今日のところは、部屋に引き上げて。また、私たちくるから。お願い」


桜がそう言って、ウインクすると、男子たちは顔を赤らめ、一人また一人と手を振りながら部屋の外に出て行く。

私は、感心して桜を見る。

なんて、男の子の扱いが上手いんだろう。知らなかったわ。


「桜、あなたすごいのね。手馴れてるわ」


桜は長い髪をさらりとかき揚げ、胸を張る。


「当然でしょ? 昔から男の子にはモテたんだから。紗季も言い寄られたりしてたでしょ?」


「え? ないない。そんなこと。普通の環境じゃなかったし」


「こんなに目が大きくて、綺麗なのに? ねえ、横山くんもそう思うでしょ?」


横山くんがこくこくと頷く。えへへ。なんだか恥かしいや。


「うん。綺麗だよ。俺、ずっと思ってたもん。それに肌もすべすべだし、ほんと全身どこを見ても綺麗だよ」


私の顔に血が上る。目の前で言われると恥ずかしいよ。

横山くんの言葉に、桜の顔付きが変わる。


「全身? まさか、あなた紗季の裸を見たって言うんじゃないでしょうね? 私だってみたことないのに!」


「み、見てないよ。そ、想像さ。足もスラリとしてるし、スタイルいいだろ? だからさ」


「本当でしょうね?」


「本当だって」


桜が、私に抱きついてきて、Tシャツの下に手を入れてくる。

きゃっ。くすぐったいよう。


「紗季と付き合うのは、許して上げるけど、変なことしたら許さないからね。わかった?」


そう言いながら、桜はブラの間に手を入れてくる。

やめて、恥ずかしい。


「あん」


思わず、声を漏らしてしまった。私が口を手で押さえると、横山くんが真っ赤な顔をして、じっと見てる。


「桜止めて! 恥ずかしいじゃないの! 横山くんも見てるのに!」


「ごめんごめん。あんまり紗季が可愛いから。ついイタズラしたくなっちゃって。でも、紗季って感度いいのね。胸が小さいと感度いいってほんとなんだ」


「な、ななな、何言っての! 変なこと言わないで!」


チラリと横山くんを見ると、横山くんの鼻からつーっと血が流れてきた。

横山くんは、鼻を押さえて上を向く。

変なこと聞かれちゃった。困ったわ。どうしよう。


桜は、一人冷静にティッシュを、横山くんに渡す。


「さ、食べましょ。ピザ冷めちゃうわ」


桜に促されてピザを食べたけど、いろんなことが一変にありすぎて、今日のピザはなんだか味がしなかった。

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