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第6話 襲撃

第6話 襲撃


 寮の前まできて、横山くんと別れた。

 男子寮の方へ歩いて行きながら、横山くんは何度も振り返り、手を振ってくれる。

 なんだか、心が満たされる。

 彼の笑顔を見ていると、私も嬉しくなってくる。


 これが、恋人を持つということなのか。

 井上学園に入学して、テレビドラマなんかで、恋愛ものは見ていたけど、

ドラマの主人公たちの気持ちに感情移入なんてできなかった。

 なぜ、ドラマの中の登場人物たちが、涙をながし、悩むのか理解できなかった。


 でも、今ならその気持ちがわかる。

 人に愛されるということは、なんて素晴らしい事なんだろう。

 人を愛すということは、なんて充実した気持ちになれるんだろう。

 私は、軽い足取りで女子寮に入った。


 自室に向かっていると、部活を終えた桜が声をかけてきた。


「遅かったのね? どこいってたの?」


「ん? 映画観てきたんだ」


「へー。珍しいわね。私が誘っても興味ないって言ってたのに」


「まね。ちょっとした気分転換よ」


「そか。ご飯まだでしょ? 食べに行きましょう」


「うん」


 自室で、ジャージに着替え桜と食堂に向かう。

 今頃は、男子寮で横山くんも食事を取っているんだろう。


 彼と一緒に食べれないのが、残念だけど同じように過ごしていると思うだけで、なんだか食事もいつもより美味しく感じる。


「紗季、さっきから何をにやけてんの?」


「え? 私、にやけてた?」


「うん。さっきから口元が緩みっぱなし。そんな顔みたら、男の子たちが逃げていっちゃうわよ?」


「いーんだもん。そんなの」


「また、そんなこと言って。今日も、私、バスケ部の子に、紗季を紹介してって言われたんだよ」


「えー。いいよー」


「紗季は部活とかしてないんだし、暇でしょ? 会ってみるだけ会ってみたら? 結構、かっこいい子よ」


「いいってばー。適当に断ってよ」


「なんでー? 成績もいいし、背も高いよー。それとも、誰か好きな人がいるとか?」


 桜の言葉に、一瞬横山くんの顔が頭に浮かぶ。

 言い当てられて、顔が火照ってくる。


「あ、そうなんだー。誰、教えてよ?」


 うーん。この間まで、横山くんのこと嫌な奴って言ってたしなあ。

 なんだか、言うの恥かしいや。


「いいでしょー。誰だってー」


「いいじゃん、教えてよー」


「んー。そのうちね」


 食事を終え、娯楽室でテレビを観て、時間を潰してから私は自室に戻った。

 いつものように、音楽を聞いて、24時すぎぐらいまで時間を潰し、大浴場に向った。


 誰もいないことを確認して、服を脱ぐ。

 姿見の鏡で、全身を見る。

 無駄なぜい肉がほとんどない。私は、体脂肪率10%を切っている。

 こんな身体だと、横山くんに愛想をつかされそうだ。

 もう少し太れば、腹筋は目立たなくなるだろうし、胸も大きくなるかもしれない。

 動きの妨げにならない程度に、脂肪をつけ、女の子っぽい丸みをつけよう。

 横山くんに体を見られても、嫌われないように。

 体を見られる? やだ、私何考えてるんだろう?


 タオルを持って、浴場に入る。

 洗い場で、シャワーを浴び頭を洗う。

 備え付けのシャンプーじゃなく、自前で何か買った方がいいだろうか?

 香りがいいと言ってもらえるようになりたい。

 リンスをしながら、匂いを嗅いでみる。

 うーん。悪くないようにも思うけど、これだと寮にいる大半の子達と、一緒の香りになってしまう。

 やはり、リンスも買ったほうがいいだろう。


 再びシャワーを浴びていると、脱衣所から廊下に出るドアに鍵をかける音が聞こえた。

 ゾクリと背筋に寒気が走る。

 まずい。辺獄や銃は部屋に置いている。

 私は、洗面器に熱湯を注ぐ。浴場の引き戸が開かれるのを気付いていないフリをして、タオルを洗面器の熱湯に浸す。


 コツン、コツンと足音が近付いてくる。

 お風呂に入るときは、靴を脱ぐぐらい常識でしょうに。

 左後方で気配は止まり、銃を構えているのがわかる。


 私は、気付いてない風を装い、洗面器を持ち後方へお湯を浴びせた。


「ぐわっ」


 振り向きざま、敵の銃を持つ手を握る。


〝パン、パン!〝


 銃弾は床のタイルを破壊する。

 顔を真っ赤に染めた男が、私を憎しみの目で見ている。


 私は、銃を持つ手を壁に二度三度と打ち付け、下に落とさせた。

 続いて、肘を打ち込もうとしたところで、相手の膝が私の腹を打つ。


 肺の空気が押し出され、鈍い痛みが走る。

 男は、ナイフを抜いて突いてきた。

 私は、左にかわし、銃に飛びつく。


 男の蹴りが私の顔に迫る。

 左手で防御するが、蹴り抜かれ後方へ飛ばされる。


 何とか、銃をはなさずにすみ、銃を構えると、男の蹴りが、右手にあたり銃を飛ばされた。


 男は、ナイフで切りつけてくる。

 右、左と避け、浴槽の方へと下がる。


「ふははは。大したもんだ。俺の気配に気付いていたとは。小娘一人片付ける楽な仕事って聞いてきたのによ」


「風呂場で靴音させてたら、おかしいと思うでしょ? バカじゃないの?」


 私は息を整えながら、周囲に目を光らせる。

 脱衣所に、人影は見えない。敵はこの男一人か。


 私は、少し身を屈め両手を上げ、左右への体重移動を繰り返す。

 男は、ナイフをゆらゆらと揺らし、じりじりと近付いてくる。


「ははは。いい眺めだな。大事なところが丸見えじゃねえか。恥ずかしくないのかよ?」


「あんたは、もうすぐ死ぬわ。死人に見られてもなんとも思わない」


 男がナイフを横凪に払い、突いてくる。私は、体を反転させながら、男の手を巻き込み、投げ飛ばした。


 続いて、顔に蹴りを入れようとするが、男は立ち上がり、ナイフで突いてきた。

 私は、後に下がり洗面器を手に持つ。


「シャー!」


 男のついてくる手を、洗面器で殴る。

 男が顔をしかめた瞬間に、一歩踏み出すと、男のミドルキックが、襲ってきた。

 防御するが、体重の軽い私は、壁に弾きとばされる。


 ナイフで追い討ちをかけてきた男の攻撃を、後に倒れ込んでかわす。

 シャンプーや石鹸を投げつけ、隙をみて立とうとした時に、男から馬なりになられた。

 両手でナイフを掴み、私に刺そうと突いてくる。

 私は、両手でその手を掴むが、男は体重をかけ、ナイフは私の喉元に近付いてくる。


「ふははは。勝負あったな! ホントは、可愛がってやりたいところだが、時間がおしい。死んでもらうぞ!」


「待って! 助けてくれたら私を好きにしていいわ」


 一瞬、男の力が弱まる。

 私は、男の右手の小指に、人差し指をかけ捻った。

 ごりっという音と共に、男が顔をしかめる。

 ブリッジで、男の体を浮かせ、膝蹴りを背中に叩き込む。

 前のめりになった男の下をすり抜け、私は立ち上がって男の股間を蹴り上げた。

 もう一度、蹴りあげようという時に、男は横に転がった。

 顔をしかめながらも、私を血走った目で睨む。


「舐めた真似しやがって、小娘がー! 楽には死なせん。切り刻んでやるぞ」


 私は左右に動きながら、蹴りをだす。ナイフで払ってきた男の折れた小指にかすらせる。

 男が手を引いたところで、私は肘を耳に打ち込んだ。

 男の耳が飛び、苦悶の声をあげる。

 左の指で、男の目を払うと、男は目を押さえながら、後方へと下がる。

 私は、男の手を蹴り、ナイフを飛ばす。


 踏み込んで、男の腹を打つ。左右の連打を叩き込むと、手を掴んできて、顔を殴ってくる。

 顔に熱さと痛みを感じ、私は一度さがる。

 男が、左右の手をあげて構える。股間の痛みが回復しないのか、足取りは重い。


 私は、踏み込み左の突きを打つ。男はそれをブロックして、左のフックを放つ。

 身を屈めかわし、顎に掌底を叩き込み、ジャンプして頭を掴みそのまま床に、叩きつける。

 立ち上がろうとする男の後に回り込み、裸締めを決める。

 男が私の手を引き剥がそうと、もがく。男の爪が私の手に食い込むが、私は背を反らせ、自分の体重を使って、男の喉に腕を深く食い込ませる。

 10秒ほどして、男の意識はなくなり、抵抗は終わった。

 私は、落ちたナイフを拾い男の眉間に突き刺した。

 男は痙攣し、そのまま動かなくなった。


 危なかった。ひと時も気を抜いてはいけない。

 私は、服を着て部屋へと戻った。

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