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第5話 告白

第5話 告白


次の日


 登校していると桜が話しかけてきた。


「おっはよう! 紗季、昨日はサボり? 寮に戻ったらいないからびっくりしちゃったよ」


「うん。午後からは調子良くなったから。夕方からは横山くんに回復魔法習ってたんだ」


「へー。いったいどうしたの? あんなに嫌ってたのに」


 うーん。昨日のことを言うわけには、いかない。なんて言い訳しようかな。

 もし、私が魔法院の人たちを殺した犯人だっていったら、桜はなんて言うだろうか。

 よい嘘が思いつかないうちに、教室についてしまった。


 席につくと、横山くんがはにかみながら、挨拶してきた。


「おはよう。昨日は、よく寝れた?」


「うん。おかげさまで、大丈夫だったよ。横山くんこそ、疲れなかった? 大丈夫?」


 桜が私たちの様子を横目で見る。

 疑惑の目だ。こりゃ、困ったなあ。


「なーに? なんか、二人共へんよ。見つめ合ったりしてさ」


「え? なんでもないよ。横山くんは、私の回復魔法の先生ってだけ」


 桜は、ふーんと言いながら、私と横山くんを交互に見る。

 この子、こういう勘はするどいのよねえ。


「まあ、いいけどー。なんかやらしい感じ」


 横山くんが頭を掻きながら、申し訳なさそうにする。


「ごめんな。坂野、なんか俺のせいで」


「いや、横山くんが謝ることないよ。桜が変な勘ぐりしてるだけだから


 桜は、腕組みして私を横目で見る。


「まあ、横山くんとじゃ、ないなあって感じだけどね。紗季は恋愛なんて興味ないって感じだし」


「そうよー。私たちが付き合うとかありえないって。ねえ、横山くん」


 あれ? なんか横山くんの元気がなくなっちゃった。

 私、変なこと言ったかしら?


「だ、だよなー。仙谷は、変なこと言うよなー」


 しばらくすると、担任の松尾先生が入ってきた。


「よーし、席につけー。今日は、大事な話があるぞー」


 みんなが席に着くと、松尾先生がにこりと笑顔を作った。


「みんな、よく聞け。今日はな、ネオ教会のベル=ロッコさんが、視察にみえられるそうだ。

 我々、魔法士とエスパーは、対抗勢力という人たちもいるが、お互いに世界の秩序を守るという目的は、一緒だしな。こうやって、交流が増えていくのは、いいことだと思う。授業中に、各教室を回られるそうだから、みんなは普通に授業を受けててくれ」


 まずい。私の顔をみたベル=ロッコが、高校ぐらいの年だとふんで、学園都市の学校を回っているんだろう。

 超能力系は、除外して魔法士系と魔物系の学校に的を絞るのは、当たり前のことだろう。

 昨日は、つけまつげをしていたし、化粧をしていたから、一目みて私とはわからないだろうが、テレパスなんかを連れてきているとしたら、まずいことになる。

 視察の時だけ、席を外すか。それともこのまま何食わぬ顔をして授業を受けていたほうがいいのか。

 唯一の希望は、ベル=ロッコが私に深手を負わせたと思っている点だ。昨日の横山くんのヒーリングのおかげで、激しい運動をしなければ、痛みはなくなっている。


 さて、どうするか。思案しているうちに、授業が開始された。

 3時間目の途中、教室の左前のドアが開かれ、ベル=ロッコと共の数人が入ってきた。

 魔法歴の吉永先生が、深々とお辞儀をすると、ベル=ロッコは、ああ、そのまま続けてください。といって、教室を見渡す。

 目を合わせたら気付かれる。私は、髪を左前に垂らし、ベル=ロッコから目を隠した。

 ベル=ロッコたちは、2~3分して、次の教室へと移っていく。


 気付かなかったのか? いや、私なら同じような背格好の数人をリストアップして、徹底的に調べる。

 危機は去ったわけではない。何かいい手を考えないと。

 それに、私は任務の報告をしていない。抜け忍と認識されて、もう追っ手がかかっているはずだ。

 私の命も風前の灯火か。

 そう思うと、なんだか笑えてくる。ごめんね横山くん。昨日、あんなに一生懸命治してくれたのに。


 昼休みになった。

 吉永先生が、教室に顔を出して、私を呼ぶ。


「坂野、喜べ! ベル=ロッコさんと会食できることになったぞ! こんな機会、なかなか無いんだ。うらやましいぞお」


 まずい。もうバレているのかもしれない。


「先生、他は誰が一緒なんですか?」


「ん? 私も詳しくは知らないんだが、全校で10人ちょっとぐらいが会食に参加できるらしいぞ」


「そうですかー。男子5人、女子5人って感じですか?」


「いや、女子ばかりと聞いてるぞ。まあ、何にせよ。早く行きなさい。場所は、一階の応接会議室だから」


 女子ばかりということは、怪しいと思われている一人にすぎないのかもしれない。

 私は、カラーコンタクトをはめてから、応接会議室に向った。


 応接会議室の前に、黒い背広の男が2人立っている。

 私が会釈をすると、ドアを開けてくれた。


 左目に眼帯を嵌めているベル=ロッコが先に来ていた数人の女子生徒と笑顔で談笑している。

 私はなるべく目立たないように、窓際の真ん中の席に座った。


 ベル=ロッコの話に、笑顔で相槌を打つ。

 私は、頭の中に、ショパンの子守歌を流し、心を開く。

 4小節の旋律が繰り返し、流れていく。


「おっ。この中で、クラシックを頭に流している人がいるね。昼食時にこれはありがたい。誰かな?」


 私は、すっと手を上げて、笑顔を作る。


「はい。私です。2年の坂野と申します」


 ベル=ロッコと目線が合う。私は、偉い人にあって緊張している風を装い、心の表層を開く。


「おお。君は、強い魔力をお持ちのようだ。我々エスパーの力が強いものと似た感じがするよ」


 私に? 魔法なんて使えないのに、適当なことを言う。

 私が苦笑していると、ベル=ロッコの隣に座っていた校長先生が、ペラペラと書類をめくる。


「えー、坂野くんは攻撃魔法はAですが、回復、防御、移動はあまりよくないですな。

 総合は、Dランクです」


「ほう? そんなはずはないと思いますがね。まあ、今は力が発揮できてないだけでしょう」


 校長先生は、ニコリと笑う。


「聞いたかい? 坂野さん。ベル=ロッコ様からのお墨付きだ。精進したまえよ!」


「はい。頑張ります!」


 会食は無事終わり、私は教室へと戻った。

 バレただろうか? それとも上手くごまかせた?

 まあ、あれこれ考えても仕方ない。仕掛けてこられたら、戦うだけだ。


「会食、どうだったの?」


 桜が、興味深々といった顔で聞いてくる。


「ん? 普通だったよ。ご飯食べて少しお話して、帰ってきただけ」


「そっかー。私も行ってみたかったなあ」


「そんなにいいもんでもなかったわ。緊張して味なんてわかんなかったし」


「それもそうねー。お昼は気楽に食べるのが一番ね」


「そうそう」


 私は、残る授業を受け、放課後になって、一旦寮に帰って、着替えてから駅前のデパートに行った。


 ネオ協会に狙われるにしても、忍びに狙われるにしても、学校や寮だと他の生徒に犠牲がでるかもしれない。

 どうせなら、邪魔が入らないところで、戦いたい。


 しばらくデパートをうろつき、大きな広場に入った。

 後を追ってくる男が、二人。

 前の方にも、二人いる。


 さて、どうするか。忍びなら問答無用で殺しにくる。

 ネオ教会なら、私を試そうとしてるだけかもしれない。

 ネオ教会である方にかけてみよう。

 殺されても、別に惜しい命でもないし。

 私がベンチに座ると、男たちが距離を縮めてくる。


 男たちが、その輪を10Mぐらいに縮めてきて、懐に手を入れたとき、公園の入口から、横山くんが駆けてきた。


「おーい! わりい、わりい。遅れちまった」


 何? どうして、横山くんがここに来るの?

 横山くんは、事態がつかめない私の手を取り、公園の外に引っ張っていく。


「ちょ、ちょっと、横山くん」


「いいから、いいから。映画始まっちゃうぜ?」


 男たちは、横山くんを見て、すっと離れていった。

 横山くんは、私を助けてくれたらしい。下手したら自分の命も危ないというのに。


「よ、横山くん。横山くんってば。ちょっと待ってよ」


 横山くんは、足を止め私を睨む。


「何やってんだよ! お前、何やってんだよ!」


「何って、散歩してただけだよ」


「嘘つけ! お前、死ぬ気だったろ? わざとこんなところに来たんだろ!」


「だって、寮や学校にいたら、他の子たちに迷惑かけるでしょ? だから、

襲ってきやすいように、出てきたんじゃないの。そんなに怒ることじゃないでしょ?」


 パチンと頬を叩かれた。痛いなあ。何すんのよ!

 私が横山くんを睨むと、横山くんは必死になって食い下がる。

 何をそんなに必死になっているの?


「止めてくれよ! お願いだから、こんな真似止めてくれよ!」


「昨日、助けてくれたのは感謝してるけど、止めてくれよって、私の勝手でしょ?

 横山くんに指図されるようなことじゃないわ」


 横山くんは、大粒の涙をボロボロと流しだした。

 突然のことに私は、呆気に取られてしまう。

 道行く人たちが、訝しい顔をして通り過ぎていく。


「お、落ち着いて、ね? 私が悪かったのなら謝るから」


 横山くんは、しゃくりあげて嗚咽を漏らす。

 ああーん。もう、どうしたらいいの?


 私は、公園へ横山くんを連れて戻り、ベンチに座らせた。

 横山くんは、子供のように泣きじゃくったあと、ちんと手鼻をかんで、

私を見た。


「坂野、お願いだから、もうこんなことやめてくれよ」


 まるで、駄々っ子だ。前から子供っぽいとは思ってたけど。


「はいはい。もう止めるわよ。だから、いい加減泣き止んで。恥ずかしいわ」


「真面目に聞いてくれ! 俺は、本気だ!」


「聞いてるって。寮に帰ったらいいんでしょ? もう落ち着いたわよね。じゃ、さよなら」


 私が立ち上がろうとすると、手を掴まれた。


「ちょっと、まだ用があるの?」


 横山くんは、私の前にまわりこんで、土下座した。

 額を地面に打ち付ける。

 ちょっと、止めてよ。なんか、私がやらせてるようじゃないの。


「もう、なんなの? いい加減止めてよ。私を困らせて楽しいの?」


 横山くんは、がばっと顔を上げて、私を見る。


「死んで欲しくないんだよ! お前に死んで欲しくないんだよ!」


 なんで、この人は、こんなに必死になるの?

 たくさんの人の命を奪った私のことで、なんでこんなに必死になるの?

 なぜだろう、涙で顔をぐちゃぐちゃにした横山くんを見ていると、

 私の胸は、ズキンと痛む。

 私の心に溜まっていた澱が、かき混ぜられて、心が乱されていく。


「なんで、なんでなの? 私は、何人もの人を殺したんだよ? 命なんて、助けてもらう価値はない人間なんだよ。

 それなのに、どうして? どうして、こんなことするの?」


「俺は、お前が好きなんだよ! お前が無事でいてくれるなら、人前で泣くのだって、土下座するのだって平気だ! 何だってする! だから、自分の命を粗末にしないでくれ」


 好き? 今、好きといった?

 誰が、誰を?

 ああ、横山くんが私のことを好きと言ったのか。

 え? ちょっと待って。

 これは、新手の嫌がらせか何か?


 私は、改めて横山くんを見た。

 涙で顔をぐちゃぐちゃにして、土を顔につけている。

 この人は、本気だ。横山くんは、本気で私のことを好きだと言ってくれている。

 身分を偽って、井上学園に潜入してる私を。

 多くの人たちを殺した私を。

 横山くんに冷たい態度を取っていた私を。

 ずっと心を閉ざしていた私を。


 私の頬を一筋の涙が流れた。

 私の全てを知って、その上で私を助けようとしてくれている。

 こんな私を彼は、好きだと言ってくれている。


 私は、どうしたらいいのかわからない。

 こんな時に、どう答えたらいいのかわからない。


 でも、精一杯の言葉を口にしよう。

 こんなに真っ直ぐに、私に気持ちをぶつけてきてくれた横山くんに、曖昧な返事をするのは、失礼だ。

 恋愛に疎い私でも、それぐらいはわかる。

 私は、屈んで地面に手をついている横山くんの手を取った。


「横山くん、ありがとう。私、人に恨まれたり憎まれたりすることはあっても、好きになってもらえるなんて思ってなかった。本当にありがとう」


「さ、坂野……」


「好きって言ってもらえると、こんなに嬉しいんだね。こんなにわくわくするんだね。私、驚いてるよ」


 横山くんが、私の手を強く握ってくる。

 彼の私を思ってくれている気持ちの強さが伝わってくる。


「でもね、私、横山くんの思いにどう答えていいかわからないんだ。人を殺す技ばかり仕込まれたから。

 だから、だからね、今の言葉は聞かなかったことにするから、私みたいなのじゃなく、他の女の子に告白して。桜の話だと、横山くんのこといいっていう女の子多いみたいだよ」


 今度生まれ変わったら、普通の恋愛できるようになりたいな。

 でも、一度好きって言ってもらっただけでも、幸せだったよ。

 この先、あまり長く生きられないだろうけど、恨まれるだけじゃなく、好きって言ってもらえたことで、私は死んでも悔いはないよ。

 ありがとうね。横山くん。


「俺は、お前じゃなきゃダメなんだよ! お前以外の奴と付き合いたいなんて思わないよ! 俺は、お前を守る! 絶対に守る!

俺と付き合ってくれ!」


「本当に、私なんかでいいの? 私の本当の姿をみたら、そんな台詞言えないよ?」


 私は、できる限りの笑顔を作った。

 横山くんは、少し驚いた顔をしている。


「それって、付き合ってくれるってこと? 俺と付き合ってくれるってこと?」


 私が頷くと、横山くんは顔を袖でごしごしとこすり、にこっと笑う。


「じゃあさ、映画行こうぜ! 付き合った記念に!」


「うん!」


 こうして、私たちは、付き合うことになった。

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