第4話 命の恩人
第4話 命の恩人
目を開けると、薄暗い中オレンジ色の光が見える。
天井? 右には壁があり、私はベッドに寝かされているようだ。
上半身を起こすと、右脇腹に鋭い痛みが走った。
「いたっ……」
「お、おい。まだ動いちゃダメだよ。傷ふさがったばっかなんだからよー」
突然話しかけられて、私はビクッと驚いてしまった。
ベッド横に、横山くんがいた。
横山くんは、部屋の明かりを点ける。
「横山くん? どうしてここに?」
横山くんは、顔を赤くして目を逸らす。
「それは、こっちの台詞だよー。お前が、道で倒れてたから、運んできたんだよー。なんか、血だらけだったし……」
「そっか。迷惑かけてごめんね」
まだ私は、死ねないということだろうか。しかし、よりによって横山くんとは。
変な感じ。ふふふ。
あれ? 私は上半身に服を着ていない。スポーツブラ一枚になっている。
「服脱がしたの、横山くん?」
「し、仕方ないだろ? すごい怪我してたんだから。回復魔法かけないとよー」
「横山くんって、エッチなんだね。知らなかったよ。ふふふ」
横山くんは、耳まで真っ赤にして、下を向く。
いつも憎まれ口を叩いてくるのに、こんな顔するんだ。知らなかった。
「うそうそ。助けてくれてありがとね」
時計を見る。19時30分。そっか4時間ぐらい気を失ったたのか。
私は、ベッドに腰掛け立ち上がる。途端に立ちくらみが襲ってきて、私はまたベッドにへたりこんだ。
「お、おい。まだ無理すんなよー。やっと傷がふさがったんだからよー」
「なぁに? 私のこんな格好をじっくりみたいの?」
「ち、違うよ。ホントに危ないから言ってるだけだよー。な、なあ、そんなことより、どうして血まみれで倒れてたんだよ。それに、これとか」
横山くんは、辺獄を私に見せる。そっか。もう嘘はつけないな。
この体では、追っ手から逃げ続けるのは無理だし、どっちにしても潮時だろう。
私はスカートをめくり銃と苦無を取り出した。
横山くんは、びっくりしてポカンと口を開けている。
「これね、本物だよ。びっくりした?」
横山くんは、鼻を手で押さえ、上を向く
「どうしたの?」
「きゅ、急にそんなことするから、鼻血でた……」
横山くんの鼻にテッシュを詰める様子がおかしくて、私はつい笑ってしまう。
「あははは。変なかおー」
「わ、笑うなよー。急にスカートなんてめくるからよー」
「いっつも、ペチャパイだって、馬鹿にするくせにー」
「そ、そんなことより、わけを早く教えてくれよー」
「ごめんごめん。こんな横山くん見るの初めてだから、おかしくって。
あのね、最近、魔法院やネオ教会のお偉いさんが、続けて死んでるでしょ?
あれやったの私なの」
横山くんは、目を見開いて私を驚いて見る。
そりゃそうよね。人殺しが何食わぬ顔して、真横の席にいたんだから。
「う、嘘だよな? 坂野が連続殺人犯なんて……」
「ううん。残念だけど、本当なの。私ね、どっかから拾われてきて、殺人術を叩き込まれたんだ。小さい時からずーっと。
この学園に入り込んだのも、任務を遂行しやすいようにってことでね。本当は、魔力なんてないのよ。ごめんね嘘ばかりついてて」
「だ、だって魔法使ってたじゃないか! 爆発系なんて、A取ってたじゃん!」
「あれはね、忍術なのよ。みんなにバレないように、火薬使ってただけ。ひどいよね。私。みんなを騙してたんだ。
でもね、こんな生活も、もう御終い。
私、任務の完了報告してないの。だから、仲間からは切られてるわ。それに、今日はネオ教会のベル=ロッコ襲って、怒らせちゃったからね。
今頃、血眼になって探してると思うわ。こんなからだじゃ逃げられない。仲間から消されるか、ネオ教会に捕まるか。どっちにしろもう終わりね」
私がニコリと笑うと、横山くんは捨てられた子犬みたいな目で私を見る。
不意に横山くんが、私の肩を力強く掴んだ。
「終わりとかいうなよ! そんなこと、ダメだよ! 坂野がいなくなったら、俺、俺……」
「横山くん、わたし魔法院の人たちも、いっぱい殺してるんだよ。このままだと、横山くんにも迷惑かけちゃう。
私を部屋に入れたとか絶対、人に言ったらダメだからね。じゃ、もう行くわ」
横山くんは、私をじっと見たあと、携帯を取り出し、どこかにかけた。
通報されるなら、それも仕方ない。私は、横山くんに微笑む。
でも、こんなに人に優しくされたの、初めてかもしれないな。
「あ、石川さんですか? 僕、2年の横山です。実は、坂野さんが今日の授業の内容教えて欲しいって言って、いま部屋に来てるんですよ。
ええ。そうです。回復魔法のことも勉強したいんで、遅くなります。はい。すいません」
携帯を切り、横山くんは苦笑いする。私は事態が飲み込めず戸惑う。
「これで、俺も共犯だ。それに、坂野はやりたくてやったわけじゃないんだろ? 無理にやらされてたんだろ?」
「それは、そうだけど……。横山くん、なんでこんなによくしてくれるの? 私、人殺しなんだよ?」
横山くんは、顔を赤くしつつ、私を真っ直ぐに見る。
「お、俺、学校で気楽に話せる女子は、お前のだけなんだよ!
だから、だから、俺……。俺がやってることは間違っているのかもしれない。
でも、でも、お前がいなくなるのなんて、耐えられないんだよ!」
ふーん。そんな風に私のこと思ってくれてたんだ。
でもね、何人もの人生を奪った私には、そんな資格はない。
普通に生きていく資格なんてないんだ。
「横山くん、ありがとう。でも、でもね、私に生きている資格なんて……」
横山くんが私を抱きしめる。暖かい。彼に触れていると、私の凍てついた心は少しずつ溶けていく。
「そんなこと言うな。お願いだから言わないでくれ」
「うん。そうだね。せっかく横山くんが助けてくれたんだもんね」
横山くんは、私を放しニコリと笑ってくれた。
「さっ、じゃあヒーリングの続きやるよ。横になって」
「うん」
私が横になると、横山くんは詠唱を始めた。横山くんの両手が緑色に輝き、右脇腹が温められる。
「さっきも結構やったんだけど、治りが遅いんだよ。普通の傷じゃないみたい」
そか。超能力で付けられた傷だと普通のダメージじゃないのかもしれない。
「うん。ベル=ロッコにやられたんだ。爪で突き刺されたんだけど、なんか普通じゃなかったから」
「それにしても、坂野ってすごいんだな。ベル=ロッコって言ったらさ、ネオ教会で5本の指に入る実力者って聞くよ。
それとやりあって、生きて戻ってくるんだから」
「うーん。手も足も出なかったけどね。さすがに強かったわ」
「なあ、仲間から切られたってことは、もう人殺しなんてしなくていいんだろ?」
「そうねー。まあ、命令でってことはないけど。連中がほっとくわけないしね。今度は元仲間に命を狙われるでしょうね。
簡単に殺されるのもしゃくだから、そこは少しは抵抗するわ。横山くんに助けてもらった命だしね」
横山くんは、少し照れて鼻をかく。ふふふ。何だか可愛いな。
ずっと憎まれ口を叩く嫌な奴って思ってたけど、こんな顔するんだ。
「相手が狙ってくるんだったら、それは正当防衛だよ。それに今までだって、命令で仕方なくやってたわけだしさ。
魔法院にいって、保護してもらおうよ。そうした方が安全だよ」
「うーん。それだと、多分拷問されちゃうよ。仲間の居所はけーって感じで」
「じゃあさ。そこは隠して、変な連中に命を狙われてるって言おうよ。俺も一緒に襲われたっていうからさ」
「大丈夫かなあ。そんなんで」
横山くんは、ドンと胸を叩く。
「大丈夫だって。俺たちは、天下の井上学園の生徒なんだぜ? 将来の魔法院のメンバー候補さ。襲ってきても不思議はないだろ?」
「そっかー。そうかもね。ふふふ。だいぶ痛みが引いたわ。ありがとうね」
「あのさ、それと……」
「ん? 何?」
「よかったらで、いいんだけど……」
横山くんは、顔を赤らめ言いにくそうだ。どうしたんだろう?
「何よ。言ってよ」
「こ、今度、映画でも行かないか?」
え? 今、映画に誘われた?
聞き間違えかしら。
「ええっと。今、映画に誘われたのかな? こんな非常時に?」
横山くんは、顔を真っ赤にして、下を向く。
「だ、ダメか?」
横山くんは、上目遣いで私を見る。
私は笑顔を返す。
「いいえ。私で良ければ、喜んで」
私は、横山くんにそれから、痛みが和らぐまでヒーリングをしてもらってから、寮に戻った。