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第33話 希望

第33話 希望


 それから、1週間が経った。井上学園、卒業式の日だ。

 今日で、岸川さんと江藤さんとは、お別れだ。

 ちょっと寂しい。

 ふたりは、揃って魔法院への就職が決まり、付き合うようになった。

 岸川さんの嬉しそうな顔を見てると、私も嬉しくなってくる。

 統一政府、魔法院、ネオ教会、ロギアンと政治を動かす組織が、

 多数の死傷者を出したことで、混乱するかと思ったけど、

 事件直後に、私が記者会見を開いたせいか、大きな混乱はなく、

 街は平穏を取り戻した。


 桜は、仮死状態が続いているので、ロギアンに預かったもらった。

 いつ目覚めるかは、はっきりわからないけど、

 でも、生きているなら、また会えるかな。

 桜の憎まれ口を聞けないのは、ちょっと寂しいけど。


 女子寮から出ると、横山くんが待っていてくれた。

 マスクをして、ごほごほと咳をしている。


「横山くん、大丈夫? 寮で寝てた方がいいんじゃないの?」


「江藤さんが卒業するのに、インフルエンザ程度で、寝てられないって」


「え? インフルエンザだったの?」


「うん。昨日、病院いったら反応でたよ。

 回復魔法をかけるんだけど、なんかきかないんだよね。

 新型かもしれないよ」


「だったら、尚のこと寮で寝てなきゃ。卒業生の人たちに移しちゃうよ?」


「あ……。そんなこと忘れてたよ。

 うわー、こりゃ行くわけにいかないなあ」


 横山くんがガクンと肩を落としてしょげてる。

 可愛そうだな。ウィルスなんて消えちゃえばいいのに。


 私が、頭を撫でると、横山くんがすっと顔をあげて、マスクを外した。

 ぐるぐると腕を回してる。


「治った! なんか、一瞬で治ったよ!」


「うそー。そんなわけないじゃん」


 横山くんの額に触れてみると、本当に熱がない。

 さっきまで顔を真っ赤にしてたのに。


「どうして? いきなり回復魔法が効いたの?」


「いや、なんかさ、紗季に触れられた瞬間に楽になったよ。

 魔神の新しい力が目覚めたとか?」


「それは、無いよう。私は、破壊神だもん。

 壊すの専門で、回復魔法は、人並み以下だもん」


「でも、変だなあ。なんか、やったと思うんだよね。

 いま、触るときに、何か考えてた?」


「うーん。ウィルスなんて消えればいいって思ってたわ」


 横山くんが、ぱんと手を叩いて、私の手を握る。


「それだよ! 紗季は、なんでも破壊できるんだよ! 

 ウィルスだって例外じゃない!」


「え? そうなのかな?」


 マスクをして、辛そうに歩く人が通りがかった。

 横山くんが、話しかける。


「すみません。何の病気ですか?」


 その人は、訝しい顔をして、横山くんを見てから、

 辛そうに病名を告げてくれた。


「ノロウィルスだよ……」


「紗季! さっきのやってみて!」


 本当にそんなんでうまくいくんだろうか?

 私は、半信半疑のまま、ウィルス消えろと考えてから、

 その人の額に触れた。


 その人は、驚いた顔をして、上半身をぐいぐいっと捻った。


「治った! ありがとう!」


 嬉々として去っていく、その人の背中を見送り、

 横山くんと目を合わす。


「やったじゃん! これなら、どんな病気も治せるよ! 

 すごい能力だ!」


「うん!」


 破壊することしか能のないと思っていた私に、

 人の役に立てる希望が湧いてくる。

 私は、横山くんをじっと見る。

 思えば、横山くんと付き合いだして、運命が変わった。

 暗殺者としての生活を終え、楽しい学生生活を満喫できた。

 覚醒しちゃったときは、悩んだけど、横山くんのおかげで、

 たくさんの友達もでき、また今は私の新しい力の使い方を見つけてくれた。

 横山くんは、私をどんどん変えてくれる。


「ん? どうしたの?」


「なーんでもないの」


 私は、横山くんの腕に抱きつく。

 これからも、横山くんと一緒に色んなことを経験していくだろう。

 この人と出会えて本当によかった。

 この人を好きになって本当によかった。

 私は、幸せな気持ちに浸りながら、学校への道を横山くんと並んで歩いた。


=======完=========


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