第28話 裏切り
第28話 裏切り
それから、数日が経ち、冬休み間近となった。
江藤さんの発案で、グルタン(旧:親衛隊)のメンバーで、
クリスマスパーティーをしようということになった。
放課後、教室に集まり、どういうふうにしようかと話し合う。
江藤さんが、顎に手を当てながら、うーんと唸る。
「まずは、場所だな。寮じゃ狭いしなあ。どっかいいところないか?」
桜が、私に流し目をしてくる。
「こういう時に、忍びに頼めばいいのよ。紗季、呼んでよ」
うーん。忍びは便利屋じゃないんだけどなあ。
忍び笛を吹くと、佐藤さんが窓から現れた。
この人、気配はしないけど、いつもどこにいるんだろうか?
「お呼びで、ございますか」
「すいません、みんなでパーティーをしたいんですが、
ゆっくりできる場所を確保してもらえますか?」
「お安い御用です」
佐藤さんは、携帯でどこかに電話しだした。
「佐藤です。ご無沙汰しております。ええ、そうなんですよ。
また、その節は、お願いします。
きょうは、スイートを取ってもらいたいと思いまして。
ありがとうございます。さすが、横光さんです。
頼りになる。はい。では、よろしくお願いいたします。
予約名は、イザベロス=シオン様で。
はい、そうですよ。破壊神の。ええ、我々の首領です。
あははは。では、また」
電話を切り、佐藤さんはニコと笑顔になる。
「ダイアンホテルのスイートを抑えました。では、私はこれで」
佐藤さんは、再び窓から出て行く。なぜ、廊下を使わないんだろうか?
不思議な人だ。みんなが、手を叩いて喜ぶ。
「すげー、ダイアンホテルだって」
「すごいわ。ものすごく豪華になったじゃないの!」
「おほー、シオンちゃんさまさまだな」
みんなが、喜んでくれて私も嬉しいわ。
横山くんが、やったねといって私の肩に触れてきた。
えへへ褒められちゃった。
次の日。
終業式を終え、私たちは買い出しを手分けして行って、
ダイアンホテルに集合した。
ホテルのロビーに入ると、ホテルの支配人さんが、待っていてくれた。
「ようそこ、お待ちしておりました」
「お世話になります」
ホテルの人たちが、私たちが持っていた荷物を持ってくれて、
運んでくれる。
ホテルは、高級感があって、何だか私たちは、場違いな感じがする。
でも、私たちがエレベータに進む間も、ホテルの人たちは、
満面の笑みで迎えてくれる。
高層階用のエレベータに乗り込むと、ガラス張りで外の景色が見える。
夕暮れで、空の色が紫色になっていてすごく綺麗。
横山くんが、みんなにわからないように、私の手の甲に触れる。
私も人差し指で、横山くんの指を撫でる。
指が触れているだけなのに、すごく幸せ。
まるで、抱きしめられているような気がしてくる。
部屋に通されると、窓が大きく夜景が眼下に広がっている。
部屋のリビングは、まるで学校の武道場みたいな広さがある。
すごく豪華だ。
調度品も高いものが揃っている。あまりの光景に私は、
口をポカンと開けてしまう。
岸川さんが、目を輝かせる。
「素敵ー! 最高じゃないの!」
早見さんもうっとりして同意する。
「すごいですー! 私、こんなところ初めて」
皆が感嘆の声を漏らしていると、支配人さんは、防音は完璧なので、
自由にお楽しみくださいといって部屋を出ていった。
途端に、岩井くんと横山くんが、ベッドルームに突撃し、
白石くんは、冷蔵庫や棚を開けて、中を確認する。
その様子をみて、姫野さんが冷ややかな目を向ける。
「いやねー。貧乏人はこれだから」
桜も苦笑してる。実は、私も部屋を見て回りたいけど、
もうちょっと時間が経ってからにしよっと。
江藤さんは、がはははと豪快に笑う。
「まあ、いいじゃねえか。こんなところ滅多にこれないんだしよ。
さっ、用意しようぜ」
岸川さんが、私と桜と早見さんに買い物袋を渡し、
私たちはそれぞれを開けていく。
江藤さんが、岩井くんと横山くんを呼んできて、パーティーが始まった。
スパークリングワインをグラスに注いでいると、横山くんが渋い顔をする。
「紗季は、シャンメリーにしといた方がいいんじゃないの?」
みんなが飲むのに? 大丈夫よ。1杯だけにしとくもん。
私は、胸をドンと叩く。
「大丈夫よ。同じ失敗を3回も繰り返さないわ。1杯だけで止くから」
みんなのグラスにスパークリングワインを注いで、乾杯をする。
うーん。美味しい。なんか、ジュースみたいにすっと飲めるわ。
私が、グラスを空けると、桜が注いできた。
「いい飲みっぷりね。ささ、もう一杯」
注いでもらったら、飲まないわけにはいかないわよね。
私がグラスに口をつけると、横山くんがグラスを取り上げる。
「ひょっとー、らにするのよー」
あれれ、なんか舌が回ってないぞ。
横山くんが意地悪するぞー、なら、こうだ!
私は、横山くんに抱きついて、キスする。
うーん。いい気持ち。ふふふ。
横山くんが、顔を赤くして照れてる。
かわいいわー。
「ちょっと、紗季! みんな見てるってば!」
江藤さんが、がははと笑う。
江藤さんは、毛深いなあ。手の甲まで毛が生えてるわー。
「シオンちゃんは、酒に弱いんだなあ。無敵の破壊神の弱点発見だ」
「弱い? なにいってるんれすかー。私は、ヒック。
次期、魔王のイザベロス=シオンよ! 酒なんれ、よわいわけないわー」
あっとと。転けそうだわ。白石くんにもたれかかると、
白石くんが汗をいっぱいかいてる。
「なんれ? なんれ汗かいてるのー。あはははは」
楽しいわあ。ふわふわしていい感じ。
白石くんに膝枕してもらって、寝てるといい感じ。
太ってるから、気持ちいいわ。
うーん。ちょっと、眠たい。
桜が私をつついてくる。
「始まったばっかりよ? なんで、寝てるの?」
「寝てない。寝てない。ちょっと横になってるだけー」
目を瞑ると、意識が遠のいた。
眩しくて、私は目を開けた。
いつの間にか寝てたらしい。
昨日の記憶があいまいだ。確か、スパークリングワインを飲んで、
ちょっと寝てまた起きて、ケーキ食べたり、チキンを食べたりした。
そういえば、みんなにパンツ見せたり、岸川さんのスカートめくったりした。
あちゃー、マズイな。頭痛いし、みんなに謝らないと。
ふと横を見ると、横山くんが姫野さんと抱き合って、
一枚の毛布で寝てる。
もう! 私という彼女がいるのに、姫野さんと抱き合って寝るなんて。
私が、顔を洗面所にいって戻ると、
岸川さんや江藤さんが起きて伸びをしていた。
江藤さんが、横山くんと姫野さんを見て、笑う。
「コイツラ、デジカメで撮ろうぜ。あとで、からかってやろうや」
岸川さんが、腕を組みながら、苦笑する。
「それは、坂野さんに悪いでしょ? ダメだよ。坂野さんの前で」
「そっかー。シオンちゃんごめんな。とにかく、起こすか」
江藤さんが、毛布を取った。
目の前の光景が、私は信じられず、
バットで頭を殴られたかのようなショックを受けた。
息が苦しい。思うように空気が吸えない。
ぎゅーっと心臓を掴まれたみたいに胸が苦しい。
頭がくらくらとして、何も考えが浮かばない。
江藤さんも、驚いて固まり、岸川さんが、きゃっと小さく声を上げた。
私は、どうすることもできず、その光景をただただ、見ていた。
横山くんと、姫野さんの下半身は裸で、
床には横山くんか姫野さんの体液がべっとりとついていた。
私の目から涙が、ボトボトと床に落ちた。
横山くんが、うーんといって目を覚ました。
私と目が合うと、横山くんはニコッと笑顔になった。
「おはよう」
私が、その言葉に反応できずにいると、
江藤さんが、横山くんの胸ぐらを掴んだ。
「お前、何やってる! 何やってんだ!」
「え? な、何ですか?」
「なんですかじゃねえ!」
姫野さんが起き、下半身を毛布で隠す。
「ご、ごめんなさい。実は、随分前から、
横山くんとこういう関係だったんです……」
私は、部屋を飛び出した。
どこをどう走ったか、気が付けば街を見下ろせる展望台にいた。
手すりに掴まって、街を見る。
涙で、歪んで見える。
愛って、不思議だ。
知らない時は、いいことばかりが起こる物って思ってた。
でも、実際は素晴らしい思いもするけど、同じぐらい辛い目にもあう。
はぁ。なんで私は、こんなところでため息をついてるんだろう。
でも、私のは本当の愛ではなかった。
横山くんは、私のことなんて、好きではなかったんだ。
同じ年頃の女のこだったら、誰でもよかったんだ。
私とエッチすると大変なことになるから、
身近でエッチさせてくれる姫野さんに乗り換えたんだ。
そう思うと、今までのことが走馬灯のように思い出されて、
私は、嗚咽を漏らしてしまった。顔を上げているのが辛い。
横山くんがいる街を見るのが辛い。
10分も泣き続けた頃だろうか。不意に携帯が鳴った。
宮元くんからのメールだ。
宮元くんは、私が落ち込んでる時に、タイミングよくメールをくれる。
テレパスだから、私が落ち込んでるってことがわかってるのかもしれない。
〝元気? 俺は、元気もりもりだよ〝
一人でいるのは、辛すぎる。
誰でもいいから、優しくしてもらいたい。
会って、声をかけてもらいたい。
私は、宮元くんにカラオケでも行かない? と返信した。
宮元くんと待ち合わせた駅前の広場で待っていると、
イルミネーションを見ながら、カップル達が寄り添ってる。
私は、もう横山くんとああいう風には、なれない。
そんな風に考えると、気分はますます落ち込んでくる。
カップル見てると、ひねり殺したくなる……。
私は、ぶんぶんと頭を振る。
殺すだなんて、物騒なことを考えちゃダメよ。
少しすると、宮元くんが空中を飛んできた。
「やあ、紗季ちゃんお久! さぁ、行こう!」
「うん」
宮元くんが、私の手を掴んで、ずんずんと歩いて行く。
途中、ガラの良くない人たちがコンビニ前でたむろしてる。
私を見ると、下品な笑い声を上げながら、
私に聞こえるように大声でしゃべる。
最近は、私が危害を加えないってわかった一部の人たちは、
度胸試しと称して、わざと私をからかってきたりすることがある。
「あれ、魔神なんだろ? 物騒だよなあ。
校舎吹っ飛ばすような奴が普通に歩いてるとよー」
「全くだぜ。どうせ、あの格好も化けてんだろ?
本当は獣なんじゃねえの?」
私は、マントの襟を立てて、早足で歩く。
宮元くんが、突然止まった。
コンビニ前の人たちを睨んでいる。
「宮元くん、いいよ。気にしてないから」
「紗季ちゃん。君がよくても、俺がよくないよ。
こういう奴らにはわからせる必要がある」
宮元くんの目に狂気が見える。
宮元くんは、髪の毛を逆立てながら、話していた集団の前に立った。
「おい。お前ら、俺の連れに何か言ったか?」
「あーん? テメエにゃ、関係ねえだろうが? 喧嘩売ってんのか?」
「そうだよ」
宮元くんは、座っていた一人の顔を蹴飛ばした。
立っていた一人が、掴みかかるとその人を壁まで吹き飛ばす。
呆気に取られているもう一人の髪の毛を掴み、
ギラギラとした目で睨んでいる。
私は、宮元くんの肩を掴んで止めた。
「ダメだよ。宮元くん! こんなことしちゃ!」
宮元くんは、私の方は振り返らず、ふーふーと息を吐いている。
「紗季ちゃん。
僕はね、さっき紗季ちゃんが言われたみたいなことを、
子供の頃から言われて大きくなった。
それで、わかったんだ。こういう奴らは、体に分からせる必要がある」
宮元くんは、男の人の腹を殴った。
殴られた人は、体を九の字に曲げ、胃の内容物を戻した。
「いいか! 二度とこの子に、そんな口をきくな!
次見たら、お前らを殺す!」
宮元くんは、くるりと振り向くと元のように優しい笑顔で、
私に笑いかける。
「さっ、行こ」
「う、うん。でも、大丈夫かな。あの人たち……」
「気にしない。気にしない。無礼者を成敗しただけだよ? ね、お姫様」
そう言って、宮元くんはウィンクしてくる。
いつも言う宮元くんの冗談なのに、私はドギマギして目を逸らす。
「あの、宮元くん。喫茶店にでも入らない?
ちょっと聞いて欲しいことがあるの」
「うん。いいよ」
喫茶店に入り、コーヒーを頼んだ。
宮元くんは、ニコニコしてる。何だか、話し難いな。
「言ってご覧よ。悩みがあるんだろ?」
「う、うん。もしかして、わかっちゃった?」
「いや、心の中は見えないけど、顔でわかるよ」
「そか。あのね、実はその……。横山くんと上手くいってないんだ。
というか、横山くんは、他の子が好きだったみたいなの」
横山くんは、ふーんと言ったかと思うと、指でテーブルをトントンと叩く。
「他の子を好きだったって何でわかるの?
デートしてる現場を見たとか?」
ホテルで、横山くんと姫野さんが下半身丸出しで抱き合っていた場面が 、頭をよぎる。
私の心は乱れ、魔力が溢れ出す。
喫茶店の窓ガラスがいっぺんに割れ、テーブルが吹き飛んだ。
宮元くんは、よつばいになって、耐える。
いけない、このままだと宮元くんまで吹き飛ばしちゃう。
私は、必死になって魔力を抑える。
「さすが、紗季ちゃんだ。すごいね。今のは、心が読めたよ。
あいつがそんなことするなんてね。
あんなに君のこと好きだっていってたのに、
嘘だったのか」
私の目からまた涙が溢れてくる。
辛くて、悲しくて、寂しくて、私は顔を手で覆った。
あとからあとから、涙が流れる。
私が泣いていると、宮元くんは優しく頭を撫でてくれた。
「好きなだけ泣いたらいいよ。あいつは、俺が叩きのめしてやるよ」
私は顔を上げて、それを止めた。
「止めて、宮元くん。私が勝手にのぼせてただけなの。
私、こんななんだもん。普通じゃないもん。
他の女の子にいくのも無理ないもん……」
宮元くんは、ケタケタと笑いだした。
私は、驚いてしまう。なんで、笑うの?
「紗季ちゃんは、最初あったときから特別な力があるって感じたんだ。
で、彼氏って現れた奴は、あんなのだろ?
あまりにも力が違いすぎるから、こんなことになるだろうな。
って思ってたんだよ。魔法が少々使えるぐらいで、普通に育った奴に、
君を理解することはできないって。
遅かれ、早かれ別れることになったと思うよ」
「それって、予知してたってこと?」
「ううん。普通に考えたら、そうだろうなってことだよ。
紗季ちゃん、今まで冗談めかして言ってたけど、
俺は、マジで君が好きだ。
あんなやつ忘れて、俺と付き合ってくれないか?」
宮元くんは、私の手を握って真っ直ぐに見つめてくる。
宮元くんは、子供の時から超能力が強すぎたせいで、
白い目で見られていた。
宮元くんなら、私の気持ちをわかってくれるかもしれない。
宮元くんなら、私のことを怖がらずにいてくれるかもしれない。
でも、私はまだ横山くんのことが好きだ……。
「宮元くん、あの……」
「返事は直ぐじゃなくていいよ。横山との関係を精算してからでいい。
文句の一つも言いたいだろ? 俺は、ずっと待ってるから」
宮元くんの言葉に、私の胸はキュンと高鳴る。
宮元くんは、私のことを本当に思ってくれてるんだ。
好きな人よりも、好きになってくれた人と付き合うほうが、
幸せになれるって誰かが言ってた。
私の心はぐらぐらと揺れてしまう。
忍びの佐藤さんを呼んで、お店の始末を任せてから、
私は宮元くんとカラオケに行って、朝まで遊んだ。




