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第23話 文化祭

第23話 文化祭


 次の日


 私は晴れやかな気持ちで、起きた。

 きっと、昨日の横山くんとのことは、私の一生の記念になるだろう。

 最後までできなかったことは、残念ではあるけれど、

 一つになれた気がした。

 顔を洗い、食堂に行くと姫野さんが待ち構えていた。


「おはよう。シオン様」


 そう言って、姫野さんはウインクしてくる。

 こうしてると、可愛いんだけどなあ。


「おはよう。姫野さん」


 トレーに朝食を載せて、席に着く。

 今日は、和食だ。ご飯に焼き鮭、のりと味噌汁。

 いつもと同じ朝食も、なんだか、今日は美味しく感じる。


 桜が少し遅れて、食堂にやってくる。

 私の顔を見るなり、何か気付いたのか、ニヤリと笑う。


「ああ、そう。そういうことー。紗季も案外やるわね」


「な、何がよ。意味わかんないわ」


 桜は、私の顔を覗き込んでくる。私は、なんとなく気まずくて、

 下を向いてしまう。


「あー、なんか男の匂いがするんですけど」


 嘘? もしかして、横山くんお匂いが移っちゃった? 

 でも、あのあとちゃんとお風呂に入ったし。


「嘘よ。嘘。そんなに焦んないでよ」


 桜と私のやり取りが理解できないのか、姫野さんはキョトンとしている。

 もし、気付かれたら、横山くんに危害を加えかねない。

 絶対、悟られないようにしないと。


「そうそう。桜、今日衣装合わせだからね。昼休み、忘れないでよ」


「ちゃんと、覚えてるわよ。どんな衣装か楽しみだわ」


 朝食を終え、制服に着替えて部屋を出ると、姫野さんが待っていた。

 昨日と同じように、横山くんを男子寮の前で待つ。

 しばらくすると、横山くんと江藤さん、白石くん、

 岩井くんがゾロゾロとやってきた。


「お、おはよう」


 横山くんを見ると、昨日のことが思い出されて、照れてしまう。

 あんなに、乱れていやらしいと思われただろうか。


『シオン様、おはようございます』


 4人の口を揃えての挨拶に、私は面食らう。


「ちょっと、止めてくださいよ。今は誰も見てませんよ」


 江藤さんが、ピンと人差し指を立てる。


「いやいや、普段からやっとかないと、肝心なところでボロが出るって。

 なあ、みんな?」


 皆が、うんうんと頷く。なんか変な感じだなあ。

 姫野さんが、私の手を握ってくる。


「私、負けないから。こんな奴らより、シオン様のこと思ってるから」


「そ、そう? ありがとう」


 うーん。姫野さんも何とかしないと。

 何だか、このままだと間違った道にいっちゃいそうだ。


 学校に着くと、校門前で岸川さんと早見さんが待っていた。


『おはようございます。シオン様』


 二人が同時に挨拶してくる。

 横山くんたちといい、練習でもしてるんだろうか?


 早見さんが寄ってくると、姫野さんが私をかばうようにして、

 早見さんの前に立ち塞がる。


「気安いわね。私のシオン様に、あんまり近付かないで」


 この際、姫野さんに少し迷惑してるって言ったほうがいいんだろうか?

 でも、こういう人って言い方間違えると、面倒なことになりそうだしなあ。


「あのね、姫野さん。早見さんは友達なの。仲良くしてもらえないかな?」


「そうですか。シオン様がそうおっしゃるなら、そうします」


 あれ? なんだろ? 今日はやけに素直だ。

 いつもこんなだったら、苦労しないんだけど。

 昨日みたいに、泣かれたりするのは、勘弁だわ。


 私たちは、他の生徒に注目されつつ、教室にゾロゾロと向った。


 放課後。


 横山くんは、行くところがあると言って、どこかに行ってしまった。

 姫野さんが、私の席にくる。


「シオン様。パフェ食べにいきませんか? 

 私、美味しいところ知ってるんです」


「うん。いいよ」


 学校から15分程歩き、細い路地にあるこじんまりした店の前まで来て、

 姫野さんが、私の方を向く。


「ここのパフェすごく大きいんですよ。もう、びっくりしますよ」


「姫野さん。周りに人がいないときは、別に敬語使わなくていいよ。

 私たち、友達でしょ?」


「うん。じゃあ、普通に話すね!」


 お店に入り、メニューを見る。


 S、M、L、LL、3L、メガ盛とのサイズ表記がある。

 メガ盛は、まるでバケツのようだ。

 こんなのを食べきれるとは思えない。

 私たちは、LLサイズを一つ頼んだ。


「でもさ、姫野さんレベル7なんて、すごいね。なかなかいないでしょ?」


「井上学園で、TOP10ってところかな。レベル8の3人に準ずるって感じよ。 でも、坂野さんの方がすごいでしょ?」


「私が、できるのは壊すことだけだからね。

 今度、昇級試験受けに行こうと思ってるけど、

 魔力の大きさだけじゃ昇級できるとは思えないし、

 もしかしたら、レベル1のままかもしれないわ」


「そんなことないよー。絶対、レベル8以上だよ。もしかしたら、

 世界初のレベル10に認定されるんじゃないかな?」


「そっかなー。魔力の大きさだけなら、確かにすごいと思うんだけど。

 話は変わるけど、姫野さんって好きな男の子はいないの?」


「いないよ。男なんて、ガサツで嫌だもん。なんか、臭いし」


「そっかー。でも、男の子の大きな身体に抱きしめてもらうと、

 こうキュンってなるよ。とっても、いい気持ち」


「私は、坂野さんに抱きしめてもらいたいんだけどなー」


 ちょっとー。私は、ノーマルだってば。

 そんな趣味はありません。

 話題を変えないと。


「そういえばさ、もうすぐ文化祭だね。去年のは、参加できなかったから、 私、楽しみなんだ」


「去年、ちょっと回ったけど、井上学園の生徒ばかっで、

 なんか内輪の催しって感じだったよ」


「ふーん。今年は、いっぱいお客さん来てくれるといいね」


 姫野さんが、ガッと私の両手を掴む。

 勢いに押されて、私は腰が引けてしまう。


「大丈夫よ! 今年は、満員御礼間違いなし! なんて言っても、

 坂野さんがイメージキャラクターになるんだから!」


「そ、そう?」


 ウエイトレスさんが、パフェを持ってきた。

 うわー、すごく大きい。花瓶のような器にパフェがてんこ盛りだ。


「すごいね。これどう食べたらいいの? なんか、崩れちゃいそう」


「こうね、上の方と下をバランスよく掬うの」


 姫野さんは、一番上の生クリームと、

 トッピングされたフルーツを器用に救って口に運んだ。

 私も真似して、口に運ぶ。


「美味しい!」


「ね? 美味しいでしょ? 私、いつも一人できてたんだ。

 今日は、坂野さんと一緒にこれて嬉しいんだ」


 そか。姫野さんは、友達がいないんだ。

 ちょっと変わってるから、その理由がわかる気がするけど。


「坂野さん、ごめんなさいね。私、友達なんていなかったから、

 距離感が掴めないんだ。

 なんか、坂野さんを独り占めしたいってそればっかり考えちゃう。 

 もう少ししたら、きっとなれると思うから」


「ううん。私も気持ちわかるよ。私も友達なんてずっと桜一人だったから。

 親衛隊の人達と仲良くなってみなよ。少しずつ距離を縮めてさ。

 みんないい人だよ。岸川さんや早見さんって女の人も入ってくれたから、 そこから仲良くなっていけばいいよ」


「うん。頑張ってみるね」


「それにしても、ここのパフェすごい量だね。メガ盛なんていったら、

 バケツみたいじゃん」


「私ね、いつかメガ盛を制覇したいって思ってるんだ。

 でも、まだ一人だとLが精一杯なの」


「そかー。じゃあさ、今度、岸川さんと早見さんも誘って4人で、

 こようよ。そしたら、メガ盛いけるかもよ?」


「うん。そうだね!」


 私たちが、パフェを食べ談笑していると、ウエイトレスさんが、

 色紙を持って近付いて来た。


「あの、すみません。よかったら、サインをいただけませんか?」


「え? 私ですか?」


 姫野さんが、コクりと頷く。

 サインなんて、書いたことないけど。

 なんか、芸能人みたいだな。


 色紙を受け取り、坂野紗季って書こうとして、思いとどまった。

 ここは、イザベロス=シオンって書いたほうがいいだろう。

 私は自分の真名と、ライムライトさんへとかいた。


「ありがとうございます! あの、失礼次いでで、

 申し訳ないんですけど、一緒に写真撮ってもらえませんか? 

 パフェの料金は無料にいたしますので」


 写真を一緒に撮ると、ウエイトレスさんは、喜んで下がっていった。


「なんか、得しちゃったね。破壊神で初めてよかったって思った」


「そうだね。うふふふ」


 私と姫野さんは、それから数時間語り合った。


 それからの数日は忙しかった。


 衣装を合わせが終わったあとは、ポスター撮影、WEBようの写真撮影、

 TV局の取材と、文化祭を盛り上げるためにあらゆる協力をした。

 もっとも、実行委員の人たちは、配っていたポスターを張替えてもらうために、

 走り回ったり、パンフレットを差し替えたりして、

 もっと忙しそうだったけど。

 横山くんは、なんでか放課後は、さっとどこかに行ってしまっていたけど。

 姫野さんもだんだんと皆と打ち解けて、普通に話せるようになってきた。

 江藤さんや、白石くんも手伝ってくれて、なんとか文化祭当日を迎えることができた。


 文化祭初日の金曜日。


 朝から私は、用意された衣装に着替えてる。

 肘までの白の手袋や、白のブーツを履く。

 岸川さんが、ティアラを頭に載せてくる。


「岸川さん、ちょっとこれやりすぎじゃないですか?」


「そんなことないって。うん。素敵」


 私がポーズを取ると、早見さんと姫野さんもうんうんと頷いてくれる。

 桜も、白と青を基調とした衣装を身に付け、くるりと回る。


「じゃあ、行きましょう。紗季。

 人間たちに魔神の美しさを見せつけるのよ」


「うー。緊張するわー」


 桜と一緒に、廊下に出ると、フラッシュがバシバシとたかれ、

 あっと言う間に、人に取り囲まれた。

 きれーとか、ほーっと言ってくれるのは嬉しいけど、

 これじゃ身動き取れないわ。


「はいはい! 道をあけてくださいね!」


 江藤さん、白石くん、岩井くんが私たちの周りの人を押しのけ、

 道を開けてくれる。

 みんな、赤の制服を着てる。

 すごい間にあったんだ。


「江藤さん、その制服」


「かっこいいだろ? 特注の親衛隊の制服さ。今日から張り切って、

 警護するぜ」


 でも、横山くんの姿が見えないな。どこいったんだろ?


「あの、横山くんは?」


「ああ、あいつはね、明日の準備で忙しいみたいよ」


 そっか。ちょっと寂しいけど、今日は私も自由に動けないし、

 仕方ないか。

 講堂に行き、記念写真と握手に応じている内に時間はドンドンと過ぎ、

 閉園の時間となった。


「はぁー。やっと終わった。ご飯食べる時間もなかったよー。

 お腹すいたー」


 桜が肩をもんでくる。


「お疲れ様。なかなか様になってたわよ。拝んでた連中もいたじゃないの」


「あの新興宗教の人たちでしょ? 世界の終わりは近いとか言ったし、

 なんかやだったよ」


「あいつらにとって、あんたは担ぐ神輿としては、最適だからね。

 なってやったらいいじゃないの本尊にでも」


「軽く言ってくれちゃってー。

 私は、破壊神の力を抑えようと努力してるのにー」


「わかってるわよ。

 このところ、だいぶ力をセーブできるようになったみたいだしね。

 この分なら街を破壊される心配はしなくてもいいみたいね」


 講堂からの渡り廊下を歩くと、校門の方で歓声があがった。

 人々が、私に手を振ってくる。


「おーおー。出待ちまでいるじゃないの。すごい人気だわね」


「半分は桜のせいでしょうにー。テレビとかで変なこというからでしょ?  でも、桜、文化祭を盛り上げようとしてくれてたんだね。

 見直しちゃったよ」


「ふふふ。私だって、この学園が気にいってるのよ? 

 バスケ部の活動資金も増やしたいしね」


「そか。この調子で明日も頑張ろうね」


「あら? 忘れたの? 明日は、一大イベントよ?」


 そうだった。明日は、私の花婿候補を決めるとかいうのするんだったわ。

 横山くんは、結局今日も姿を見なかったけど、

 いったいどんな準備してるんだろう。


 私たちは、着替えてから寮に戻った。

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