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第19話 記者会見

第19話 記者会見


 次の日。


 食堂に行くと、桜が手をひらひらと振ってくる。


「おはよう。今日は曇り空ね」


「おはようじゃないわよ。あんた、昨日、騒ぎ起こしたそうじゃないの。

 統一政府から私の方に連絡あったわよ。この世界を壊したいの? 

 壊したくないの? いったいどっちなのさ?」


「そりゃ、できれば壊したくないけどさー。私も努力してるんだけど、

 上手いこといかなくて。って、政府から連絡ってなによ?」


「あのね、人間は、あんたの力を恐れてるの。

 あんたは、いうなれば意思のある核弾頭みたいなもんよ。

 そんなの街中にいたら危なくてしょうがないでしょ?」


「ひ、人を核弾頭って……。

 それが、政府が桜に連絡することと関係あるの?」


「あんたは、そういうめんどくさいの嫌いでしょ? 

 だから、私が不安を与えないように、政府の偉いさんと会ってるのよ。

 ちょっとは感謝しなさいよね」


「う、うん。ありがと」


「でも、おかしいな。新しい封印があったら抑えるの簡単なはずなのよ。

 もしかして、あんたまだ横山くんとエッチしてないとか言うんじゃないでしょうね?」


〝ブッ!〝


 私は、飲んでいた牛乳を吹き出してしまった。

 驚いて、桜を見ると、桜は呆れた顔をする。


「あーあー。そういう事ね。あんたバカじゃないの? 

 好きなら、早く抱かれなさいよ。

 私たちと違って、人間はすぐ死んじゃうんだよ?」


「だ、抱かれるなんて、そんな。まだ、結婚だってしてないんだし……」


「はあ? 結婚? あんた人間のつもり? 

 あんたは破壊神よ。

 破壊神が、人間の決めたルールにしたがってどうするのよ?」


「そ、そんなに言わないでよー」


「いいから、今日にでも抱かれなさい。女の子の日って訳じゃないんでしょ?」


「そんな、犬や猫じゃあるまいし……」


「遅いか、早いかの違いで、結局抱かれんでしょうが? 

 だったら、もったいぶってないで、抱かれなさいよ。

 横山くんだって、やりたくて仕方がないはずよ」


「そんなことないもん。横山くんは、紳士だもん」


「まったく、この子は男を知らないにも程があるわ。

 いい? 年頃の男は、みんな女とやることしか頭にないのよ?」


 桜が私の胸を見てから、自分の上半身を振って、胸を揺らす。


「もっとも、あんたみたいな胸じゃ、横山くんは欲情しないかもだけどね」


 くー。この子ったら、胸が大きいのを自慢してくれちゃって。

 私だって、成長してんだからね。きっと今にBカップがCになるんだからね。


「女の価値は、胸の大きさじゃないもん。

 デカパイは、垂れるんだよ? そんなことも知らないの?」


「あーら。お生憎様。私、200歳とちょっとだけど、

 まだハリのある胸よ。忘れたの?」


 きーっ! ああ言えば、こういって! 

 なんとか凹ませることできないかしら。

 頭にくるわ。


「ほらほら、あんたは言ってるそばから」


 桜に指摘されて、持っていたコップを見ると、ヒビが入り今にも壊れそうだ。


「あちゃー。しまった」


「ね? だから、横山くんとエッチしなさいって」


「うーん。ちょっと考えさせて」


「あらあら。考えてる間に、この世界を壊して泣きついてきてもしらないからね」


「そ、そうしないように。気をつけるわよー」


 朝食をとり終わり、着替えながら、ふと考える。


 キスするだけで、体がふわふわして、幸せな気分になる。

 もし、それより先のことをしたらどんな風になってしまうんだろう。

 横山くんの指が私のブラウスのボタンを外し、中に入ってくる。

 手で触れられたところに、電気が走る。

 横山くんの手が、私の衣服を脱がし、裸になった私にキスしてくる。

 きゃー! もうどうしよう!


 急に強い風が吹き、ホコリが舞う。

 あれ? なにこれ?

 壁に30CM四方の穴があいて、外が見えてる。

 私は、興奮して壁を壊してしまったらしい。

 あちゃー。朝から何やってんだろ。私ってば……。


 音に驚いて、近くの部屋の子達が、ドアから部屋を覗いている。

 私は、カバンで穴を隠しながら、言い訳する。


「ご、ごめんね。びっくりさせて。なんでもないから」


 みんなが去ってから、私は紙をセロテープで貼り付ける。

 朝から何やってんだろう。私ってば。

 寮菅さんに穴あけたっていったら、寮を追い出されてしまいそう。

 なんとかしないと。


 桜にいったら、政府の人とかに連絡して、上手いことやってくれるだろうけど、

 桜の勝ち誇った顔を、またみないといけないと思うと、それはしたくない。

 うーん。どうするのがいいだろうか。


 着替え終わってから、男子寮の前で待っていると横山くんがやってきた。

 さっきの妄想が頭に浮かんできて、まともに顔が見れない。


「おはよう。紗季。今日は寒いね」


「お、おはよう。横山くん……」


「ん? 顔赤いよ。どうしたの?」


「な、なんでもないよ」


「熱あるんじゃない?」


 横山くんが私の額に触れてきた。

 私はドキドキしてしまって、鼻息が荒くなる。


「大丈夫? 学校休んだがよくない?」


「だ、大丈夫だよ。私、魔神だよ? 風邪なんてひくわけないじゃん」


「そう? ならいいけど。そういえば、

 昨日さ、三木谷が坂野さんこないのかってうるさかったよ。

 人の彼女に何いってんのかって感じ」


 三木谷くんといえば、この前の食事会よね。

 消し去りたい記憶だわ……。


「また、遊びにいくよ。桜が言うには、

 私は何してもいいんだって。なんか、特別待遇って嫌だけど」


「いいんじゃない? 深く考えなくて。

 俺は、そんな紗季を彼女にできて、鼻が高いよ」


「そう? えへへ。なら大事にしてよね」


「はいはい。お姫様。そうしますよー」


 しばらく歩くと、目の前に黒いスーツをきた男が現れた。

 身のこなしからして、忍びだ。私の前にきて、跪く。


「ちょっと! こんな所まで何しにきたの? 消されたいの?」


 男は、驚いた顔をして頭を下げる。


「申し訳ありません。私、連絡役として派遣されてきました。

 佐藤と申します。また後ほどお伺いいたします」


 あ、そうだった。昨日、連絡係をよこせといったんだったわ。

 すっかり忘れてた。

 立ち去ろうとする佐藤さんに、私は声をかける。


「待って。早速、お願いがあるんだけどいい?」


「はっ。なんなりとお申し付けください」


 私は、佐藤さんの耳元に口を寄せる。


『私の部屋の壁が壊れたんだけど、直せる?』


 佐藤さんは、ニコリと笑う。


『お任せ下さい』


『じゃ、お願いね』


『はっ! それから、これをお渡ししておきます。

 何かありましたらお呼びください』


 佐藤さんは、私に忍び笛を渡すと、さっとその場を去った。


「すげー。今の忍者? 足はえー。もう見えなくなったよ」


「うん。なかなかいい人をつけてくれたみたい」


 学校までの数百メートルを、横山くんと歩く。

 横山くんが色々と話してくれるけど、私の頭には半分も入ってこない。

 女の私から、誘ったりしたら、横山くんは何て言うだろうか?

 はしたない女って軽蔑するだろうか?

 それとも、喜んでくれるだろうか?

 でも、どうやって誘ったらいいんだろう?

 エッチして! なんて言えないし……。

 ふたりっきりの時に、抱きついたら自然とそういうことになるんだろうか?

 他のみんなは、もうそういう事してるんだろうか?

 やだ、私ってば、こんなこと考えるなんて、すごくエッチな女の子だったんだ。

 いや、違うわ。これは、世界のためよ。けして、エッチに興味があるとかじゃないわ!


「って言うんだよ。まいるよねー。まったくさあ。

 じゃあ、そう返事してていい?」


「え? う、うん。お願いね」


 しまった。なんの話か全く聞いてなかった。

 でも、今更聞きなおすのも、変よね。

 横山くんも笑ってくれてるし、私も笑い返しておこうっと。


「今日の放課後さ、駅前のイルミネーション見にいかない? 

 すごく綺麗みたいだよ」


「いくいく! 楽しみだよ!」


 うふっ。今日も横山くんとデートだわ。

 イルミネーション見て、見つめ合って、キスしちゃったりして。

 そのあと、ホテルで食事して、部屋で一夜を……。

 きゃー! 私ってばもう!


「紗季! 落ち着いて!」


「え?」


 私は、いつの間にか、歩道横の鉄柵を地面から引き抜いてしまっていた。

 周りの人たちが、驚いて私を見ている。


「あ、いや、これは、その。ごめんなさい」


 私が頭を下げると、またみんな普通に歩き出した。

 あれ? なんで?


「昨日、ニュースでやってたのをみんな観たんだろうね」


「ニュースって?」


「魔神が地上に降臨したってやってたよ。紗季の顔がバーンってでてさ。

 ロギアンのお偉いさんと魔法院のお偉いさんも出てた」


「うっそ。何それ?」


「なんか、ロギアンの人がもっとも偉大な破壊神だって言ってたよ。

 仙谷も映ってたし、クラスの何人かもインタビュー受けてたよ。

 でも、俺のことは全然触れてもくれなかったよ。彼氏なのにさー」


 なんか私の知らないところで、変なことになっちゃってるみたい。

 困ったなあ。


 校門前に人だかりが出来ている。あれ、カメラか。うわーなんかすごい。

 桜がなんか話している。


「ええ。そういうこと。私? 私は大丈夫よ。

 自分の力を抑える術を心得てるわ。

 バスケとここの食事は気にいってるしね。

 それに魔神といっても、そこまでの力は持ってないわ。

 せいぜい国一つを滅ぼすのがいいところよ」


 何本ものマイクやカメラがある前で、桜は堂々としてる。

 すごいなあ。なんか、芸能人って感じ。


「では、観光をなさりにきたと、我々はそういう認識でいいのですね?   我々の安全は保証すると?」


「まあ、はずみで殺しちゃうことはあるかもね。

 ただ、我が主、イザベロス=シオンは、あなたたちのことを気に入ってるみたい。

 刺激しなければ、世界を滅ぼすなんてことはしないでしょうね」


「イザベロス=シオン様のお言葉もお聞きしたいのですが」


「ああ、イザベロス=シオンなら、そこにいるわよ」


 桜が私の方を指差すと、レポーターたちが私を取り囲んだ。


「破壊神とのことですが、人間界にこられた目的は?」

「貢ぎ物が必要ということでしょうか?」

「何を欲しておられますか?」


 私はあっと言う間に、もみくちゃにされる。

 のわー。なんなのこの人たち?

 横山くんが私の手を引き、校門の中へと連れて行ってくれる。


 警備員の人たちが、校門前で頑張ってくれている。

 テレビの人たちは、校門から入ってこられないみたい。

 よかった。びっくりしちゃった。

 私は、ほっとして教室に入る。


「あははは。なんか、驚きだね。芸能人みたいじゃん」


「もう! 他人ごとだと思って。なんでこんなことになっちゃうかなあ」


「不安なんだよ。俺らは魔神の教育なんか受けてるからまだ免疫あるけどさ。

 世界を滅ぼす力を持った魔神が現れたっていったら、

 一目みたいって思うのが、人ってもんさ。すぐ飽きて、来なくなると思うよ」


「そうだといいけどさー」


 岩井くんが席にやってくる。


「おはよう。お二人さん。どう? 昨日の話はOK?」


 横山くんが親指を立てる。


「坂野はOKだってさ。これで、盛り上がること間違いなしさ」


「マジ? やったぜ! 坂野さんありがとうね! 

 みんな! 坂野さんOKだってよ!」


 クラスのみんなが、はしゃぎ出す。

 すごい盛り上がりよう。


「じゃさ、昼休みに採寸するからよろしくね。

 仙谷さんもOKだといいんだけどなー。坂野さんからも頼んでみてくんない?」


「う、うん。わかったわ」


「よーし、今年の文化祭は、盛り上がるぜ!」


 岩井くんは、何やら喜んで自分の席に戻り、数人と何か話している。

 文化祭で、私は何かすることになってしまったらしい。

 うーん。困った。今更聞けないぞこれは。


 しばらくすると、担任の松尾先生がやってきて、私を呼んだ。


「坂野ー。すまんけど、記者会見に出てもらえるか。騒ぎが収まんなくてな。

 お前が普通の生徒として、扱って欲しいっていうのには、

 大賛成なんだが、こうなってしまうと、どうにもならんのだ」


「すいません。なんか、私のせいで」


「いやいや、お前は悪くないんだよ。

 魔法院は、内密にってことになってたらしいんだが、

 ロギアンの連中がなんか張り切ってしまってな。

 まあ、人間界で肩身が狭い思いをしてただろうから、

 仕方のないことかもしれんのだが」


 松尾先生の後についていくと、玄関ホールに机が並べられ即席の会見場となっていた。

 椅子の一つに、桜が座っていて、私を手招きする。


「ちょっと、桜。なんでこんなことになってるの?」


「仕方ないでしょ? ロギアンが昨日の電車のこととかを

 マスコミにリークしちゃったんだから。もう隠せないわよ」


「今朝、政府とのやり取りをしてくれてるって言ってたじゃないの。

 これもなんとかしてよ」


「いいじゃないの。好きなこと話せば。めんどくさくなったら、

 皆殺しにすりゃいいのよ。破壊神らしく」


「そんなことできるわけないでしょ? 何いってんのよ」


「紗季、あのね、神っていうのは、そもそも恐れられる存在なの。

 災厄を与える存在なの。お願いきいてくれるのが神じゃないのよ?」


 教頭先生が、記者さんたちの前に立って、話し出す。

 困ったなあ。もう少ししたら、私が何か言わないといけないみたい。

 うーん。なんていおう。なるべくフレンドリーなのがいいわよね。

「えへ。よろしくね♪」じゃ軽すぎるし、

 かといってあんまり礼儀正しいのも苦手だしなあ。

 私が迷っていると、教頭先生が引っ込んでしまった。

 げげっ。もうはじまるの? 何も言うこと思いついてないのに。

 ライトがつけられ、私を照らす。

 リポーターの人たちが質問をぶつけてくる。


「あなたは、破壊神ということですが、

 どのような目的で人間界へこられたのでしょうか?」


 目的? そんなものないわよ~。でも、そんなこと言ったら、

 怒られちゃいそう。

 うーん。なんか言わないと。

 桜が私を肘でつついてくる。わかってるわよ。急かさないで。


「人間界と友好を深めるためです」


 記者さんたちから、おおーっとの声があがる。

 よかった。今のは、我ながら上手い答えだったわ。


「では、人間を滅ぼすつもりはないということでしょうか?」


「ええ。そんなことはいたしません」


 また、記者さんたちから、安堵の言葉がもれる。

 なんだ。思ったより、簡単だわ。いい感じじゃないの。

 桜がふふっと笑って口を開く。


「補足させてもらうと、我が主、イザベロス=シオンにはその気はなくても、

 結果的に街を壊滅させることなどは起こりうる。

 その点は、了承願いたい」


 ちょっと、桜。なんてこと言うのよ。

 私は、桜の真意が測れず、戸惑う。

 記者さんたちに、ざわめきが起こる。


「し、しませんよ。そんなこと。桜、なんてこと言うのよ!」


「あーら。昨日、電車を壊したの誰でしたっけ?」


「それは、あのその。まあ、あれよ。ちょっとした間違いよ。

 そう! ちょっとした間違いなんです!」


「イザベロス=シオンにかかれば、ちょっとした間違いで、

 あのような交通災害をもたらします。

 刺激しないように十分、気を付けることです」


 桜めー。私を悪者にするつもりなの?

 なんとか、フォローしないと。

 ううっ。でも、電車壊したの本当だしなあ。

 なんて、いったらいいんだろ……。


 桜が、さっと銃を出して、私に向けた。


「ちょっと桜、何する……」


〝パーン!〝


 撃たれたことで、反射的に私から魔力が放出され、

 桜の腕を吹き飛ばし、壁が吹き飛ぶ。

 爆風で、記者さんたちやカメラがバタバタと倒れる。


「桜! 早く血止めを!」


「大丈夫だって。私だって、魔神なんだから」


 桜の腕は、見る見る間に復元された。

 記者さんたちは、驚きの目で私たちを見る。


「お分かり? 何か手を出そうものなら、

 こういう目に会うということです」


 記者の一人が、顔を引きつらせながら手を上げる。


「よろしい。そこの人間、発言しなさい」


「魔神のお力は、十分わかりました。

 それで、そのお怒りを買わないために、

 私たちはどうしたらいいでしょうか?」


「いえ、そんな私、何もしませんから。ホントですよ。ホントなんです!」


 桜が私に笑いながら耳打ちしてくる。

 こいつめー。ワザと私を怖がられるように仕向けてるくせに。


「そんなこと言っても、信ぴょう性がないわよ。

 ミラノのグラタンで、助けてあげてもいいけど。どうする?」


「え? ほんとに? 助けてよ。

 グラタンでも、オムライスでもおごるから!」


 桜は、すっと立ち上がると、向こうにいたロギアンの人を呼ぶ。

 すると、二人の人がやってきて、紙を壁に貼った。

 なになに。えーと。〝花婿募集 年齢、性別、不問〝 なんだこりゃ?


「さて。そろそろ我が主、イザベロス=シオンが人間界にきた本当の理由をいいましょう。

 それは、花婿を見つけるためです。我が主に見初められれば、

 人間界どころか、魔界も思うままです。

 さあ、我と思わんものは、10日後、午前9時に井上学園の校庭に集まりなさい」


 記者さんたちは、おおー! と歓声を上げる。

 ふー。なんだか、怖がられるのは、回避できたみたい。

 あれ? イザベロス=シオンって誰だっけ。

 桜は、コシンって名前だったよね。

 イザベロス=シオンって確かあたしだ。

 そっかー。私は、花婿を探しにって、ちょっと待ってよ! 

 なに言ってんの!


「では、今日はこれで御終いよ。さっ、お帰りなさい」


 桜は、すっと立ち上がり、教室の方へ歩いて行く。

 私は、追いかけて言って桜の手を掴む。


「ちょっと桜! なに言ってんのよ、あんた!」


「えー? 助けてあげたでしょ? 何が不満なの?」


「何って、私には横山くんって彼がいるでしょうが! 

 なに勝手なこと言ってんのよ!」


「だって、この方が面白いじゃない」


「面白くないわよ! ほら、職員室の電話じゃんじゃん鳴ってるよ!

 もう、どうすんのよ!」


「どうするも、こうするも、あんたは楽しみに待ってなさいよ。

 きっといっぱい来るわよ。

 なんていったって、あんたのハートを射止めれば、

 世界の王になれるんですからね」


「馬鹿なこと言わないでよ! 

 私は、そんなことで相手を選ぶなんてしないんだからね!」


「あんたは少しは遊び心を出しなさいよ。

 そんなんじゃ、今からの長い人生が退屈でしょうがないわよ? 

 それに、自分の目で選んだ男が信じられないの?」


「そんなことないもん。

 横山くんは、どんな男が来たって負けないんだから!」


「でしょ? なら、あんたはドーンと構えてなさいよ」


 そうだわ。横山くんは、どんな男が来たって負けないもん。

 桜の企みなんて、打ち砕いてくれるもん。

 あれ? なんか、上手いこと言わされた様な気がするけど、

 気のせいかな。


 教室に戻ると、横山くんが桜に喰ってかかる。


「なんだよ今のは! 俺はちゃんと約束守っただろ? 

 なんで、また花婿選ぶとかするんだよ! 話が違うじゃないか!」


「あーら。そうかしら? 

 この前は、彼氏になる条件を私は言ったと思うわよ。違う?」


「坂野は俺を好きでいてくれるんだ。

 その坂野の気持ちをなんで無視すんだよ?」


「はい? 面白いからに決まってるじゃないの。それ以外何があるの?」


「面白いって。おい、ふざけんなよ! 何言ってんだ?!」


「あー、もう煩いわね。それ以上ガタガタ言ってると、

 紗季を魔界に返しちゃうわよ? 

 私は、その権限を与えられてるんだから」


「え? そ、そうなのか?」


 横山くんが、私を驚きの目で見る。私は、首を振る。

 桜の言ってることが、本当なのか、どうなのか。私にもわからない。

 でも、私の監視役として、人間界に来たなら、

 そんな権限があってもおかしくない。


「横山くん。私も知らないの」


「私の言葉じゃ信用できないの? じゃあ、直接、魔王に聞くといいわ。

 あなたのお母様、イザベロス=レギン様にね」


 桜は、そう言うとすっと手をあげた。空中に映像が映る。

 赤く長い髪の女の人が映った。これが、私のお母さんなの?


「シオン。まあ、大きくなって。どう? 人間界は楽しめてるの?」


「お母さん? 私のお母さんなの?」


「そうよ。あなたの母、イザベロス=レギンよ」


 ああ。これが、お母さんなんだ。私のお母さんなんだ。すごく嬉しい。

 暖かいもので、胸が一杯になってくる。


「お母さん、会えて嬉しいわ」


「私もよ。シオン。そうそう、恋する相手は見つかって?」


「え? うん。見つかったよ」


「そう。よかったわ。人間界で困ったことがあったら、

 コシンを頼りなさいね。

 この件に関しては、彼女に任せてるから。

 コシン、いましばらく娘を頼みます。

 じゃ、私は会議があるから、失礼するわね。シオン、またね」


 映像がふっと消えた。ああ。お母さん、綺麗だった。

 髪が赤くて、角が生えてた。

 私とそっくり。嬉しい。自分の肉親を見れて、すごく嬉しい。


「ね? 私に一任って言ってたでしょ?」


「へ? ええ言ってたけど、それは私の世話をお願いって意味でしょ?」


「よく聞きなさいよ。この件に関しては、私に一任されてるのよ? 

 つまり、この件を止めるも続けるも、私の一存ってわけよ。お分かり?」


 桜がニヤリと笑う。

 くー。いつかホントにひどい目にあわせてやるんだから。


「ごめんね。横山くん。でも、私あなた以外を選ぶつもりないから、

 安心して」


「紗季、あんたは何言ってんのよ。選ぶのは私よ。私が仕切るわ」


「あんたこそ、なに言ってんのよ? 私の花婿なんでしょ? 

 なんであんたが選ぶのよ?」


「決まってるじゃないの。面白いからよ」


 桜がピンと人差し指を立てる。

 なんて、性格悪いの。信じられないわ。

 これ以上、話しても無駄だと思って、私は話を打ち切った。

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