表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/36

第1話 紗季

第一章 紗季


 陽の光がさしてきて、ぽかぽかと暖かい。

 私の意識は、陥落寸前。

 まぶたは、今にもくっついてしまいそうだ。

 あくびをしていると、右隣の席の桜がつついてきた。


「紗季、お昼休みにミラノに行こうよ」


 喫茶ミラノは、学校から10分程の距離にある。

 行き帰りで、20分。こんでて、時間がかかったら昼休み中に帰れないかもしれない。

 昼一の授業は、ヒーリングだ。中間テストで赤点だった私は、これ以上、白峰先生に睨まれるわけにはいかない。

 私の頭の中で、喫茶ミラノと白峰先生が天秤にかけられる。

 うーん。どう考えてもやばい。止めとこうかな。


「今日の日替わり何?」


「今日は、グラタンだったよ。OK?」


 グラタン? チーズの香ばしい匂いがプラスされ、私の頭の天秤はあっけなく喫茶ミラノに傾く。


「いくいく! 授業終わったらダッシュね!」


 教壇にいた青木先生が、鋭い声をだす。


「坂野! 私語するな!」


 青木先生の右手が一瞬、まばゆく光り、ペンが高速で打ち出される。

 避けるのは簡単だけど、魔術士が普通に避けれるはずがない。ここで魔法防御しないと、また怒られる。


〝パシーン〝


 私が上げた右手に、ペンが吸い付くように来て止まった。

 あれ? 私なんにもしてないのに、どうして?


「おっ。いいじゃないか。その調子で頑張るように」


 青木先生は、私がペンを止めたと思ったらしく、メガネをクイと上げると、授業を再開する。

 左横の席の、横山くんがニコリと笑う。

 ふふ。いいとこあるじゃない。助かったわ。

 横山くんが、メモを渡してくる。

 ふんふん。何て書いてあるのかな? 

 文字を読んだ、私のコメカミに青筋が走る。


 〝これで1000円チャラな〝


 この程度で、1000円チャラになるわけないでしょうが!

 腕へし折るわよ! いけない、いけない。落ち着かないと。

 忍びは、目立ってはダメよ。

 私は、クラスの誰にも気付かれないように、鋼線を操り横山くんの鞄の底を薄く切る。

 これで、しばらくしたら荷物の重みで、鞄がダメになるはず。いい気味だわ。

 私が、鞄から中身をブチまけ、呆然とする横山くんを想像してニヤニヤしていると、

 4限目終了の鐘がなった。


 「よーし。では、今日の火耐性をあげる魔法陣はテストに出すから、復習しとけよー。

  特に、坂野! お前だー。攻撃魔法だけじゃなく、防御もきちんとしないとダメだぞー。では、日直!」


 日直の号令で、立ち上がり、礼をする。

 心の中で、ペロリと舌をだす。

 さあて、ご飯食べに行くかな。


「紗季、行こう!」


「うん!」


 桜と連れ立って、教室を出る。

 桜が横にくると、いい匂いがする。桜はぽわーっとしてて、可愛らしい。

 髪は長く、腰近くまである。触ったらきっとサラサラしてて、気持ちいいだろう。

 胸は大きく、腰つきも艶かしい。

 きっと、こういう女の子の方が、男子に人気が出るだろう。

 じっさい、桜は人気あるし。ほんと羨ましい。

 私なんて、腹筋割れてるし、腕だって太い。筋肉で引き締まってる。

 お尻も力入れると硬いし、胸なんてAカップだ。全然女の子らしくない。

 泣けてくる。

 せめて、髪を伸ばしたらもっと違うのかもしれないが、あまり伸ばすと任務に支障がでる。

 肩ぐらいまでがせいぜいだ。

 桜には、女の私でも、ときたまドキリとさせられることがある。

 孤児なんかじゃなく、普通の家に生まれていたらきっと桜みたいになれたんじゃないかなって思う。

 でもまあ、そんなこと考えてもしょうがない。

 今更、生まれ変わることなんてできないし。


 校門から出ると、魔法学校 井上学園の緑色の生徒たちに混じって、白い制服の子達が歩いている。

 超能力者養成学校 漣高校の生徒たちだ。

 昔は、この中に黒装束を着た忍者学校 葉隠の生徒たちも歩いていたことだろう。

 でも、政府の方針で、肉体を鍛えたものよりも、異能者を育て戦力とすることに決められた。

 この2万人が暮らす巨大な学園都市も、魔法学校、超能力学校、魔物学校の3種類しかない。

 政府からの解散命令を忍びたちは、それをよしとせず、すぐには受け入れなかった。

 そのため、今では政府から狙われる存在になっている。

 利用するだけ利用して、忍びは邪魔だから死ねということらしい。

 そこで、生き延びた忍びたちは、異能者に成りすまし、彼らの勢力を削る作戦に出た。生き残りをかけた必死の抵抗らしい。

 でも、私はそういったことに興味がない。忍びの地位を認めさせるとか息巻いて言われても、はあ、そうですかとしか思えない。


 私は、忍びとなったが、忍びが嫌いだ。これまでの境遇がそうさせるのだと思う。

 私は、先の内戦の孤児だったらしい。

 私は、人としての愛情は受けなかった。うまくできないと嫌という程殴られ、物として扱われた。

 私の役割は、暗殺。そのための技術を嫌というほど仕込まれた。

 同じように育った者たちは、ある者は命を落とし、ある者は役目を果たせない体となった。

 残ったのは私一人。

 私は忍びの地位がどうなろうと知ったことではない。

 ただ、修行をする途中で、命を落としていった同じ境遇の仲間たちのことを思うと、自分の力が異能者たちにどこまで通用するのか、試してみたいそれだけだ。

 17年生きてきたけど、もう十分だ。いつ死んでもいい。

 

「ねえ、紗季知ってる? ロセフ様がこの前、亡くなったのって、殺されたって噂よ。心臓麻痺じゃなくて」


「え? そうなの? 持病があるって話じゃなかった?」


「うん。そうなんだけどね、秘書の人も一緒に死んでたらしいの。おかしいでしょ? それって」


「ふーん。魔法院の参議を殺せる人なんて、いるのかしら?」


「なんかね、ネオ協会の人達じゃないかって。怖いよねえ」


 ネオ協会は、自分たち超能力者を新人類、支配者だといっている痴れ者どもだ。

 まあ、超能力者養成学校と魔法学校が近いこの地域なら、犯人はネオ協会のものと思われるのが当たり前か。

 狙い通りになったわ。

 しかし、清め。サイレンサーを入れ忘れるなんて。今度あったら、とっちめてやらないと。


 喫茶ミラノに着くと、まだ席は空いていて、私たちは窓際のテーブル席に座れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ