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第18話 魔力の制御

第18話 魔力の制御


 ビルの外で、横山くんと白石くんが心配そうに待っていてくれた。


「大丈夫だった? 変なことされなかった?」


 横山くんが、そう言って私の肩を掴んでくる。

 ありがとう横山くん。あなたのおかげで、私は人の心を保てているわ。

 時には、胸が痛だりすることもあるけれど、それが人の心を保ててる証明ね。きっと。


「うん。大丈夫だった。全部、話し合いで終わったわ」


 白石くんがふーっと息を吐いて、額の汗を拭う。

 ごめんね、白石くん。心配かけちゃったね。


「ど、どうする? 帰りは魔法で帰れるけど」


「うん。私、せっかく来たから、ちょっとぶらぶらしてから帰るわ。

 二人は、先に戻ってて」


 二人と分かれ、私は駅前のデパートに足を運んだ。

 色とりどりのショーウィンドウが私の目を楽しませてくれる。

 初めて見るお店はどれも新鮮で、私はわくわくしてくる。


 お店の一つに思い切って、入ってみる。

 綺麗なアクセサリーがショーケースに並んでいる。

 どれも素敵。

 ちょっと、値段が高いけど。見るだけなら、タダだ。

 店員さんがすっと寄って来る。


「気にいったのがありましたら、お声かけください。

 ケースからだしますので」


「はい」


 三連のダイヤのネックレスが、私の目をクギ付けにする。

 素敵。こんなの付けてみたいな。

 10万円か。私には丸が一つ多い。


 お店を出て、CD屋さんに入る。

 たくさんのCDが所狭しと並んでいる。

 学園都市のショッピングモールにあるCD屋さんより、規模が数倍大きい。

 クラシックコーナーがすごく広い。

 何か買おうかな? 

 CDを棚から手に取ろうとすると、横から同じように手が伸びてきた。


 黒い制服を着た男の子が、にやにやといやらしい笑いを浮かべている。

 その後にも、2人の男の子がいる。

 私が背を向けて、立ち去ろうとすると、3人は後をついてくる。


「待てよ。彼女よー」

「お前、魔族だろ? 人間様の街を偉そうに歩いてんなよ」

「おいおい。いじめんなよ。可愛そうだろ?」


 階段の踊り場で、男の子の一人が横に並んでくる。

 さっきまでの幸せな気分は吹き飛び、ざわついた気持ちが湧いてくる。


 長髪の男の子が、私の手を握り、引っ張る。

 私が立ち止まると、スポーツ刈りの男の子が肩に手を置く。

 背の小さな男の子が、通路の方をチラチラとみる。

 長髪の子が、私の髪に触れる。


「へへへ。可愛いじゃん。彼女。俺らといいことしようぜ? なあ?」


 スポーツ刈りの子が、私の匂いを嗅ぐ。


「くー。たまんねえぜ。

 まさか、あそこに牙が生えてるわけじゃねえんだろ? 

 一緒に気持ちよくなろうや」


 だめだ。抑えきれない。

 ドス黒いものが、全身を満たし、耐え難い衝動が沸き起こる。

 血への渇望が、悲鳴への欲望が、死への切望が。

 3人の男のたちは、私から溢れ出た魔力にあてられ、

 口から泡を吹いて、痙攣している。


 いけない。このままでは。


 でも、もっと苦しむ顔がみたい。もっと、恐怖した顔がみたい。

 もっと、逃げ惑う姿がみたい。


 だめ、深呼吸して気持ちを落ち着けないと。


 首を引き抜きたい。したたる血を見たい。

 体を爪で切り裂きたい。


「しっかりするんだ!」


 横山くんの声がして、私はハッと正気に戻る。

 空中から横山くんが現れ、私を抱きしめる。

 私の体から、破壊の衝動が消えていき、心は暖かくなっていく。


「大丈夫だったか?」


 そう言ってくる横山くんは、顔が真っ青だ。

 おまけに額から血を流している。

 私は驚いて、横山くんの額に触れる。

 彼の顔が一瞬ゆがむ。額がざっくりと切れている。


「どうしたの? 横山くん! こんな怪我してるなんて」


「いやね、坂野の魔力が急に高まったんで、跳んで来たんだけど、

 ちょっと失敗して坂野の魔力にぶつかっちゃったんだよ。

 模擬戦の時の経験があるから、気をつけたつもりなんだけどね。

 やっぱ魔神の魔力はすごいや。ちょっとでこれだもん」


 横山くんは、ニコリと笑ってくれたが、私の背中にゾクリとした冷たいものが走る。

 下手したら、横山くんを殺してしまっていた。

 それどころか、街を壊滅させていた。

 そして、さっき感じた破壊への衝動。生命を奪うことへの渇望。

 そんなことを望んでいる自分が恐ろしい。


 横山くんの額の応急処置が終わり、私たちは帰りの電車に乗った。

 このままでは、私はいつか横山くんを殺してしまうかもしれない。

 人間界にいるには、私の力は強すぎる。

 魔界とやらに、行った方がいいのかもしれない。


 私が下を向いていると、横山くんが髪の毛を触ってきて、

 くるんと指で弾く。


「まったく、あいつらこの髪に触ったのかー。

 ぶん殴ってやればよかったよ」


「わたし、あの子たちを殺しちゃうところだったわ……。

 それに横山くんのことも……」


「気にすんなよ。魔神を裁く法なんて、存在しないんだ。

 君が世界を滅亡させないだけで、僕たち人間は感謝しないと」


「気にするわよ! 私は魔神よ! 

 自分の彼氏をちょっとした間違いで殺しかけるような女なのよ私は!」


 電車内の人たちが、一斉に私を見る。

 視線が痛い。私から少し魔力が漏れてしまう。

 周りの人は、蒼白となってバタバタと床に倒れる。


「落ち着いて! 

 普通の人たちは、魔法士よりも魔力の耐性がないんだから。

 ほら、深呼吸」


 私が深呼吸して気を落ち着けていると、周囲の人たちは恐怖の面持ちで、 違う車両に移っていく。


「横山くん。これが、私なのよ。恐怖の対象でしかないの。

 だんだん破壊衝動を抑えられなくなってるの。

 このまま一緒にいたら、横山くんを殺しちゃうわ……」


 私の頭はぐちゃぐちゃだ。涙があとからあとから流れてくる。

 好きな人と、一緒にいられないなんて。こんなのってないよ。

 やっと本当に好きな人に会えたっていうのに。


 横山くんが、私の顔を上に向けさせる。私から溢れ出た魔力が、

 つり革や座席を破壊していく。

 横山くんの肩や腕から血が出ている。


「横山くん。もう行って。抑えるのはこれで精一杯。大怪我しちゃうわ。

 私はここにいたらいけない女なの。人間界にいていい女じゃないのよ」


「聞けないねー。そんなことはよー」


 横山くんは、そっぽを向いて、口をへの字に曲げる。

 横山くんの左の鎖骨がゴキンと音を立てて、折れる。


「もう! 行っててば!」


 私から溢れる魔力が一層高まり、車両の壁に穴が空く。


「聞けないって言ってるだろ? 何いってんだよ?」


 横山くんの額の肉が削げ、血がポタポタと床に落ちる。


「ダメだよ! これ以上いたら、横山くんが死んじゃうよ!」


「だったら、抑えろよ。破壊衝動を」


「できない! そんなことできないよ!」


「できる! 紗季ならできる! 俺が好きになった紗季を信じる!

 最高に可愛くて、足が綺麗なお前を信じる!」


 電車の屋根が吹き飛び、火花が散る。

 抑えろ。抑えないと、横山くんが死んじゃう。

 私の大好きな横山くんが死んじゃう!


 私は口から魔力を空に向かって放出した。

 夜空に赤い筋が走り、辺りは明るくなり、少しして元の暗さに戻る。

 少し気分が楽になる。

 私は、目を瞑り深呼吸する。目を開けると、

 血を流しながら笑顔を崩さない横山くんがいた。


「できたじゃないか! 今は魔力が出てない! できるんだよ!

 やろうと思えばできるんだよ!」


「私のせいで、ごめんね……。こんなに血が出てる」


「俺は、井上学園一のヒーラーだって忘れた? 

 こんな怪我ちょちょいのちょいで治せるさ」


 私は、横山くんに抱きつく。こんな目に合わせた私を、

 この人は受け入れてくれる。

 破壊するしか能のない、私を好きでいてくれる。

 横山くんが私を強く抱きしめてくれる。


「あつッ。いちちち」


「だ、大丈夫?」


「うん。折れた鎖骨がいたんだだけだよ。なんてことない」


「横山くん。本当に私でいいの? 

 電車を破壊しちゃうような私でいいの?」


「そんな君がいいんだよ」


「もう、私、横山くんから離れないよ。どんなことがあっても。

 別れるなんていったら、殺しちゃうから」


「そりゃ怖い。気をつけるよ」


 横山くんが顔を近付けてくる。

 私は目を瞑って、顔をあげる。


 彼とキスすのは、何度目だろう。

 キスするたびに、私は幸せな気分になる。


 じっと待つけど、横山くんはキスしてくれない。

 変だな。どうしたの?


 片目を開けると、横山くんが横を向いて、苦笑いをしている。

 そっちを向くと、隣の車両の人たちが、私たちを凝視している。

 私は、横山くんからさっと離れ、窓の外に目をやる。

 きゃー、恥ずかしい。ずっと見られてたなんて。


 隣の車両の人たちがざわつきだす。


『なんだよ。終わりかよー』

『誰だよ気付かれたのは』

『もう少しだったのにー』


 騒ぎが収まった頃に、乗換駅に着き、私たちは学園都市へと戻った。

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