プロローグ
プロローグ
女子トイレの個室に入り、私はブレザーとブラウス、スカートを脱ぎ捨てる。
ケブラー繊維のチューブブラトップと、スパッツ姿になり、便器のタンクの蓋をどかす。
ビニールに入れられている、大型ナイフを右腿につけ、苦無を入れたケースに腕を通す。
グロッグのマガジンを抜いて、弾を確認する。
あれ? おかしい。どこを探しても、サイレンサーがない。
くー!! ミスしやがって! あの馬鹿! 銃が使えないなら、ナイフでいくしかない。
私は、イライラしながらも時計を見る。あと10分しかない。
黒の布を覆面代わりに顔に巻く。
天井のエアダクトを開け、ほふく前進で進む。
標的は、2部屋分向こうの資料室にいるはずだ。
すこし蓋をずらし、下の様子を覗う。
いた。魔法院のロセフ参議だ。うげっ。たるんだお腹が見苦しい。
だいたい、魔法学校に講演にきたというのに、秘書と情事を楽しむとは、なんてハレンチなんだろう。
すごっ。秘書はすごいイケメンだ。あんなにかっこいいのに、男とするなんて……。
どおりで、私にいい男が寄ってこないわけだ。
私は、ついドキドキして見てしまう。
いかんいかん。今は、仕事に集中よ。集中。
エアダクトから、下に降りると、
私の姿を見て、秘書が驚く。私は苦無を眉間に打ち込んだ。
残念。かっこいいのに。別のところで会いたかったなあ。
崩れ落ちた秘書を、ロセフが抱き起こす。
「おい! どうしたんだ?! しっかり……」
私は、ロセフの首筋にナイフを突き立てた。
何の恨みもないけど、勘弁してね。
私もそのうち、そちらにいくわ。
ロセフは、2度3度と体を痙攣させると、そのまま崩れ落ちた。
〝ガチャーン!〝
ロセフが倒れしながら、テーブルに置いてあったグラスを下に落とした。
あちゃー、まずいよ。これは。
外に控えていたボディガード達が、ガチャガチャとドアをノブを動かしている。
まずい。私は、エアダクトに飛びつき、体を引き上げる。
足をもう少しで入れ終わる時に、ドアが蹴破られ、銃弾が襲ってきた。
ああーん。ピンチよ。ピンチ! 私はガス缶を下に落とし、
急いで女子トイレに戻る。
ブラウスを着て、スカートを履く。緑のブレザーに手を通し、
装備品をビニールに入れ、タンク内に戻す。
息を整え、女子トイレから出る。
壁向こうでは、蜂の巣をつついたかのように、大騒ぎになっている。
私は何食わぬ顔で、プレゼンルームに向かった。




