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日常の隣

***********************


「失敗?」

「あぁ」


澄んだ少女の声。それに答える少年の声は幾分苛立ち混じりだ。


「だから、確実な方法取りなって言ったのよ?」

「それはダメだ」

「そんな事言ってるから、あんな奴に良いようにやられるのよ?」

責める少女の言葉に、少年が押し黙る。


「あれは想定外だ」

「……確実に殺していたら、起きなかった事象よ」


どこまでも責め立てる少女。少年のターゲットを殺害できなかった事、まどろっこしい方法を取った事でターゲットが結果生き延び、更にややこしい事態になった事。それら全てが気に食わないのだ。


「甘いわね」


少女はため息をつく。苛立った少年の顔を盗み見て、再びため息をついた。


「私は、あの女を殺るわ。どの道貴方の手じゃ無理そうだもの」


ふて腐れたような表情の少年。クスッと笑って少女は部屋からでていった。


******************


「音環ー!!」

「凜!」


ガツン!と乱暴に開け放たれた扉から文字通り凜が飛び出してきた。飛び付くようにベッド脇に座る。その表情はすでに泣きそうだった。


「ありがとう」

「え?」

「一番に音環に言おうと思ってたの。助けてくれてありがとうって」


うっすらと涙を滲ませてしがみつく凜を見て、命が無事であったことを実感した。そして、守れた事・これからも守らなくてはならないことを実感した。


「検査の結果は?」

「異常無しだって。まだやるみたいだけど」


凜が開け放った扉を、ゆっくり閉めた紘くんが心配そうな顔をしている。


「それと学校は…流石にすぐには無理だけどって」

「まぁ、色々注目を浴びるしね」


苦笑する意味は分かる。前代未聞だからだ。レヴィアタンたち異形に捕まりながらも、死ななかったのは。矢戸神さんが言った、人類の希望。助かるという可能性。

それに飛び付かない人はいない。どうやって助かったのか知りたいのだ。病院もそれを知って、面会を厳しくしたと言う。


「しばらくは休むね」

「少しくらいゆっくりしたって良いんじゃない?」


怖かったよね?とは言わないけど、凜の顔は切なげに歪んでいた。

30分程、再会を喜んだ後、また来るね、と二人は去っていった。


静かになってしまった病室を眺めていると、再び扉が開いた。矢戸神さんだった。


「ほら」


ポイッと何かを投げてよこす。キャッチしたのは黒い携帯。首を傾げていると、矢戸神さんの手が伸びてきて携帯を操作する。電話帳には矢戸神と笹川原の2件。笹川原って誰だ?

更に操作する手は止まらず、画面は地図を示す。よく見ると、この病院を中心とした地図で、病院に丸い印が付いていた。


「印は俺の居場所だ。有事の時はこちらから連絡するから、印の場所へ来い」


来いって…んな簡単に言うなよ。とは口に出さない。そもそも、どんな顔して女子高生が現れれば良いんだ?おかしくない?


「詳細は追って伝える。今日はそれだけだ。口外はするな」


時間にして10分。それだけ告げて、矢戸神さんは退室した。


「えー!?」


ほんとに、どうしてこう…私が出会う人って言葉が足りないし、質問も受付無いの?

手元に残された携帯を見ても、機能はメールと電話、あと地図だけ。ネットへの接続はダメだし、カメラとかも無い、連絡手段としての役割に特化した携帯だ。


「あ、カモフラージュの為に携帯っぽいのかな」


大体、地図って言ったって、表示されるのは恐らく矢戸神さんを中心にしたものだ。現に、私は一歩も動いていないのに、印は東へ向かって移動している。矢戸神さんのストーカーをしているみたいで嫌だ。


可愛いげのカケラも無い携帯を枕元に置く。


スゥッと深呼吸すると、意識を身体に向かわせる。身体の感覚。私が私であるというだけのぼんやりした感覚。私は何者であるのか、自分に問う。どんな力が使えるの?どんな風に戦うの?

問い掛ければ自ずと分かりそうな気がする。

翼の出し方、動かし方、せめてそれだけでもできれば。


「…………わかんない」


そりゃそうだ。今まで存在しなかった身体の一部だもの。練習あるのみ、だろうか。





「ただいま」


ひんやりとした空気を纏う二階建ての民家。四人暮らしくらいが丁度良い祖父母の家に、私は声をかけた。

検査の結果は異常無く、早速退院できた。あれから矢戸神さんからの連絡も無く、毎日来てくれる凜と紘くんに退院を告げ、その翌日…つまり、事件から一週間後に私は帰宅した。


「ただいま、おばあちゃん、おじいちゃん……お母さん、お父さん、お姉ちゃん………」


家には誰もいない。私に微笑みかけてくれるのは、遺影の中の家族達だ。両親と姉を亡くした私を引き取ってくれた祖父母は、去年他界した。だから私は独り。


誰もいない家に、毎日帰る。どこにいこうとも、私に所属感は無いし寄り所は無い。


「寂しくない…訳じゃないんだけどね」


自嘲気味に呟いた瞬間に、チャイムが鳴った。


「どちら……様?って矢戸神さん?」


なんでここに!?


「はぁ〜い☆」

「え?」


仏頂面の矢戸神さんから軽やかな声が。幻聴?と思っていると、矢戸神さんの後ろからひょっこりと女性の顔がのぞく。

ゆるやかな巻き毛のスッと鼻筋の通った美女。こうしてみると矢戸神さんもコワモテだけど顔立ちが整っているから、二人は凄く人目を引く。美女と野獣系王子、って感じだ。


「初めまして音環ちゃん。私、笹川原。よろしくね」


あ、電話帳の人。


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