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異端の力

《核を破壊し、新たな個体を作成するには、必要事項が二つある》


一つは、人。異形には同族を殺すことができないようになっているらしい。だから、異形では無い、別の種族が必要になる。

二つ目は、核。この核が個体の能力を形成するものであり、この核があれば、異形と同じ力を手に入れられる。


「ん?つまり?」

《お前が核を得る事で、異形を止める唯一の存在になれる》

「核を…得る?」


尋ねると、異形の手が軽く開かれ中から透明な球が出てきた。水晶玉のようなそれの中に、たくさんの言葉のようなものが見えた。どんな言語でもなさそうなその文字は、球の中で一定の規則を持って動いている。


「これを…どうするの?」

《埋め込むのは我が行う》

「え、ちょっと待って!まだ…!」


了解なんてしてないよ!と叫びたかったが、言葉が出ない。

胸に、熱い何かが押し付けられ、苦痛が全身を襲い、熱さが身体を焼く。爪の先まで痛い。目の端に涙が滲む。骨が溶けそうに熱い…!!


「はぁ…はぁ…」

《流石、我と共鳴しただけの事はある》

「ど…どうなったの…?」

《お前は翼を得た。お前の手は刃になる。お前の瞳は核を捉える。お前の身体はヒトを超越した》

「か…勝手過ぎる…」


勝手にそんなことされて、私は一体どうなってしまうの?


《お前が拒めば、我は再び別の人間を探すだけ。その間、どれだけのヒトが死のうとお前には関係無いがな》


ぐっ。そんな事言われても…。


「分かったわよ。こうなった以上やるしか…え?」


横目で見た異形の姿が半透明。身体に付着した細かい粒子が、パラパラと剥がれるようにこぼれる。


《核をお前に与えたのだ。我は消える》

「消え…え?」

《頼んだぞ》

「え、ちょっと…!?」


一言だけ言葉を紡いだ後、異形は消えて無くなった。地面に残った僅かな粒子も、雪解けのように空気中に吸い込まれた。


呆然とする。アフターサービスは一切無いの?何で?

考えても始まらない。とにかく街に戻らねばならないと思う頃には、日はすっかり暮れていた。



***************


ひっく ぐす…


人気の少なくなった遊園地のドームの前で、凜は泣いていた。そばには紘と瞬もいる。二人の表情は疲弊していることを物語っていた。


襲撃され穴のあいたドームの周りには、たくさんの報道陣がつめかけていたが。当事者である凜たち三名に近付くものはいなかった。彼女たちの友が、今回のただ一人の犠牲者だと知っているからだ。


あの後すぐに警察が、そして討伐隊が来た。放心状態の凜はすぐに病院に運ばれた。

しかし体には異常が無い。一番に重傷なのは、目の前で友が連れ去られた事によってできた心の傷だ。


凜はすぐに遊園地に戻り、穴を見つめ続けた。しかし、崩れる危険性を考えて、外に追いやられる。

凜の目にはすぐに涙が溜まり、溢れた。


「君達、家に帰りなさい。お友達は私達が探すから」


討伐隊の制服を着た女性が、優しく声をかけても、凜は動けなかった。


「帰れ。夜になればヤツラが活発化することも忘れたか?死にたいのか、てめーら」

「や、矢戸神さ……隊長」


さきほどから討伐隊に指示を出していた男性が口悪く注意する。百戦錬磨の軍人の雰囲気を醸し出した、まだ二十代くらいの人だ。年齢としては、周囲の討伐隊の中で1番年下のような感じなのに、態度は1番でかそうだった。


「お前らの友達は、必ず俺達が見つけ出す。今は、お前らの出番じゃねぇんだ。帰れ」

「そんな言い方しなくても…」

「事実だろ」

「……もう」


女性隊員が呆れた声を出す。と、遠くから無線機を持った男性隊員が走ってきて、矢戸神隊長に耳打ちしたのちに無線を手渡す。

何やら無線の向こうの報告を聞き、指示を出した後に、悲痛な顔の少年少女たちを見た。


「今、報告があった。ここから70?離れた山の中で見付かったそうだ。長い黒髪に、青い水玉のスカートと黒っぽい上着を着た十代の少女。お前らの友達だろう?」


三人の瞳が、驚愕の思いで見開かれる。音環は…無事なのかどうか。矢戸神の次の言葉を待ってみたが、彼から出て来たのは“討伐隊のヘリで連れてってやるから、案内してもらえ”だった。


「無事…無事なの!?音環は!答えて!」


食ってかかる凜の腕を、紘が掴む。分かっていた筈だ、と。願って止まないが、だがそれはあくまで願いなのであると。あの異形たちに捕まって助かった例は…ゼロだ。

事実、矢戸神隊長も、口をつぐむ事こそが答えだと言わんばかりだ。


足元から崩れる凜を支える紘。立ち尽くしたままの瞬は、矢戸神を射抜くように見つめて。


「僕は行きます」


ヘリに向かって歩く瞬に数秒遅れて凜が、そして紘が走った。瞬に追い付き、キッと矢戸神を睨む。


「私も行く!音環は無事よ!絶対!」


泣き腫らした目を乱暴に拭い、女性隊員の後に続く。


ピピッ


急な無線の音に、矢戸神が慌てて応対する。突然響いた電子音に驚いて三人の足も止まる。


「……それは、本当か?分かった。それで頼む」


無線を切り終えた矢戸神が三人に向かい、移動の中止を告げた。そして、音環の無事も。


「小此木音環は無事だ。この辺りの病院に送られる事と、検査の為に明日まで面会謝絶、だそうだ。目だった外傷も無いらしい」


先程拭った筈の凜の涙が、安堵の意味で再び溢れた。


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