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出会い

ドーム内全体に響き渡る爆発音。

一瞬、目の前のアトラクションが――凛たちがいる場所が爆発したような錯覚を覚えるが、どうやら発生源は頭上かららしい。

ただ事じゃない雰囲気が周囲に立ち込めた。


「見て!あれ!」


頭上を見上げていた女性の一人が叫ぶ。示された指の先。

球体のドームの天井に、ポッカリと穴が空き…化け物の顔がヒョッコリと出ていた。

と、再び瞬くんの携帯が鳴る。


「紘か!?今何処だ?!……迷宮のクローバーの出口?分かった!すぐに行く。何があっても彼女を護れよ!」


慌ただしく携帯を閉じ、瞬くんは私を見る。

バタバタと人がドームの出口に向かう中、私の肩に手をやり力強く言い放つ。

「早く逃げて」と。


「嫌。私も行くわ?行かない理由が何処にも無い。危険度は皆同じじゃない!」


とても困った顔をした瞬くん。しかし、すぐに私の手を掴み走り出す。


「絶対に離れないで!」


と言いながら。

それに答えるように、私は強く握り返した。



逃げ惑う人の波に逆行しつつ、二人が向かうと言ったクローバーの出口を目指す。建物の中に居たら、この惨状は分からないかもしれない。館内放送で知って、避難するなら外では無く、非常用出口に向かうはずだから。普通の出口を指定したのなら、事態を把握できていない可能性がある。


「紘!!日下部さん!!」

「りーん!!紘くーん!」


逃げる人たちの中、クローバーの出口からさほど離れていない場所に二人はいた。

二人も、私たちを探して逃げようとしていたようだった。



―あと、十メートル。近ければ。


―もしくはあと、数十秒。私たちが早く出会っていれば。


―あんな事にはならなかったのに。



バサッと羽音が聞こえ、頭上の影が移動した。

仰ぎ見れば、J。大きく広げた翼。鈎爪は鋭く、その手足は爬虫類のようで。それを、大きく広げる。

何かを掴むように。


ハッとした。あいつは何を掴もうとしている?


考えるより先に身体が動き、瞬くんの手を振りほどく。鈎爪の先の人物を――凛を突き飛ばした。


ジクリ、と脇腹に焼けるような痛み。叫びそうな声は、獲物を掴んだJが急上昇したことによって飲み込まれた。


視界の端に、一気に遠くなる地面と、突き飛ばされ事態を把握できていない凜、呆然とする紘くん、叫びながら手を伸ばす瞬くんの顔が見えた。

しかし、それも一瞬で。Jはドームの穴から空へと飛び立った。


死ぬんだ、私。


Jに喰われるか、脇腹の出血で死ぬか。


それにしても、儚い。

呆気ない。


最期の場所として、空で死ねるのがせめてもの慰めなんだろうか。神様は、酷いよね。私から色んなものを奪っておいて、今度は私まで。私が“死者を想う”ことすら許してくれないのか。


目をつむる。


その瞬間に、グンと下降するJ。空から離される…。それがとても哀しかった。


地面に叩きつけられる事を覚悟していたが、Jは驚く程優しく私を地面に降ろした。

Jの顔らしき部分がグイッと近付き、私の脇腹を…痛む箇所を舐めた。衝撃的なシーンに固まっていると、ふと痛みが消えた事に気付く。


「な…治してくれたの?」


出血すら止まっている。どういう事なのか?


「どうして?」

《会話ができるからだ》

「……え?」


目の前の異形は口らしきものを動かしていないのに、声のようなものが聞こえた。周囲に反響して聞こえたような、そんな錯覚を覚える音。


《お前と我の間で意思の疎通が可能だと感じたからだ》

「だ、だから…助けてくれた、の?」

《そう。お前は我々が憎いか?》

「……憎い」


本人の目の前で、あえて言う。だって、突然現れて、突然大切なものを奪っていった。これを憎いと言わずに何と言うのか。


《我々を止めて欲しい。我々は一つの意識を共有して存在するもの。我々は今、“暴走”と“殺戮”だ》


ややキーの高い声で話す目の前のJは、そう言った。たくさんの個体があっても、それ単体には意思は無い。一つの命令に対して忠実に動く多くのロボットのように、異形たちはいるらしい。


「止めて欲しいって言ったって…」


そもそも異形を止めたいと思う人間が何人いると思っているんだ?この二十年の間に、人がどれだけ色々な対策をしたと思っているんだ?


《方法はある。先程、我々は一つの意識を共有していると言った。ならば何故、我がお前を殺さぬのか》


そっか。全ての異形たちが殺戮と暴走に囚われているのに、こいつは違うんだ。


《我々は、言うなれば手足。頭では無い故に、理由は分からない》


それは、異形たちの存在理由・暴走した理由…そして、今、私を殺さない理由も含めるらしい。


《だが、我々の本質は暴走では無い筈だ。今、ヒトが行っている方法では止まらぬ。我々を眠らせて欲しいのだ》


人が行っている方法…異形に対して銃で蜂の巣にするやつ?あれではダメって?


《上手くは説明出来ぬが、我々は個体それぞれに核を持っている。それを破壊せねば、“暴走”を上書きされたままの核が、再び個体となる》


えーと、難しいけど、要は核を破壊すれば良いってこと?そうしなければ、再生し続けるってこと?


《あぁ。核が破壊されれば、減った個体数の分だけ“始まりの場所”で核が作られる》


そうして作られた核は、リセットされた状態だから暴走することも無いらしい。


「“始まりの…場所?”」

《それが何なのか、我々は知らぬ》


龍のような印象の、女性的な雰囲気を持つその異形。彼女は、ゆるく首を振った。


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