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4つの思い

「凜!」

「え?音環?なんで?」


凜の隣に並び、顔を覗く。


「怒っちゃダメだよ。いつもの事じゃない」

「…………バレてたの」


苦笑して肩を竦める。

久野木くんは凜の彼氏だ。だが、みんなには内緒にしているため、相変わらずの人気は止まることを知らない。

黄色い歓声をあびる自分の彼氏にヤキモチを焼く凜は、可愛いなと思う。


「一緒に帰ろう?」


と誘えば、凜の笑顔が帰ってくる。どうせ授業はできないから、すぐに帰宅できる。

異形が出た地域は、何故か数日間は再び異形が現れる事はない為、つかの間の安心が得られる。いつまで続くのか分からない不安定な安心。いつか、この不安が晴れる日は来るのだろうか。




「音環は、彼氏作らないの?」

「ぇ゛」

「美濃山くんとかどお?」


帰宅途中に突然そんな事を言い出した凜の意図が分からなくて混乱する。

美濃山くんて、確か久野木くんと仲の良い…?生徒会だっけ、その美濃山くんは?


「凜!」


質問の意図を探ろうとした時、後方から凜を呼び止める声。

久野木くんだ。

二人は周囲に交際を秘密にしている為、こうやって学校からかなり離れた場所で会っている。時々、私がここに居る事が申し訳無くなる時もあるけど。


「紘!」


パッと笑顔を咲かせる。相変わらず乙女度が高いなぁ。


「凜、この前言ってた事話した?」

「話そうとしたら紘が来たの」


プイッとそっぽ向く。

その仕草に紘くんが苦笑する。イチャイチャするなら余所でやってくれ。ほんとに。


「音環ちゃん。今度の休みに遊園地行かない?」

「ペアチケットが余ってて、だから音環を誘おうと思ったの」


ペア?数がおかしくない?二人で行けば良いじゃないの。


「私達の分はあるの!でも二回も行けないし、せっかくだから音環に、と思って」

「瞬も誘って四人でどうかな?」


瞬…美濃山くん?だからさっき凜があんな事聞いてきたのね。気まずい空気の人と一日過ごすのは誰だって嫌だものね。


「いいよ」

「やったー!今度の日曜ね?」


ピョンピョンと楽しげに飛ぶ凜を微笑ましく見守る紘くん。


「音環ちゃん、ほんとに良かった?」

「いいよ?お互い仲良しの子呼んだんでしょ?そっちのが気まずくなくて良いもんね?」

「ん…ま、そうだね」


何だか歯切れの悪い紘くんだ。私が何かマズイ事を言ったのだろうか。紘くん、あまり美濃山くんを誘いたく無いのだろうか?いや、でも提示したのは向こうだし。美濃山くんだったら、私も知らない仲じゃないし、大丈夫だと思うんだけどな。


「それじゃ、日曜に駅の改札ね!可愛い服着てきてね」

「普通のオシャレくらいするわよ!」


仲良く隣同士で手を振るカップルに別れを告げ、家路を急いだ。




**************



朝の10時に駅に集合した私たちは、3駅向こうの遊園地に向かった。

話題はイロイロ尽きないが、やはり異形の化け物たちの話題は出て来ない。今日は大丈夫だろうか。遊園地そのものはドーム状の建物の中にあるから良いが、行き帰りが心配だ。


「小此木さん?どうしたの?」

「え?あ…ごめん美濃山くん。何だった?」

「いや…ボーッとしてたみたいだったから。考え事?」

「まぁね」


駅から遊園地までの道程を、考え事しながら歩くのは危ないなぁ…私。


「空のこと?」

「え!」

「いつも空みてる…って会話を良く凜ちゃんとしてたから」


は…恥ずかしい…。まるで電波ちゃんみたいじゃないのソレ。


「深い意味は無いんだよ!ただ、小さい頃に見た絵本のような空が見たくて…」

「“ピッツの見る空”?」

「え…」


“ピッツの見る空”ピッツという小さな男の子は、空を見るのが好きで。空には色んな色があって、色んな表情をする。空の色と、見ているピッツの気持ちが同じだったり、違ったり。だからピッツは毎日空を見る。空が好きだから。

という話の絵本だ。


「俺も小さい頃よく読んだから」

「う、うわー!!愛読者に初めて会ったー」


あまり人には理解されない所だと思っていた。まさか、美濃山くんの口からそんな言葉が出てくるなんて。少し驚いたと同時に嬉しい限りだ。


「ピッツ仲間だね」

「二人だけ?」

「ただいま会員募集中」


クッと美濃山くんが笑う。いつも眼鏡をかけていて、寡黙な感じなのかとおもいきや、結構喋るんだな、美濃山くん。いつも事務的な会話しかしなかったけど。


絵本の話題で盛り上がりながら歩いていたら、20分の距離などあっという間だった。



建築途中で頓挫していたドームを買い取り、その中に作られた遊園地は、化け物たちへの対策に他ならない。


「何から乗ろうねー?」


と目一杯はしゃぐ凛。微笑ましく見守る紘くん。


「小此木さんは苦手な乗り物ある?」

「無いよ?美濃山くんは?」


絶叫系も高い所も全然平気だよ、と伝えると、微妙そうな顔をする。まさか、苦手だったのかな?


「や、そういう訳じゃ無くて。えっと、瞬て呼んでくれる?苗字だと他人行儀で…」

「あ、うん」


瞬くんか…。何か改めて言われると照れるな…。


「あ、じゃあ私の事も名前で呼んでね?」

「うん。ありがとう」


何故、瞬くんがお礼を言うか?何だか微妙な空気が流れるじゃないか。

この空気をごまかす為に凛たちの方を向けば、米粒サイズになっていた。


「紘たち…あんなに遠く…」


置いてきぼりをくらった私たち。と、瞬くんの携帯にメールが届く。紘くんたちからだった。


「何て?」

「お昼に、鏡の迷宮の前で集合!…だって」

「ちゃっかりデートして…」


何の為に四人で来たんだコラ。遠く、見え無くなった凛と紘くんを睨む。明日、絶対に購買のプリン奢ってもらわなくちゃ。


「…仕方ない。楽しもうか?」

「そうだね。せっかくだし」


まずはジェットコースターから!



***********


「もう約束の時間だけどなぁ」

「遅いね、二人とも……あ」


瞬くんの携帯に届くメール。それはやはり紘くんからで、もうすぐ鏡の迷宮から出るよ、と言う内容であった。


「…もう」

「ごめんね」

「瞬くんが謝る事じゃ無いよ!大体、何を企んでるの?二人とも」


いつもの凛と紘くんらしくない。こんなに他人を振り回す人たちじゃ無いのに。


「俺が、頼んだんだ。二人に」

「……え?」


どういう事?と、瞬くんの顔を仰ぎ見た瞬間。


ドォォオオオン


爆発音が響き渡った。


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