心
「・・・・・!!」
キーナは気がついた。
あわてて体を起こすとそこはミルディア軍本営だった。
「お気がつかれましたか!」
「退却・・・・できたんか・・・」
キーナの言葉に側近は頷いた。
「ルイ様のご指示で」
「王子の・・・!?」
キーナは目を見開いた。
「ルイ様の太陽に向かって退却と言う指示の元、我々はゼメキア教国軍の包囲を突破しました」
「太陽の・・・・」
<・・・そうか・・・>
もしもあの時敵歩兵団に向けて突撃していたら・・・・
キーナはまだ投石をくらってずきずきと痛む頭を抑えた。
「王子は・・・・?」
「さぁ・・・退却が完了するとどこかに行かれましたが」
「・・・・・・」
キーナは立ち上がるとひらりと馬にまたがった。
ほどなくキーナはルイを発見した。
本営から少し離れたところの小さな天幕でのんびりルイは本を読んでいた。
傍らには赤目の少女マリアが静かに座っている。
「大丈夫ですか?」
ルイは入ってきたキーナに気がつくとにっこりと笑った。
「・・・あ・・・うん・・・」
キーナはあわてて頷いた。
「た・・・退却の指揮とってくれたって・・・?」
「ああ、あれですか?」
ルイは肩をすくめて笑った。
「当てずっぽうで太陽に向かって逃げろって言ったらそれが正解だったみたいで・・・」
「当てずっぽう・・・」
キーナは首を振った。
「王子、うちはいろいろと退却時の様子を聞いたんや・・・あれは偶然の指示なんかやないことくらいうちはわかる」
「・・・・・」
ルイは静かにキーナを見やった。
その静かな優しげな瞳にキーナは思わず目をそらした。
「な・・・なんで今回のこと手柄やっていわないんです?口止めしはったらしいやないですか・・・」
キーナは思わず声が上ずっているのを感じた。
「あれだけみんなに馬鹿にされてるのに・・・見返したくないんですか!?私やって王子のこと・・・」
「キーナさん」
ルイの静かな声がキーナの言葉をやさしくさえぎった。
「誰の手柄とか、誰のおかげとか・・・」
ルイはにっこりと笑って言った。
「そんなのどうでもいいじゃないですか。」
「どうでも・・・・」
「戦争なんかもともと意味のないものなんです・・・」
ルイは、すっと目を細めていった。
そこに一気に現れた知性的な雰囲気にキーナは言葉を失った。
「大事なのは自分の国の人たちが・・・・できる限り死なずにすむこと。こんなくだらない戦争で」
「・・・・・・・王子・・・」
「だから僕は別に英雄なんかにならなくてもいいんです。惰弱でどうしようもない王子のままで・・・」
ルイの笑顔を見てキーナは胸を打たれた。
なんて邪心のない笑顔・・・・・
「王子・・・・」
「はい?」
「惚れたで・・・・!」
「は・・・?」
あっけにとられたルイをキーナは思い切り抱きしめた。
「あ・・・ちょっと・・・キーナさん・・・!」
顔を真っ赤にして逃げようとするルイにキーナは声を立てて笑った。
「これからはうちとうちの第6天魔軍は王子の味方や。何でも役に立てることがあったらいうてや」
そういうとキーナはルイににっこりと笑いかけた。
その屈託のない笑顔にルイも笑顔でこたえた。
「はい・・・!」
「あ・・・ぼちぼち軍議が始まるで・・・いこっか・・!」
キーナはルイの手をつかむと引きずるように歩き出した。
今まで彼女がルイに感じていたイライラはかけらもなくなっており、そこに芽生えた想いにキーナ自身まだ戸惑いつつあった・・・