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開戦

軍議の席には上座にリチャード、そしてほとんどの天魔王たちがすでに一堂に会していた。


「遅れました・・・」

キーナがルイをせきたてながら入ってきて最後に着席するのを見てリチャードが重々しく口を開いた。

「これより軍議をはじめる」


リチャードはそう言うとウォレスを見やった。

ウォレスは頷くと戦況を説明し始めた。

「敵軍はアークス兄妹率いる9万・・・・直属の兵がほとんどで精兵の集まりが今回出撃してきております。また第7天魔軍からの報告ですと、教皇イカロス率いる教皇直属の騎士団約3万が先ほど合流したとのこと」

「教皇の親征ってことか・・・・」

シャロンがつぶやいた。この事態が意味するのは今回のゼネギア教国の侵略は様子見などではなく明らかにミルディアの征圧を意図していると言うことだ。


「ルイ・・・・」

リチャードが下座に座るルイを見やった。

「どう思う」

「・・・・・!」

軍議にいたすべての天魔王たちが意外な顔をした。初陣の・・・しかも惰弱な王子として有名なルイの意見をリチャードが一番に尋ねたことに心外な顔をした。

「恐れながら・・・・」

その感情を露骨に吐露したのは第2天魔王カイゼル・レインフォートだった。シャロンと同じ孤児院から同じ時期にリチャードに見出された彼は、シャロンをも凌ぐ軍略と武勇を持つミルディア随一の名将である。

「王子はこのたびは初陣・・・意見をお聞きになられても時間の無駄かと」

「カイゼル!言葉を慎め!」

ウォレスがカイゼルを忌々しげににらみつけた。

「・・・・・この平原はだだっ広い荒野・・・」

キーナが地図を見ながら口を挟んだ。こんなくだらないことで軍議の方針がそれることが彼女が最も嫌うことだった。

「まずは第6天魔軍が一当たりし敵の出方を見るということでええかと思いますが?」

「うむ・・・・」

リチャードは重々しく頷いた。

「ただし・・・敵は比類なき名将アークス兄妹だ。深追いは禁物ぞ?念のため第4天魔軍を後詰につける」

「ゴロアですか・・・」

キーナの顔に苦笑いが浮かんだ。

第4天魔軍ゴロア・ドラムンドは猪突猛進と言う言葉がぴったり当てはまる将である。一騎打ちとなった場合の武勇はカイゼルにも引けをとらないが、作戦通りことを運べない短気な一面がありキーナとしては後詰が第4天魔軍であることは何の救いにもならなかった。

「何か不満か?なんなら俺が先鋒でもいいんだぞ?」

雲をつくような巨体をゆすりゴロアがあざ笑うようにキーナを見た。

「・・・・・」

キーナはゴロアの挑発を無視して一礼すると立ち上がり天幕を出て行った。そのあとをルイがあわてて追う。

「・・・・・・」

シャロンは心配げにため息をついた。リチャードと言う強力な要がなければ天魔王たちはこんなものだ・・・



出撃の合図の角笛が響き渡った。

「王子」

キーナがルイを振り返った。

「怖ければ中軍に下がってもええんですよ?」

「大丈夫ですよ。ご心配なく」

ルイの場違いともいえるにっこりとした笑顔にキーナは毒を抜かれたような気になった。

「まぁええわ。とりあえずうちから離れんように」

キーナは彼女の武器である大きく湾曲した曲刀を抜き放ち叫んだ。

「突撃!!!」



大地を揺るがし第6天魔軍が突撃を開始した。

鋭い錐の陣形をとった第6天魔軍に対し、ゼメキア教国軍の前衛がさっと開き迎撃の体勢をとるのがわかる。

500歩の距離に迫った時、第6天魔軍の騎兵たちがなんと両手を手綱から外し鐙のみで馬を操りながら弓に矢をつがえた。

「放て!!」

キーナの号令のもと、第6天魔軍から放たれた矢が雨となってゼメキア教国軍前衛に降り注いだ。

『死の雨』と呼ばれるこの第6天魔軍の騎射攻撃は騎兵が敵に接触するまで数回繰り返される。


死の雨を浴び算を乱したゼメキア教国軍に突き刺さるように第6天魔軍が切り込んだ。

先頭を走るキーナは曲刀を舞わし次々とゼメキア騎兵をその餌食とした。


「・・・・・・」

ルイは辺りを見回した。

ゼメキア教国軍前衛はすでにキーナの軍に蹴散らされ算を乱して退却し始めている。

キーナの第6天魔軍がそれに追い討ちをかけようとしている。

「キーナさん!」

ルイが叫びキーナに馬を寄せた。

「敵が脆すぎます。戦意がなさすぎる・・・」

「確かに・・・・」

キーナはあたりに目をやった。

後詰のはずのゴロア率いる第4天魔軍の動きが悪く微妙な間隙が生じている。

見る間にそこにゼメキア教国の一軍が割り込もうとしているのが分かる。

「ちっ!ゴロアのやつ!」


キーナは舌打ちすると退却命令を下そうと辺りを見回した。

包囲網を突き崩すのにうってつけの歩兵軍団がやけに目だって見えた。

「敵歩兵軍団にむけて突撃・・・!」

号令を下そうとしたその時、ゼメキア教国軍の投石がキーナの頭部に命中した。

「あっ・・・」

これにはたまらずキーナは馬上で気を失った。

「キーナさん・・・!」

ルイがあわててキーナを自分の馬に引き寄せた。


「ルイ様・・・!ご命令を!」

キーナの側近が慌てふためいて叫んだ。

「・・・・・・」

ルイはあたりを冷静に見回している。

「ルイ様!」

「逃げちゃおう・・・」

ルイはにっこりと笑った。

「みんなに伝えるんだ。太陽の方向に向かって突撃ってね」

「・・・・はっ!」



「・・・・・」

戦況を遠望していたカイン・アークスは苦笑いした。

包囲した第6天魔軍が襲い掛かったのは、意図していた歩兵軍団ではなく教皇直属の重装槍兵団だった。重い装備に身を固めた槍兵たちは疾風のように包囲を突破する第6天魔軍に対してなすすべもなかった。


「教皇の余計な合流がなければ・・・・」

カインは舌打ちした。

「それにしてもキーナ・カーンにこれほどの冷静な判断力があるとは・・・歩兵軍団というえさに食いつかなかったとはな・・・」


カインは知らない。

この包囲網突破がミルディアでもっとも役に立たないと思われていた青年によってなされたことを。


こうして緒戦は双方痛みわけという形で幕を下ろすこととなった・・・





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