第6天魔王
ミルディア国軍8万は国境付近に進撃するゼネキア教国軍9万を迎撃するため、国境に向けて進発した。
先鋒をつとめるのは第6天魔軍団長キーナ・カーンである。
ひときわ目を引くのは彼女のミルディア人には珍しい浅黒い肌・・・・
それもそのはず。
ゼメキア教国の侵攻にあい滅ぼされた北方の騎馬民族の数少ない生き残りが彼女である。
リチャードは難を逃れてきた彼女とその部族の生き残りを受け入れ、その騎馬技術を取り入れる先駆けとした。
そのためキーナが率いる第6天魔軍は彼女の出自である騎馬部族の特徴をそのままに残している。通常の騎兵と違い、身軽な鎧を身にまとい『騎射技術』に格段に優れている。
つまり騎兵と弓兵両方の特徴を兼ね備えている。
その軍団長に就任したのが22歳、そして今日に至る3年間第6天魔軍は押しも押されぬミルディアの主力部隊となっている。
そのキーナだが今朝は不機嫌そのものだった。
もうすぐ国境のサラミス平原に到着し、陣をかまえる準備を行うわけだが、心は晴れないままだった。
「なんでうちがお守りまでやらなあかんのや・・・」
キーナはいらだたしくつぶやいた。
彼女の言葉には出自ゆえのなまりがまじるが彼女は気にも留めない。
「そうですな・・・足手まといは困りますな」
側近が追従するのを鼻で笑うとキーナは軍を止め、布陣の命令を下した。
すぐにリチャード率いる中軍がくる。いらいらしている暇もない・・・・
その頃リチャード率いる中軍7万も国境付近に差し掛かっていた。
「坊ちゃん!」
馬をのんびりと進めるルイに一人の将軍が馬を寄せた。
「坊ちゃんはやめてくれよ、ウォレス・・・」
ルイは苦笑して振り返った。
第3天魔王ウォレス・ハート・・・・彼は幼い頃のルイの養育係をつとめ、ルイに対しての敬意を唯一失わずにいるミルディアでは珍しい部類の人間だ。
戦に出れば『魔人』と恐れられるほどの武勇を発揮する彼も、ルイと話す時はまるで自分の息子と話すかのように相好を崩す。
「いよいよ初陣ですな、このウォレス嬉しゅうございますぞ。」
「面倒だけどね・・・」
ルイは肩をすくめて見せた。
「キーナさんの後ろに隠れておくよ」
「ははは・・・それが安全ですな」
ウォレスは大きく笑った。
「キーナ殿は気難しい方ですが、根はよい方です。ご心配なく」
「ああ・・・・」
ルイは前方に見えてきた布陣を完了した第6天魔軍を見て目を細めた。
「ご挨拶してこようかな」
そういうとルイは馬腹をけって一人走り出した。
キーナの天幕をルイが訪れた時、キーナは一人でいた。
彼女の出陣の儀式である部族の戦闘の化粧である。
右目の周りに描かれた黒い模様・・・彼女自身のいつもの習慣だ。
「なんや・・・?」
キーナは自分の右目に目を奪われているルイを見てせせら笑った。
「そんなに物珍しいんか?王子にも化粧してあげましょうか?」
「いりません・・・」
即答したルイにキーナは少し驚いた。
「失った同胞を想ってあなたがするその化粧・・・僕なんかがする資格はありません」
「・・・・・」
自分の想いをそのまま表現したようなルイの言葉にキーナはまじまじとルイを見つめた。
「王子はこれが始めての戦やそうやね」
「はい」
「怖いか?」
キーナの問いにルイは肩をすくめて見せた。
「ええ、まぁ・・・ただあなたの軍にいるので心配はないと思ってますよ」
「ふん・・・他力本願か・・・」
キーナは毒づきながらも、ルイの落ち着きに内心驚いていた。
<・・・まぁ足手まといには変わりないけどな・・・>
キーナはため息をつきルイを促し軍議に向かった・・・