レオナ
「集まったようだな・・・」
ミルディア国「英王」リチャードは居並ぶ天魔王たちを見やった。
この戦いで第4天魔王ゴロアを失い、第5天魔王シャロンが今の生死の境をさまよっている。
<・・あまりにも大きい犠牲だな・・>
リチャードは苦し気に息を吐き出した。
「父上・・・」
自分を呼ぶ息子の声にリチャードは我に返った。
「うむ・・・」
リチャードはルイに向かって頷いて見せた。
「皆も知っての通りついに教皇イカロスをとらえることに成功した・・・」
ルイが天魔王たちを見渡しながら言った。
「この先の彼の処置について話がしたいんだ・・・」
ルイの言葉に第2天魔王カイゼルが進み出た。
「知れたこと。すぐにその首をはねましょう。彼奴のせいで何人の犠牲が出たことか・・・」
カイゼルの言葉に一斉に天魔王たちが賛同の声を上げた。
「もちろん・・・」
ルイの言葉に天魔王たちは言葉をつぐんだ。
「もちろんイカロスには死んでもらうつもりだよ・・・ただやり方が問題なんだ」
ルイは天幕の隅に佇むレオナ・アークスを見やった。
「レオナさん、例えばですが異教徒である僕たちとの戦いで戦死した人はどうなると教皇は言っていましたか?」
「・・・殉教者として神の国に行く・・・」
レオナは言葉を紡ぎだした・・・
今ではわかる・・いかに馬鹿げた信念なのか・・
しかし自分すらもそれを固く信じて戦い続けていた・・・
「有難うございます・・・」
ルイは天魔王たちを見やった。
「ここでイカロスを殺せば、彼は殉教者として更に神格化される・・」
「そうか・・そこでまた本国で誰かが教皇になったら元の木阿弥やな・・・」
第6天魔王キーナが言葉を重ねた。
「そう・・だからイカロスを殺すにしてもやり方を考えなきゃこの戦争は終わらないんだ」
ルイは大きく息を吐き出した。
「大事なのはイカロスを殉教者にしないこと、あとは今の教義が彼によって捻じ曲げられたものであることを証明することなんだ。そして・・・」
ルイはレオナを見やった。
「ゼメキア教国の政教を切り離すんだ・・・」
「・・・!」
天魔王たちは息をのんだ。
ただ憎しみに任せて教皇を処刑するのではなく、今後の戦争の火種自体を見据えるルイの目線に今更ながら全員が驚きを隠しきれなかった。
「ではやり方とは・・・?」
第3天魔王ウォレスが首を傾げた。
「今回の彼の行動を見ても、彼は明らかに死というものを恐れて生に執着している・・・」
ルイは静かに天魔王たちを見渡した。
「ゼメキア教国の兵士たちが見ている前で命乞いをさせるんだ・・・」
「命乞い・・・」
キーナがつぶやいた。
「殉教が名誉なことと言っていた教皇が見苦しく命乞いをすれば・・・」
「そう・・・」
ルイは静かに笑った。
「今まで自分たちが信じていたことが嘘だとわかる・・そして・・」
ルイはレオナを見やった。
「兵士たちから信望の厚いアークス兄妹が本国に戻った時にそのまま政権を握れるよう僕たちが後押しするんだ。」
「・・・・」
「新生ゼメキア教国の同盟国として・・・ね・・・」
ルイの視線にレオナは俯いた。
ゼメキアに施政者として帰る・・・
兄のカインは軍の動揺を鎮めるために外に出ており、この軍議には参加していない。
自分の生まれ育った祖国に戻れる・・・
本来であれば嬉しいはずの事実に何となく喜べない自分がそこにいた。
<・・ダメだ・・>
シャロンの手を握り涙を流すルイを思い出し、レオナは小さくため息をついた。
<・・そんな資格なんか私にはない・・>
ルイのそばにいたい・・
確かに芽生えつつあるその想いをレオナは静かに飲み込んだ。