捕縛
「・・・・」
教皇イカロスは負傷兵の天幕の隅にうずくまりながらあたりを見渡していた。
顔を隠すために自ら巻いた包帯が不愉快でたまらなかったが、下手に逃走するよりも敵陣の中にいたほうが安全と考えた結果、戦が終幕を迎えた今でもまだこの異教徒共の陣内にいる・・・
<・・どうやってここから逃げるか・・>
天幕の外で響き渡る伝令兵の声を聞く限りでは、間違いなく異教徒たちの軍に敗れ去ったようだ・・・
<・・忌々しい・・>
イカロスは指の爪をせわしなく噛みながら呻いた。
そもそもどこから破綻した?
アークス兄妹を排除しようとした時から?
<・・違う・・>
あの時点では神聖騎士団も到着しミルディアとの間に孤立したアークス兄妹の軍、不死騎団に待つのは壊滅のみだったはず・・・
<・・異教徒どもがまさかアークス兄妹と連携するとは・・>
すべてが狂い始めたのはそこからだ・・・
<・・まぁ良い・・・本国に帰国さえできれば・・>
イカロスは血走った目であたりを見回した。
異教徒どもが陣を引き払う時まで待つしかない・・・
イカロスがそう考えた時、突然天幕の外が騒がしくなり、多数の兵が入り込んできた。
「顔を負傷している者は全員前に出ろ!」
先頭にいた部隊長らしき男が叫んだ。
「・・・?」
天幕にいた負傷兵たちが一斉にざわめいた。
訳が分からない様子ながら顔を負傷している負傷兵たちが傷に痛む体を起こし、前に出始めた。
イカロスも訳が分からないまま体を丸めつつ前に出た負傷兵たちに後ろの方に目立たないよう紛れ込んだ。
その時・・・
「全員動かないでください・・・」
入ってきた兵たちの列が割れ、一人の青年が前に進み出た。
その声に前に進み出た負傷兵たちを含む天幕内の全員が跪いた。
「・・・!」
その瞬間反応が遅れたイカロスのみが立ち尽くす異様な状況が作り出され、全員がイカロスをいぶかしげな目で見つめた。
無理もない・・・ミルディア人であれば誰もが知っていたその顔を、イカロスは知らなかったのだから・・・
「レオナさん・・この人ですね?」
入ってきた青年・・・ルイはかすれた声を絞り出した。
「・・・!」
イカロスの全身が震えだした。
「お会いしたかったですよ・・・」
ルイの後ろから聞き覚えのある女性の声がした。
「教皇猊下・・・」
ルイの後ろから進み出たのはレオナ・アークスだった。
「ひっ!」
慌ててイカロスはその場から逃げ出そうとしたが、ルイの合図を受けた兵たちに難なく取り押さえられた。
「教皇イカロス・・・やっと会えたね・・・」
「終わりにしよう・・・すべてを・・・」