捜索
「そうか・・・シャロンが・・」
ミルディア国王リチャードは目を閉じ大きく息を吐きだした。
<・・・長くない自分がこうして生きておるのにな・・・>
戦場の不条理さを知りつつも、リチャードはやり場のない怒りを抑えきれずにいた。
「なおルイ様より全軍の陣の封鎖命令が出ております。敗走する教皇の軍の追走はカイン様率いる不死騎団にお願いして続けながらも、ミルディア軍のこれよりの出陣は禁ずるとのことです」
第7天魔王マリアの報告にリチャードは眉をひそめた。
「どういうことだ・・・ルイ・・・」
同じ頃・・・
陣を封鎖したルイは、各部隊の百騎長までを天幕に召集していた。
「見慣れぬ兵・・・・ですか・・・」
隊長たちのいぶかし気な反応に、ルイは辛抱強く説明し続けた。
逃走したと思われる教皇が、まだ陣の中に潜んでいるかもしれないこと。
今になっても見つからないのは、ミルディア兵に擬態しているかもしれないこと。
封鎖したとはいえ、時間がたてば逃走されるので今しかないこと。
「すまない、先の戦いで疲れていると思うけど・・・」
ルイが頭を下げるのを見て、慌てて隊長たちは立ち上がり部隊の点呼にあわただしく出ていった。
「教皇は小ぶりな男、部隊にいたらおよそ似つかわしくなく目立つはず・・・」
レオナは気づかわし気にルイを見やった。シャロンのことでやはり頭がいっぱいなのか、指示に細やかさがない・・・
「ルイ・・もしかしたら負傷兵に紛れているのかもしれない・・・」
レオナの言葉にルイははじかれたように、立ち上がった
「マリアに連絡して、第7天魔軍で衛生部隊の天幕の周りを見張ってくれと伝えてくれるかな?」
ルイはそばにいた将校にそういうと立ち上がった。
「教皇の顔・・・わかりますよね?」
ルイの問いにレオナは苦々し気に頷いた。
「あの顔、姿・・・たとえどのようないでたちをしても見逃さないわ・・・」
「ついてきて頂けますか?」
ルイの問いに深く頷き、レオナは立ち上がった。
衛生部隊の天幕に入ってきたルイとレオナを見て、部隊長のハミルは慌ててひざまずいた。
「シャロンの容体は・・・?」
「できる限りの処置は致しました・・・あとは体力次第かと。ただ・・・」
ハミルは苦し気に言葉を切った。
「ただ・・・?」
「仮に助かったとしても、恐らくはもう歩くことが・・・背の損傷が激しく・・・」
「・・・・・」
ルイは固く目を閉じ俯いた。
「ルイ・・・」
レオナの胸がキリキリと痛んだ。
この優しい青年が誰よりも守ろうとした存在の命が消えかかっている・・・
<・・・私たちのせいで・・・>
いたたまれない気持ちを抑えながらレオナはあえて言葉を口にした。
「やるべきことをやろう・・・・?」
「・・・・」
レオナの呼びかけにルイの血の気を失った唇に微笑が浮かんだ。
「有難うございます・・・そうですね・・・」
ルイはハミルに向き直った。
「ハミル・・・」
「はっ!」
「負傷兵の中で、不審な者はいなかったかな?」
「不審な・・・?」
ハミルはルイの質問の意図が分からず首を傾げた。
「君は知っているだろう・・・?シャロンが伝えようとした言葉・・・」
ルイの言葉にハミルははっとした。
「まさか・・・負傷兵の中に・・・?」
「わからない、ただ可能性としてありうる・・・」
「・・・・」
ハミルの脳裏に戦いの直後に見た負傷兵がよぎった。
「数時間ほど前に妙な負傷兵を見かけました・・・」
「妙な・・・?」
「顔全体を包帯で巻いていたのですが、巻き方がわが衛生部隊の処置にしてはひどいものでした・・・あと甲冑が妙に体に対して大きかったのを覚えています」
「・・・・!」
ルイの傍らに立っていたレオナが弾かれた様にルイを見た。
「そいつだ・・・」
「え・・・?」
「恐らくはそいつが教皇だ・・・」
ルイの言葉にハミルは愕然とした。
「も・・・申し訳ございませぬ!まさかそのような・・・」
平伏するハミルの肩にルイはそっと手を置いた。
「仕方ないよ、僕らだってその可能性を考えもしてなかったんだ。君のせいじゃない・・・」
ルイは衛生部隊の天幕を出ると伝令を呼んだ。
「全軍に通達、顔に包帯を巻いた負傷兵を見かけたものは全員拘束し本軍の天幕まで連行するんだ・・・抵抗するものがいれば容赦はしなくていい・・・」
「・・・・!」
ルイに似合わない苛烈な命令にレオナは身震いした。
「ルイ・・・」
「ここで逃がすわけにはいかない・・・」
ルイは力なく微笑んだ。