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痛み

「ただこの争いを終わらせたいんです…できることなら永久に。」


ルイの言葉にカインは静かに笑った。

「出来るかもしれないな…お前なら…」


カインは馬上で身を伸ばし戦況を見やった。

退却するミハイルの軍は算を乱しもはや軍隊としての機能すら失っているのがわかる。


「神の名のもとに戦いながらもこんなものだ。殉教が最大の喜びと教えられつつもやはり皆死にたくなどないのだ…」

「これで最後にしましょう、たくさんの血を流すのは…」


ルイはそう言うと背後のキーナを振り返った。


「合図の狼煙をあげて下さい」

「わかった!」


キーナは気遣わしげにルイをみた。

「いいんやね?」

「はい、僕がここで逃げたら何も変わらない…」


「合図って何をするの?」

レオナはルイの瞳をみて慄然とした。

凄まじいまでの冷酷な光、そして同時にすぐにでも折れてしまいそうなくらいの悲しみに耐えようとする姿…


<...壊滅させる気なんだ、教皇の軍を...>


「ルイ…」


言葉を失ったレオナをルイは悲しげに見やった。

「すみません…教皇にしたがって戦っている人たちまで救えるのが一番なのはわかってます。あなたに命は平等だと僕が言ったのに…」


第六天魔軍から空高く狼煙が上がった。

その音はさながら死を告げる死神の咆哮のごとく響き渡った。


「カインさん…」

ルイは静かにカインをみた。


「今の合図で教皇の背後に展開していた第五天魔軍が攻撃を開始します。あと側面からも第二天魔軍が退路を絶つように移動します。」

「わかった…ケリをつけよう…」


カインの指揮の元、不死騎団もミルディア軍に呼応して動き始めた…




同じ頃…


「どど…どうするのじゃ!」

教皇イカロスは口角から泡を飛ばして神聖騎士団団長トーレスに詰め寄った。

「ミルディア軍にも攻撃されてしまったではないか!」

喚く教皇の脇の空間を切り裂くように一本の矢が突き刺さった。

「ひっ」


無様に尻餅をつきながらイカロスはミルディアの紋章の入った矢を見つめた。


今まで親征といいつつ戦場から遠く離れた場所にしかこなかったこともあり、これほど戦乱の中央にいるのは初めてだった。


「猊下をお守りしろ!敵襲だ!」

血走った眼で叫びながらトーレスは馬にまたがった。



「……」

乱戦の中シャロンは次々と敵兵を斬りふせながら必死に教皇イカロスの本陣を探した。

<....この戦いの被害を出来るだけ抑えるには教皇を捕らえなくては!..>


ルイからは教皇軍の殲滅指令が出ていたがシャロンはあえて教皇捕縛にこだわった。


<....ルイを苦しませたくない..>


シャロンの想いはそれだけだった。

自分が毛嫌いしていた惰弱で戦いの嫌いなルイ…それが今は心を鬼にして敵軍殲滅の決断をした…

すべての怒り、悲しみ、恨みを引き受ける覚悟で…


「!!」


およそ戦場には似つかわしくない輿が戦乱の中離脱して行くのが見えた。

「あれか!」


シャロンは部下に叫んだ。


「逃がすな!私は天幕を調べる、囮かもしれない!」


天幕のほうに馬を走らせようとしたシャロンの前に幽鬼のごとく一個の騎影が立ち塞がった。


その影は神聖騎士団団長トーレスだった…



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