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終わりの始まり

ゼメキア教国軍から分離した不死騎団3万は依然ミルディア軍とゼメキア教国軍との間に布陣している。


「・・・・・」

カイン・アークスは静かに戦場の一角の小高い丘にたたずんでいる。

百戦錬磨の将軍のみが纏う独特のオーラは、周りの兵の身をひきしめる威厳に満ちている。


「カイン様・・・」

カインの横に一人の将校が跪いた。

「レオナ様はまだお戻りになりません・・・まさか・・・」

「案ずるな・・・」

カインはやんわりと部下の言葉を遮った。


「ミルディアにはあの男がいる・・・あの男がレオナに害を及ぼすことは考えにくい・・・」

「しかし・・・」

「レオナでしかなしえぬ役目。仮に何かあったとしてもそれがあやつの運命だ・・・」


カインの厳しい言葉に将校は絶句した。

「お前は何故ここに来た?」

カインは静かにまだ少年の幼さが残る将校をみやった。

「教皇に弓をひくということは、相当の覚悟が必要だったはず・・・」

「私は・・・・」

その若い将校はわずかに俯いたが、カインを見上げはっきりとした声で答えた。

「私の家族は、宗教裁判で異端の嫌疑をかけられ火あぶりにされました。軍に仕官したばかりの私だけは死刑を免れました・・・」

「・・・・・」

「何かが狂っている・・・誰もが気付き始めています。ただ何も言えなかった・・・」

「そうか・・・・」

「ただあなた様がついに正しい道を示してくださったのです。私はそこについていくのみです!」

「お前・・・名はなんという?」

「はっ・・・サイクスと申します・・・」

「よくわが隊に残った、サイクスよ。ともに正義をしめそう・・・」

カインの言葉にサイクスは平伏した。


「・・・・・」

カインの目が戦場の彼方をとらえた。

「レオナが戻ってきた・・・」

カインは黒色のマントをひるがえし、天幕へ向かって歩き始めた。

「さて・・・われらの先にあるは成功か破滅か・・・」

低い声でカインはつぶやき、自嘲的な笑みを浮かべた。


「兄様・・」

「うむ・・・ご苦労だったな」

カインは妹の顔を見てわずかに眉を動かした。

<・・・いい顔をしているな・・・憑き物が落ちたような・・・>

「で、首尾は?」

「・・・・・」

レオナはミルディア軍との会合の一部始終を語った。


「お前がミルディアに残る・・・そうまで言ってきたか・・・」

「ええ・・・」

レオナはわずかに俯いた。

「なぜかはわからない・・・でもそう言うべきだと思ったし、今でも私は自分の言葉に後悔はないの」

「・・・・」

カインはわずかにため息をついた。


「レオナ・・・」

「わかってる。仮に教皇の軍を駆逐できたとしてもこれから国を建てなおすのは大変なことよ・・」

レオナはカインから目をそらせた。

「でも・・・もっと見てみたいの。あの男がその目で見ているミルディアという世界を・・・」

「・・・・」

カインは立ち上がり妹の頭に軽く手を乗せた。

「お前が決めたことだ・・・好きにするといい」

「兄様・・・」

「好きなのだろう?あの男が・・・お前の目を覚ましてくれたルイ・アルトワが・・・」

「・・・・!!」

レオナの美しい瞳から涙が流れ落ちた。

「ごめんなさい・・・兄様・・・」

「謝ることはない。この国は俺一人でも大丈夫だ・・・」

カインは優しく笑うと天幕の外を見やった。

「まずはイカロスの軍を殲滅させられればな・・・」

最後のカインのつぶやきは小さくレオナの耳には届かなかった。



「申し上げます!」

天幕の外でサイクスの声がした。

「教皇軍が進軍を始めました!ミルディア軍にではなく我らの方向に向かってきます!」

「数は・・・?」

「約2万!!」

「ふん・・・・すぐに後詰が来るな・・・」


カインはレオナを見やった。

「行こうか・・・俺たちの未来を切り開きに・・・」

「ええ・・・どういう結末であっても兄様と一緒なら・・・!」


ゼメキア教国を支え続けた最大の功労者、アークス兄妹は颯爽と騎乗し不死騎団の前衛に馬をはしらせた。

「皆聞け!」

カインが黒刀を抜き放ち叫んだ。

「今こそゼメキアに真の正義を!恐れるな!神はわれらの味方だ!」

カインの叫びに不死騎団の喚声がこだまする。


「申し上げます!」

カインのすぐそばに斥候が跪いた。

「ミルディア軍が動き出しました!」

「進路は!?」

レオナの問いに斥候の表情が曇る。

「動き出したのは第2天魔軍、われらの後方に回り込むかたちで展開しております!」

「挟撃するつもりか・・・!?」

サイクスが動揺した声で叫んだ。


「いったん退きましょう!挟撃されればいかに我らでも!」

サイクスの言葉にカインは目を閉じた。

「兄様・・・・ごめんなさい・・・」

レオナは唇をかみしめ俯いた。

<・・・ルイ・・・なぜ・・・・>

レオナの脳裏にルイの悲しげな瞳がよぎった。

<・・・優しすぎるがゆえに全軍を説得できなかったのか・・・>


レオナは大きく息を吐き出した。

不思議と恨みはなかった。逆にルイの気持ちを汲もうとする心が働いている自分自身にレオナは驚きすら感じていた。


「離脱しましょう、兄様・・・」

「・・・・いや・・・・」

カインの目が開いた。

その鋭い眼は前方から殺到する教皇軍に向けられていた。

「これより教皇軍を迎撃する。後背には目もくれるな!」

「兄様!?」

「俺を信じるか?レオナ・・・?」

カインは静かに妹を見やった。


「・・・・・」

レオナは兄の目をじっと見返し、頷いた。

「突撃用意!」

レオナが美しい音律を響かせ叫んだ。

不死騎団は一糸の乱れもなく迎撃態勢を整えた。


「突撃!!」

カインの号令のもと不死騎団が地鳴りと進撃を開始した・・・



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