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迷い

「異教徒を獄中から出したそうじゃな!どういうつもりじゃ!?」


ゼメキア軍の陣営・・・・

教皇イカロスの甲高い声が響いた。

「レオナとの捕虜交換に使いますが・・・?」

カインはそれがどうしたのだと言わんばかりの口調で答えた。

「ゆ・・・許さぬ!せっかく捕らえた異教徒の頭目を・・・!」

「ではわが妹を見殺しになさるおつもりか・・・?」

カインの鋭い眼光にイカロスはたじたじとなった。

「そ・・・そうは言っておらぬ。ただ神のご加護がレオナになくそれがゆえに捕まったのじゃ」

「信心がたりなかったと・・・・?」

カインがいきなり立ち上がったのでイカロスは思わずびくりと身を震わせた。

「一つご承知おき願いたい・・・」

「・・・・・」

「わが妹レオナは敬虔なゼメキア教徒。それは誰もが認めるところ。レオナの信仰をもしもお疑いとあれば、それがしにも考えがあります・・・」

「れ・・・レオナの信心はようわかっておる・・・心配いたすな」

イカロスは神経質に爪をかみながら頷いた。

<・・・危険な男だ・・・>

カインは苦々しくイカロスを見やった。青筋を浮かべぎらぎらした目で爪をかんでいる・・・

こんな男の命令に従ったばかりにレオナはミルディア軍の手に落ちた・・・

「ミルディア軍に使者を出せ。捕虜交換の準備だ・・・」

カインはもう何度目かになるため息をついた・・・


そのころ・・・

ミルディア軍の天幕で・・・

捕虜・・・・という扱いではなくむしろ客を遇するような扱いの天幕の中・・・・

レオナは苛立たしげに天幕の中を歩き回っていた。


一歩でも外に出れば見張りが目を光らせており、さすがのレオナもここから一人で遁走を試みることはできない。

あの忌々しい異教徒ルイが言ったとおり、カインの捕虜交換の段取りに身をゆだねるしかなさそうだった。

「・・・・・」

<・・・お前が男であったなら・・・>

脳裏にあの人の声が響き、レオナは懸命にかぶりをふった。

「私だって・・・・」

ぼそりとレオナはつぶやき、寝台に横たわり目を閉じた・・・


<・・・お前が男であったなら・・・>

<・・・やはり兄には勝てぬな・・・>

<・・・所詮は女か・・・>


「・・・!!!!」

レオナは飛び起きた。瞬間まどろんでいたらしい。

<・・・嫌な夢・・・>

レオナは額に浮かんだ汗をぬぐった。

「あっ・・!」

気がつくとすぐそばにルイが座っていた。とっさにレオナは剣を探そうとしてはっとした。

そうだった・・・ここは異教徒の陣だった・・・

「大丈夫ですか?随分うなされていたみたいですけど・・・」

「・・・・」

ルイは食事を載せたトレーをレオナの前においた。

「食べてください。何も食べなかったら体に毒ですよ?」

「・・・・」

レオナは黙って目をそらした。

「レオナさん・・・僕を見てください」

「・・・・」

「あなたと僕と・・・・何が違うんですか?」

「ゼメウスの神の加護を受けていない・・・」

ルイの問いにレオナは即答した。

「その神は宗教に属さない者たちの殺戮を認めるんですか・・・?」

ルイの問いは容赦なかった。

「もう一度言います。僕を見てください。あなたと同じ人間です・・・同じように心を持ち同じように大切な人を持ち、そして同じように血を流す・・・」

「違う・・・・!」

レオナは呻いた。

「お前たちは淘汰されるべきなのだ・・・・それは神が決めたこと!私はそれに従うまでだ!」

レオナはルイが持ってきた食器をつかみルイに投げつけた。


ガチャーン!

皿が割れ、破片でルイの額から血が流れた。

それでもルイはレオナから視線をそらさない。

「神が決めたこと・・・?あなたは教皇イカロスの言うことに従っているだけだ・・・」

「教皇様は神の地上における代行者であり代弁者だ・・・!」

「教皇イカロスの人となりは僕も聞いています・・・」

ルイはまっすぐにレオナの瞳を見据えた。

「彼は神の名を語っているだけ・・・あなたにはそれがわかっているはずだ・・」

「う・・・・うるさい・・・!」

レオナは耳をふさいだ。その手をルイがつかんだ。

「この侵略のどこに正義があるんですか?異教徒は生きてちゃいけない?でもその異教徒にも家族がいる者や守りたい大切な人がいる者もいるんです・・・!!」

「だまれぇ!」

レオナが叫び思い切りルイを突き飛ばした。


「・・・!」

次の瞬間・・・・疾風のようにマリアが天幕の隅から現れ、レオナの喉に短剣をつきつけた。

「いいんだマリア・・・大丈夫」

ルイはマリアに微笑みかけた。だがマリアは短剣をおさめようとしない。

「じゃあこの子はどうなんですか・・・」

ルイはレオナを見て言った。

「この子はいい子なんです。とても優しくて・・・まだ小さいのに僕なんかよりとてもしっかりしてる。いつでもこうやって僕のことを心配してくれるとても優しい子・・・」

ルイはそっとマリアの短剣を取り上げながら言った。

「不吉の瞳・・・そうよぶんですよね?あなたの国では・・・」

「・・・・・」

ルイの言葉にレオナは俯いた。

「こんなにいい子さえも受け入れられないというのなら・・・・ゼメウスの神の度量も小さなものですね・・・」

そう言うとルイは天幕を出て行った。



「・・・・」

天幕に残ったマリアをレオナは敵意のこもった目でにらみつけた。

「いい気味だと思うだろう・・・?お前の追放裁判に私も列席し、追放に賛成の書類に署名したのだからな・・・」

「ルイ様は・・・」

マリアがぽつりと言った。

「食べ物もなくて・・・疲れきって死に掛けていた私を拾ってくれたんです・・・」

「・・・・・」

「私はこの呪われた不幸の瞳を隠したくて隠したくて・・・・ずっと髪を長く伸ばして目を隠してました・・・」

マリアはレオナに笑いかけた。

「でも・・・ルイ様は、初めて私を見た時、この瞳を『綺麗な目だね』って言ってくれたんです」

「・・・・・!」

「この瞳のせいで私は生きていく場所がなかった。自分の親さえも私をまともに見てくれなくて・・・ただ人を殺す術だけを学んできた・・・そんな私のこの瞳を綺麗だって・・・」

マリアはにっこりと笑った。

その笑顔のまぶしさに思わずレオナは目をそらせた。

「私にはそれで十分でした。ルイ様がいる・・・それが私が生きている今の理由です・・・」

そう言うとマリアは立ち上がった。

「だから・・・もしあなたがルイ様の邪魔をするのなら・・・」

マリアは天幕を出て行き際につぶやいた。

「私は喜んで人を殺す術をあなたに使う・・・ルイ様にはもう使うなと言われていますが・・・」

「・・・・・」

天幕からマリアの気配が消えた。

レオナは黙って天幕の隅を見つめた。

「私は・・・・・・」


レオナの低い呟きが闇に静かに飲み込まれた・・・・


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