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真の力

照りつけるような日が頭上にさし掛かった頃・・・・


直属兵2万を整列させ、出撃準備を整えたレオナのもとにカインがやってきた。

「何を考えている・・・」

カインの言葉にレオナはばつが悪そうに目を伏せた。

「お前とてわかるだろう?前の襲撃が成功したのは夜襲で敵の虚をついたからだ・・・今この真昼間に堂々と攻めかけたところで前のような戦果は望めないぞ・・・?」

「わかってるわよ・・・そんなこと・・・」

レオナは細い眉をひゅっとひそめて言った。

「ただ・・・神のご命令にはさからえないわ・・・」

「命令をしているのは神ではない・・・教皇だ」

「そして教皇様は神の地上における代行者よ・・・?」

レオナの答えにカインはため息をついた。

聡明な妹の唯一の弱点・・・それは『神』という名の下にあの男の言いなりになってしまうところだ・・・

「レオナ・・・・」

「大丈夫、心配しないで?軽く一当たりして戻ってくる。無理はしないわ・・・」

レオナは颯爽と騎乗し、兄に笑いかけた。



レオナの号令の元、地を揺るがしレオナ・アークス直属軍2万は突撃を開始した。

「見事なものですね・・・・」

その様子を遠望しルイはつぶやいた。

「一兵にいたるまで命令が完全に行き届いている・・・すごいな、レオナ・アークスは・・・」

「感心してる場合やないで・・・」

横にいたキーナがつと手を伸ばし、ルイの目元に触れた。

「・・・・・?」

「じっとしとき・・・」

手早くキーナがルイの目元に施したのは彼女の部族の戦闘の化粧だった。

「キーナさん・・・・」

「第6天魔軍はあんたと共に戦う・・・これはその証や」

キーナはにっこりと笑った。

「さぁ・・・行こうか・・・」

二人は馬にまたがり前線に向かった。


地響きを立てせまりくるゼメキア軍が500歩の距離に迫った時、キーナの号令の元第6天魔軍の一斉掃射『死の雨』が天を覆う黒い雨となって降り注いだ。

次々と正確な騎射技術によってゼメキア兵がもんどりうって倒れた。

「ちっ!」

降り注ぐ矢の雨を払いながらレオナは舌打ちした。

兄カインの言ったとおり、襲撃を読まれていることと、そして何よりも前衛に一斉掃射を得意とする第6天魔軍がいることでさらに犠牲が大きくなる。

「射返せ!」

レオナは直属軍のさらに精鋭部隊5千を切り離し一気に第6天魔軍に斬り込んだ。こうすることで距離をつめ、まずは一斉掃射をとめることが狙いだった。

そして敵を混乱させる間に、後続部隊が襲い掛かる・・・


だが・・・・

「・・・・!」

レオナの思惑は見事に外れた。

まるでその動きを読んでいたかのように、掃射がぴたりとやみ突出したレオナとその精兵5千の突出した隙に第6天魔軍が一気に割り込んだ。

「馬鹿な・・・!」

レオナは舌打ちした。

完全に思考を読まれていた・・・・?しかしレオナはまだ慌ててはいなかった。

レオナは第6天魔軍の包囲網の一角に手勢を集中させ、包囲網の突破を図った。


レオナの手には昨夜の鉄鞭ではなく、蛇矛と呼ばれる異形の武器が握られている。

槍のように長い柄の先には蛇のようにのたくった長い刃がついている。この刃できられると傷はきれいにはふさがらず仮に命はその時は免れても後々に傷口がふさがりきらず死に至る恐怖の武器だ・・・


「かかってこい、異教徒共め・・・!」

レオナの蛇矛がうなりを上げ、あっという間に数名のミルディア騎兵を血しぶきの下にのけぞらせた。

「・・・・・・・!」

そのレオナの前にルイが馬を躍らせた。

「何者だ・・・?異教徒の頭目か?」

「僕はルイ・アルトワ・・・・」

「・・・・・!」

聞いたことがある・・・・

「お前がロンウェーを生け捕りにした・・・」

レオナの口元に残忍な笑みが浮かんだ。兄ですら一目置いたこの男を殺せば兄も自分の実力を今以上に認めてくれるはず・・・

「呪われた異教徒に魂の浄化を・・・・!」

レオナは一気にルイに馬を寄せ、必殺の一撃を見舞った。


キーン!!

当然にいつもの鎧ごと斬り割る感触を味わえると思っていたレオナの意図に反し、蛇矛は音高くはじき返された。

「な・・・・」

思わぬ手の痺れにレオナは目を見張った。

「すみませんが、生け捕りにさせてもらいます・・・」

ルイのおよそ戦場には似つかわしくないすまなさそうな口調に、レオナは逆上し我を忘れた。

「やれるものならやってみよ!」

レオナは蛇矛を握りなおし、全力でルイに打ちかかった。

しかしルイの長剣は難なくレオナの斬撃をはじき返し続け、数十合打ち合ううちにレオナの両腕が悲鳴を上げ始めた。

「ちっ・・・!」

レオナはあせり始めた。

これはまるで兄カインとの稽古のようだった・・・・この男の剣技は兄カインに匹敵する・・・

「あっ・・・!」

ルイの斬撃をうけきれず、レオナの蛇矛が宙をまい地面につきたった。


次の瞬間ルイの剣の平がレオナの腹部を強打し彼女は気を失った・・・



「やったな!王子!」

「はい・・・」

ぐったりとしたレオナをルイは自らの乗馬にひきあげた。

「レオナ・アークスを生け捕ったこと、敵軍にわかるように全軍に叫ばせてください。退路を必ずあけておくことも忘れないで・・・」

「了解・・・!」

指揮に戻るキーナを見送り、ルイは本営に馬首を向けた・・・



「馬鹿め・・・・」

戦況を遠望していたカインは舌打ちした。

後続を切り離して突撃をかけた時点でレオナの判断の誤りを悟ったカインは増援軍を差し向けたが時すでに遅し・・・レオナがミルディア軍の手に落ちたことを知ったのはそのまもなくのことだった。

「レオナ様は名の知らぬ若き将軍と一騎打ちをされ、そやつに生け捕られました・・・!」

兵の報告を聞いたカインはうめいた。

「まさか・・・・ルイ・アルトワか・・・?」

「おそらくは・・・」

そばにいたロンウェーが頷いた。

「それがしはやつの剣技の一端しか見ておりませぬが、レオナ様といえども・・・」

「ち・・・・」

カインは傍らの兵を見やって言った。

「ミルディア軍捕虜のウォレスを、こっちに引き取ってくるのだ・・・!やつらの狙いは捕虜交換だ・・・」

カインは天を仰いでため息をついた。



「う・・・・」

レオナは目を覚ました。

「・・・・!」

その瞬間レオナははねおき、剣を探した・・・・が、もちろんのこと彼女の周りには武器は一切なかった。

「・・・・・」

レオナは痛む腹部を押さえながら、辺りを見回した。

牢獄というより天幕に近い・・・・

「気がつきましたか・・・・」

少し距離を置いて椅子に座っていた青年がにこりと笑った。

「ルイ・・・アルトワ・・・」

「はい・・・はじめまして、レオナ・アークスさん」

「・・・・・・」

レオナは敵意に満ちた目でルイをにらんだ。

「異教徒め・・・何を考えている?なぜ私を殺さず捕らえた!?」

「大事な友達をかえしてもらうためです・・・」

ルイは屈託のない笑顔で答えた。

「あなたの兄上ならこの交換には応じてもらえると思っています」

「・・・・・・」

レオナは悔しさで全身が火の様に熱くなるのを感じた。



「大丈夫ですか?力をついつい入れすぎちゃって・・・」

苦しげなレオナの様子にルイは気遣わしげに言った。

「だ・・・黙れ・・・!!」

言葉を重ねようとしてレオナは呻いた。

「しばらくここでゆっくりしていってください。あなたの身の安全は僕が保障します。」

「馬鹿な・・・早く捕虜交換でもなんでもすればいいだろう・・・!?」

「見てもらいたいんです・・・・」

ルイの言葉にレオナは絶句した。

「あなたの神のいう『異教徒』たちがどういう人間なのかを。あなたたちの宗教では生きることすら許されない僕たちミルディア人にも血が通っていること、心があることを分かってほしい・・・」

「・・・・・お前たちは呪われた存在なのだ・・・」

レオナの言葉にルイは肩をすくめて見せた。

「どうでしょう・・・僕から見ればあなたこそ何かの力に呪われているように見えますが・・・」

「・・・・・!」


目を見張ったレオナを残しルイは天幕を後にした。

「マリア・・・」

「はい・・・・」

影のように付き従う赤い瞳の少女にルイは微笑んだ。

「大丈夫、レオナさんは賢い人だ・・・きっとわかってくれる・・・」

「どうでしょうか・・・あの方はゼメキア教を心底崇拝しておられます。私の追放裁判だって・・・」

マリアは目を伏せた。

その少女の頭をルイの手が優しくなでた。

「大丈夫。ともかくこれでウォレスの処刑はなくなった。少し時間をかけてレオナさんの目を覚まさなきゃこの戦いは終わらない・・・」

「はい・・・・お考えはよくわかっています。」

「有難う、この天幕の護衛はしっかり頼むね・・・」

ルイはマリアににっこり笑いかけ歩き去っていった。


「ルイ様なら・・・・・」

マリアはそんなルイの後姿を見送りながらぽつりとつぶやいた・・・






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