5 取引
『あなた達にあげれるものは何もないわ、帰ってちょうだい!』
母のサラがウィンを守るように立ちはだかるが、ハイエナ達はケケっと笑いながらウロウロして、全く立ち去る素振りはない。
ウィンは怯えた顔をして、心配そうに様子を伺っている。まだ立てないようだ…。
母と幼い俺で、3匹のハイエナからウィンを守りきるには、余りにも勝算がなかった。
緊迫した空気が流れるなか、先に話しを切り出したのは、ハイエナのリーダーのザザだった。
『…どうしても見逃して欲しいっていうんだったら、見返りがなきゃなぁ〜』
『……見返り?』
『ケケケ。そうだよ。こっちにもそれなりの利益がなきゃね〜』
『……それは、何だ?』
俺が聞き返すと、母が「バズ!そんな話のっちゃ駄目よ」と言うが、今助かるには、奴らの話しを聞くしかない。
『ちょうどガブ様から依頼があってね〜。それをチョチョイと手伝ってくれたらいいんだよ』
ザザがいうガブ様とは、ライオンのリーダーである。このジャングルの王として現在君臨している。
ガブは、1年程前に新しく王になったばかりで、先代の時には穏やかだったジャングルも、ガブが王様になってからは、傍若無人の我儘放題で、ジャングルの治安は乱れてしまったと言われている。
それも、先代王が亡くなったのは、ガブの仕業じゃないかとも噂があるらしい…。
俺はまだ見たことも、会ったことがないがな。
そんな王の依頼……きっと碌な内容じゃないことは予想がつく。
『内容は?』
イヒヒと笑うハイエナのザザ達が笑う。
『明後日の夜明けまでに、《幽玄の洞窟》から青く光る水晶を採ってこい』
『なっ!!?無理よ!!』
母のサラが険しい顔で叫ぶ。
幽玄の洞窟っ?!………何だそれ!?
それが何処にあって、青い水晶が何なのかも知らないが………ウィンを助けるには、行くしかないよな。
『……幽玄の洞窟の青い水晶だな』
『そうだ。明後日の夜明けまでに出来なきゃ、そっちのチビを渡して貰おう。ケケケ』
『分かった…俺が行ってくるよ』
『バズっ!駄目よ!幽玄の洞窟がどんなに危険か知りもしないで!』
『でも、俺が行かなきゃ……、ウィンが!』
ウッと母も押し黙る。
『…バズ…お願いだから、無茶はしないと約束して…!危ないと思ったら、貴方の命を1番大切にしなさい』
『……ああ、約束するよ』
『よし!取引成立だな!俺達はお前が戻るまで、順番で此処を見張ることにする。明後日の夜明けまでには戻らなきゃ…ケケケっ!!』
『……ああ、必ず戻る』
ザザが言うには、《幽玄の洞窟》とは、ここから北東にいくと大きな岩肌の崖があるそうだ。その崖の麓にある洞窟で、中には様々な罠があって、初代王が洞窟から生き延びた証拠の印として、青い水晶を持ち帰ったと言われている。その水晶をガブ様が欲しているという。
初代王以外、今まで洞窟に入った動物達は生きて帰ってきていないらしい。
別名《屍の洞窟》とも言われているそうだ。
母さんが反対している意味が分かった。
だが、やるしかないだろう。
ウィンを見捨てることは、俺には出来ない…。




