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雪女さんこんにちは  作者: suzumi
雪女さんと
15/24

 まず特筆すべきは縁側から繰り出せる中庭であろう。この屋敷、外観の一部たる表の庭に関しては、武家屋敷を思わせる和風の造りであるのに、何故か中庭は石畳の小道が特徴的な西洋風で、あべこべである。


 そこではサルビアやマリーゴールドは凛然と咲き誇っており、ガーデンチェアも日陰に陣を取っている。これが何とか調和を保っているのは庭師のなせる業だろう。雪月先輩は白の胡蝶蘭の鉢植えがお気に入りらしく、縁側に腰掛けながら、


「ほら、これが胡蝶蘭の大輪なのだよ」と好奇心のままに散策する私の背中に声を浴びせた。


 風呂は風呂ではなく、浴場であった。それも殆ど大浴場であった。御影石の浴槽は大人十人は一緒に入れそうな程の広さを誇っており、壁には何故か空飛ぶ猫の絵が描かれていた。桶もシャワーもデザインのこだわりが凄く、温泉旅館も顔負けである。サウナと水風呂までも完備している始末であった。


「雪女がサウナなんて使うんですか?」と私は一応尋ねた。


「まぁこういうのは風情だしね。それに一つ目小僧とから傘お化けは使っているらしいし」


 言い訳するように言ったが、私はそれよりも一つ目小僧とから傘お化けの方が気になった。


「何ですか、その妖怪みたいなの」

「そりゃあ妖怪兼我が家の使用人だよ。後で顔を合わせることになるだろうから、ちゃんと挨拶してね。二人とも人間があまり好きじゃないから、最初はちょっと苦労するかも」


 雪月先輩はさも当然のことであるようにそう言った。


 その後は書斎やキッチンや客間や寝室等々を巡った。部屋数は三十を超えた辺りから数えることを放棄した。地獄の沙汰も金次第を地で行く吉田先輩あたりが来たら、一体どんな反応をするのやら。各階に御手洗があったり、階段の踊り場にステンドグラスの窓があるなど、一軒家では信じられないことばかりである。


 彼女は最後にとっておきの場所を見せてあげると囁くと、私の手を取った。


「いよいよ大トリだよ」


 言いながら一階に降りて、先程は素通りした矢鱈と大きな扉を開く。


「なんですかこれは」


 私は言葉を失った。眼前に広がるのは映画でしか見ないようなアンティーク調の西洋広間で、広間の窓には分厚いカーテンがあって、日光を遮っており薄暗い。その代わり出所不明の橙色の光があちこちで神秘的に反射しており、聖なる妖怪屋敷に迷い込んだ感じを演出していた。


「現世では有り得ない光景でしょう」


 彼女は落ち着いた声音で、感慨に耽るように言った。素直に感動した私も彼女に引っ張られてしみじみと言った。


「ええ、大変綺麗です」


 私たちはしばらくの間、揺れ動く光を眺めていた。次第にその絶景は魔法チックな配色の蛍がゆらゆらと飛び交っているようにも見えてきて、何か得体の知れない郷愁を誘った。尚も見入っていると、雪月先輩が私の肩を優しく叩いた。


「そうだ、見せたいものはまだ他にもあるんだった」


 彼女は私を伴って、てくてくと絨毯の上を迷いなく歩いていく。広間の東側にある小扉を開けると、薄暗い小道の先に地下室に続く階段があった。如何にもホラーゲームに出てきそうな螺旋階段である。


「ここを行くんですか?」


 ほんの少し怖気づいた私が躊躇すると、


「うん、ここを行くんだよ」


 雪月先輩は再び私の手を取って先導しだした。


 階段を降りた先は全体が円柱状になっている不思議な部屋であった。薄暗くモヤが立ち、妖しげな雰囲気が漂っているが、ここは書庫なのだそうだ。


「ほら、ちょっと見ててごらん」


 雪月先輩は手馴れた様子で戸棚から石ころを取り出すと、手の中にぎゅっと握りこんだ。すると石は夜光石のように光り出し、私たちの顔と地下室を照らした。


「こりゃまた綺麗ですねぇ」

「でしょう」


 そう言って彼女は更に古めかしいランタンを戸棚から取り出した。


「魔力を込めた光る石をこのランタンの中に入れてね、棒に吊り下げて好きな本を探すの。どう? 中々に風情があるでしょ」


 にんまりとした彼女は顔に近づけたランタンをカタカタと揺らすと、木棒片手に先導し出した。追従する私に色々な本を紹介してくれる。若干埃っぽいのが気になったが、地下室の書庫には小説から図鑑まで数多の本が揃っていた。彼女の博覧強記ぶりはきっとここのコレクションも関係しているのだろう。部屋を一周し終えてから私は言った。


「絶対にLEDライトを点けた方が便利ですけど、確かに風情はありますね」

「くしゅん!」


 雪月先輩はくしゃみで返事をした。



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