第7章 公開 ― ありがとうが届く瞬間
ついに“Ripple Project”が始動。
モニターに映し出された“光の波紋”は、
人の心がデジタルを通じて届いた証でした。
[ミライ事務用品・社内テスト当日/午前10時]
春の光が差し込む会議室。
凪はノートパソコンを開きながら、深呼吸をした。
環は隣で資料を並べ、柊は静かに見守っている。
「本日がテスト公開日、ですね……!」
「はい。“Ripple Project”、起動します。」
Enterキーが押される音。
画面がやわらかな光に包まれた。
トップページに浮かぶメッセージは――
> “あなたの手元に、今日もやさしさを。”
その言葉と同時に、
過去に受け取った“ありがとう”の波紋が、
背景のグラデーションとしてゆっくり広がっていく。
「……わぁ。」
「えっ、これ、背景が動いてるんですか?」
「はい。“ありがとう”が生まれるたびに、
その感謝が“光の波紋”としてサイト全体に広がるようにしました。
ひとつのメッセージが、次の誰かの画面にも届くんです。」
青木は画面を見つめながら、
そっと自分の手を胸に当てた。
「……あの、すごいですね。
まるで、みんなの“ありがとう”がここに生きてるみたいです。」
「それが、凪の再設計だ。
“感情を保存する”から“感情を共有する”へ。」
「音のない優しさって、こんな風に届くんですね。」
「……そう言ってもらえると、報われます。」
テスト用に“購入完了”ボタンを押すと、
吹き出しがゆらりと浮かび上がった。
> “あなたの言葉が、誰かの一日を明るくしました。”
その瞬間、背景に小さな光の粒が弾け、
画面の端に淡いピンク色の波紋が広がった。
「……これ、“ありがとう”の波、ですか?」
「はい。
“受け取った想い”を、見えない風のように広げる仕組みです。」
「なんだか、涙が出そうです……。
私、この会社で働いててよかったって、今ほんとに思います。」
「その言葉が、たぶん次の波紋になるんですよ。」
「……そうですね。」
凪はそっとモニターの隅に手を添えた。
「この波が、どこまで届くんだろう……」
その声は、少しだけ震えていた。
「届くさ。
やさしさは、伝えようとする限り、どこまでも。」
「凪さん……本当に、ありがとうございました。」
「こちらこそです。
“人の想いを届けるシステム”、その答えを教えてくれたのは皆さんですから。」
外では、風がやさしく旗を揺らしていた。
その音はまるで、画面の中の“波紋”が現実に届いたようだった。
――“ありがとう”は、言葉じゃなく風のように届く。
今日もまた、新しい波が静かに広がっていく。
青木さんの“涙のありがとう”が、すべてを語っていました。
凪くんの作ったシステムは、
ちゃんと“人の心”を残せたのだと思います。




