第6章 再構築 ― “ありがとう”の設計
深夜のオフィスで、凪くんが見つけた答え。
それは、“ありがとう”をデータではなく“波紋”として残すという発想。
優しさは、静かに広がっていく。
[アークシステムズ・オフィス/深夜]
窓の外は、街灯の明かりがちらちらと揺れている。
凪はひとり、モニターの前で静かにコードを見つめていた。
データベースの中には、
たくさんの購入履歴と送信ログ。
でも、そのどれもが“数字”でしかない。
「……人の想いを、どうすれば残せるんだろう。」
呟いた声が、オフィスの空気に溶けていく。
その時、静かにドアが開いた。
環がカップを2つ手に持って入ってきた。
「凪くん、コーヒー、飲みますか?」
「あ、ありがとうございます。環さんまで残ってもらって。」
「うん。なんか……気になって。
“ありがとう”が消えるって、悲しいですもん。」
「ですよね。
あのメッセージ、ただの文字なのに、
なくなると空気が冷たくなる気がして。」
環は凪のデスクに、手書きのメモを置いた。
> “焦らなくていいですよ。
きっと“ありがとう”は、まだここにあります。”
「……環さん、これ……」
「昔、灯さんが言ってたんです。
“優しさはデータじゃなくて、波紋のように広がる”って。」
「……波紋、か。」
凪はメモを見つめながら、静かに立ち上がった。
「そうだ……。メッセージを“保存”するんじゃなくて、
“受け取った人の気持ち”を波として残せばいいんだ。」
「波?」
「ユーザーが“ありがとう”を受け取った時、
その画面の色や光が、少しだけ変わるようにする。
その変化を“波紋”として他のページにも伝える。
言葉じゃなくて、“優しさの余韻”を残す設計です。」
「……それ、すてきです。」
「なるほどな。人の想いは、共有じゃなく“共鳴”だ。」
驚いて振り向くと、柊がカップ片手に立っていた。
「柊先輩……聞いてたんですか?」
「聞こえるくらいにはな。
……いい案だよ。
人の気持ちは、サーバーに残すんじゃなく、人の中に残せばいい。」
「ありがとうございます。
じゃあ、コードネームは……“Ripple Project”で。」
「“ありがとうの波紋プロジェクト”……ですね。」
「うん。
見えないけど確かに広がる――それが“ぽかぽか”だ。」
3人は笑い合い、再びそれぞれの席に戻った。
モニターの中では、新しい設計図が静かに光を帯びていく。
――“ありがとう”は、保存するものではなく、
誰かの心に波のように残るもの。
夜風がそっとカーテンを揺らした。
その風もまた、優しい“波紋”のひとつのように感じられた。
環の手書きメモが、凪くんの心を動かしました。
“焦らなくていい”というその言葉が、
人を支えるシステムの原点かもしれません。




