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EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season8 ― あリがとうの波紋 ―小さな会社の大きなアップデート ― 日常に寄り添う設計 ―  作者: 柊梟環
EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season8 ― あリがとうの波紋 ―小さな会社の大きなアップデート ― 日常に寄り添う設計 ―
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第5章 トラブル ― 消えた“ありがとう”

テスト運用が始まり、誰もが胸を高鳴らせていたそのとき。

画面から“ありがとう”の文字が消えてしまう。

一番大切にしていたものが、突然見えなくなった――。

[アークシステムズ・オフィス/翌週午後]


モニターに並ぶ数字の列。

なぎは集中した表情でキーボードを叩いていた。

たまきが作った“ぽかぽかUI”を本番環境でテスト中。

しゅうは隣で静かにコーヒーを飲みながら、二人を見守っている。


「よし、これでデータベースと接続完了……っと。」


「“今日のひとこと”欄も表示されましたね。」


「うん、いい感じだ。

 じゃあ一度、購入シミュレーションを流してみよう。」


凪がクリックすると、画面に優しいグラデーションが浮かび上がる。

“あなたの手元に、やさしさを届けます。”

――その下に、吹き出しが現れた。


 > “今日も一日、あなたのペンが笑っています。”



「ふふ、かわいい……!」


「文具の気持ちまで代弁してるな。」


その時だった。

次の瞬間、画面が一瞬点滅し、

表示されていたメッセージがふっと消えた。


「あれ……? “ありがとう”の欄、消えちゃいました?」


「えっ……おかしいな。

 データベースのログには残ってるのに、UIが空白になってる。」


「サーバー落ち?」


「いや、違います。

 メッセージデータだけが抜けてる。

 ……まるで“気持ち”だけが消えたみたい。」


「……なんか、それ、ちょっと悲しいですね。」


凪は深く息を吐いた。

「“ありがとう”を残したくて作ったのに、

 いちばん大切な部分が消えるなんて。」


「焦るな。

 システムにとっての“ありがとう”って、文字列じゃない。

 気持ちを伝える“構造”そのものだ。

 それを見直せばいい。」


「“構造そのもの”……ですか?」


「たとえば、“ありがとう”をデータベースに残すんじゃなく、

 画面を開く人が、誰かの“想い”を感じ取れる導線を作る。

 形を変えて、同じ心を残す方法を探すんだ。」


「……なるほど。

 “ありがとう”って、メッセージじゃなくて“気配”なんですね。」


「そう。

 人の温度は、ログには残らない。

 でも、“ぬくもりのある設計”なら、ちゃんと届く。」


「……はい。もう一度、考え直してみます。」


凪は画面を見つめ、

消えたメッセージの空白の中に、自分の指先をそっと置いた。


 > “ありがとう”は、見えなくても残せる。



その言葉が、静かに心の中で響いた。

凪くんにとって、“ありがとう”はただの言葉じゃない。

だからこそ、失った時の静けさが痛いほど伝わりました。

次回は、再び立ち上がる夜のお話です。

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