第2章 現地調査 ― 手のぬくもりのある職場
環が大好きな文具の会社を訪ねる日。
見慣れたペンやふせんの向こうに、
“人の想いが生まれる現場”がありました。
[アークシステムズの移動中の車内/午前9時半]
海沿いの道を走る車内。
助手席の環は、書類をまとめながら何気なくペンを走らせていた。
「環、そのふせん……またかわいいの使ってるな。」
「あ、これですか?
“ミライ事務用品”の新作なんですよ。」
「あー!この前、僕のPCに貼ってくれてた“お疲れさま”メモも、それでしたよね?」
「そうそう、それです。
あのシリーズ、“気持ちを伝える文具”ってテーマらしいです。」
「へぇ……たしかにあれ、もらうとちょっと元気出るんだよな。」
「文具で元気もらえるの、環さんらしいですね。」
環は笑って
「文具って、誰かの手に届く小さな“やさしさ”だと思うんです。
便利だけじゃなくて、気持ちまで動かせるっていうか。」
「……いいこと言うな。
今日の打ち合わせ、それそのまま使えそうだ。」
「“文具で伝わるやさしさ”か……うん、いいキーワードですね。」
窓の外では、青空の下に街の看板が見え始めていた。
そこには淡いブルーの文字で――
『株式会社ミライ事務用品』
「着きましたね。
……なんか、ちょっとドキドキします。」
「好きな会社の現場に行けるの、楽しいだろ?」
「はい。たぶん今日いちばんテンション高いです。」
「環さん、頼もしい。じゃ、いきますか。」
◇◇◇
[ミライ事務用品・本社ビル]
扉を開けた瞬間、紙とインクのやさしい香りが広がった。
整然と並ぶペンとメモ帳の棚。
どれも見覚えのある色と形――
「あっ、これ……私、使ってます!
このペンも、このメモも!」
事務課主任の青木結菜は嬉しそうに微笑み
「ありがとうございます!
実はそれ、今いちばん人気なんです。」
「なるほど、これが“人の温度を残す文具”か。」
「デザインにもぬくもりがあるな。
この会社、いい風が流れてる。」
光が差し込む窓辺。
色とりどりのペン先が、まるで笑っているように輝いていた。
――“日常を支える道具”たちに囲まれたその場所は、
まるでぽかぽか邸の延長線みたいに優しい空気で満ちていた。
◇◇◇
[ミライ事務用品・会議室]
木目のテーブルの上に、カラフルなノートやカタログが並べられていた。
会議室の壁には“文具で人を笑顔に”というスローガンが飾られている。
「うちは長く、FAXと電話で注文を受けてきたんです。
ただ、最近は人手も減ってきて……」
「オンラインショップ化を、というお話ですよね。」
「はい。便利になるとは思うんですけど……」
少し言葉を選ぶようにして、青木は続けた。
「機械的になりすぎて、“ありがとう”の気持ちまで消えちゃうのはイヤで。」
「……すごく、わかります。」
環は自分の手帳を開いて、
そこに貼られた“ハート型のふせん”を見せた。
「私、これを使って2人にメッセージをよく書くんです。
仕事の内容でも、ただの“ありがとう”でも。
それだけで、少し空気がやわらかくなるんです。」
「あ、うちの“Heart Note”シリーズですね!」
嬉しそうに笑う青木の声に、部屋が少し明るくなった。
柊はやさしく微笑み
「……つまり、御社の強みは“人の温かさ”だ。
それをシステムでどう表現するかが今回のテーマですね。」
凪が続ける。
「注文ボタンを押すだけのサイトじゃなく、
“人の気持ちが伝わる導線”を作ることですね。」
「そんなこと、できるんでしょうか。」
少し眉を寄せながら青木が聞くと、
すぐに凪が答える。
「できますよ。」
迷いのない声。
「僕たちがつくるのは、“使いやすさ”じゃなくて、“やさしさ”ですから。」
青木は一瞬、言葉を失って微笑んだ。
◇◇◇
[事務フロア/午後]
案内されて歩く通路の先、
一枚の紙が掲示板に貼られているのが目に入った。
「……これ、なんですか?」と環が立ち止まる。
「あ、それはお客様からいただいたFAXです。」
そこには、少し滲んだボールペンの文字。
> “このメモ帳、娘が学校で使っています。
おかげで毎日楽しそうに宿題をしています。ありがとう。”
凪は、静かにその文面を見つめた。
「……この“ありがとう”が、消えない仕組みを作りたいですね。」
「うん。こういう声こそ、残したいですね。」
「“温かさを記録する機能”か。」
柊は腕を組み、いつもの穏やかな笑みを浮かべる。
「凪、設計図のページが増えそうだな。」
「はい。でも、いい増え方です。」
少し照れたように笑い、モニター越しの未来を思い描く。
光が射す窓辺。
カラーペンのインクがきらりと光った。
――人の手が生んだ色たちは、
これからシステムの中で、新しい“ぬくもり”として生まれ変わろうとしていた。
青木さんの机の上にあった“手書きのメッセージ”。
それを見つめる凪くんの目が、少し優しくなっていました。
ここから、システムに“気持ち”を込める物語が動き出します。




