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ファンタジー・ピッカーズ

作者: タハノア

「ムンナァ……」


巨獣パンタの、のんびりとした鳴き声が街道に響く。

俺たちの家であり、倉庫であり、そして最高の相棒でもある移動要塞(トランスポーター)は、今日も今日とてガラクタとロマンを詰め込んだ荷車を引いて、埃っぽい道をゆっくりと進んでいた。


「……で、ゴル。今回の依頼、本当に当てがあるんでしょうね?」


荷車の助手席で、俺の相棒であるエルフのテイクが、眉間のシワをこれでもかと深くしながら言った。

こいつはアーテイク。チームの頭脳(ブレイン)であり、俺の直感にいつもケチをつけるカタブツ鑑定士だ。


「当たり前だろ。依頼主は、かの大魔道士の孫娘だぜ? 蔵にはお宝がザックザくに決まってらあ」


「その大魔道士が亡くなってから、既に五十年は経過しています。価値ある遺品は、とうの昔に目ぼしい親族や弟子たちが持ち去っているのが道理。残っているのは、価値のないガラクタだけでしょう」


「へっ、そのガラクタにこそ、最高の物語(ロマン)が眠ってんだろ。それが俺たち『ピッカーズ』の仕事じゃねえか」


俺、ゴルディバンダー――通称ゴルは、ドワーフだ。

だが、鍛冶仕事は苦手だし、暑苦しい髭も髪も剃っちまった。そんな俺の唯一の取り柄が、モノが持つ“熱量”みてえなもんを「声」として感じ取れる、この妙な直感だ。


俺の直感がガラクタの山から宝の原石を掘り起こし、テイクの博識がその価値を証明する。

そして、本拠地の店で待つ俺たちの鬼の経理担当(ラスボス)、ハーフリングのポッコが、それを最高の値で売りさばく。

それが、俺たち『ピッカーズ』のやり方だ。


やがて、街道の先に一本の古塔が見えてきた。

かつて大魔道士が住んだというその塔の前で、一人の女性が俺たちを待っていた。


「お待ちしておりました、ピッカーズの皆さん」


困ったように微笑むのは、依頼人のリリアナさん。

亜麻色の髪を風に揺らす、庭いじりが好きそうな、優しげな女性だ。


「祖母の遺品が地下倉庫に眠っているのですが、私、こういうのサッパリでして……。価値があるものなら、ちゃんとした方に持っていてもらった方が、道具たちも幸せかな、と」


「なるほどねぇ。そいつは道具冥利に尽きるってもんだ。任せといてくださいよ、お嬢さん」


俺がニヤリと笑う横で、テイクは「日没までに終わらせますよ」と温度のない声で釘を刺す。まったく、愛想のねえやつだ。


ギィィィ……ッ。


リリアナさんに案内されて重い鉄の扉を開けると、カビと、魔力の澱と、長い年月の匂いが混じり合った空気が、俺たちの顔を撫でた。

そこは、まさに魔境(ダンジョン)だった。


天井までうず高く積まれた木箱。壁際に無作法に立てかけられた杖の数々。床には、何の部品かも分からねえ金属パーツや、古びた魔導書が散らばっている。


「はぁ……これは骨が折れそうですね」


テイクは早速、鑑定用のルーペを片手に魔力測定器を取り出し、繊細に調査を始めた。

「魔力反応は微弱。大半が型落ちの量産品ですね。あちらの攻撃用魔導具は、いくつか値がつきそうですが……」


カタブツエルフがブツブツ言いながら鑑定を進めるのを横目に、俺はゆっくりと目を閉じた。

そして、意識を集中させる。


――ザワザワ、ガヤガヤ……!


頭の中に、ガラクタたちの囁きが響き渡る。

『俺はまだ使えるぞ』『もう誰も触ってくれないのか』『錆びちまったよ』

この不協和音の中から、たった一つの、特別な「声」を探し出す。

風だ。この澱んだ地下倉庫の中で、微かに流れる風が、何かを囁いている。

そして、床の土だ。この石造りの床に薄く積もった土が……歌ってやがる。


『穏ヤカ……緑……太陽……』


優しい、小さな声だ。まるで、日向ぼっこしながら微睡んでいるような。

俺はその声に導かれるように、倉庫の最も奥、テイクが「価値なし」と判断したガラクタの山の前で立ち止まった。


「……見つけたぜ」


俺はゴミの山に腕を突っ込み、ガラクタをかき分ける。

そして、一つの物体を、そっと、宝物を扱うように掘り出した。


それは、少し変わった渦巻き模様がついた、ただの薄汚れた植木鉢だった。


「こいつはいいもんだ! 俺のカンがそう言ってる!」


俺が埃まみれの植木鉢を掲げると、背後から、宇宙の真理でも見たかのような、深いため息が聞こえてきた。


「……またですか、ゴル」

テイクが、眉間のシワをさらに深くしながら、呆れ果てた声で言った。

「それは、ただの園芸用品です。魔力反応、ゼロ。歴史的価値、皆無。ただの、ゴミです」


「へっ、お前にはそう見えるかもな」


結局、俺はその植木鉢を、個人的な興味という名目で銀貨一枚で買い取らせてもらった。

ついでに、テイクが値付けした攻撃用魔導具やら素材やらの代金、金貨20枚もきっちり支払う。リリアナさんは「面白い方たちですね」と楽しそうに笑っていた。


俺は買い取った植木鉢を抱え、パンタが引く荷車――俺たちの移動工房兼住居へと戻った。

作業スペースに植木鉢を置くと、俺は愛用の工具箱から、手入れ用の道具一式を取り出した。

柔らかい布、動物の毛でできた細いブラシ、そして、俺が調合した特製の汚れ落とし液(クリーナー)だ。


「どうせ無駄なことなのに……」

テイクの呆れ声がBGMだが、気にしねえ。


ブラシで表面の土を払い落としていくと、渦巻き模様だと思っていたものが、何かの紋様の一部であることが見えてきた。だが、ところどころが汚れで埋まり、一部は鋭い何かで削り取られたように欠けている。

こいつが泣いてた理由は、これか。


俺は工具箱の奥から、小さなヘラと、ドワーフの秘術で作られた特殊な補修用粘土(リペア・クレイ)を取り出した。

そして、恐るべき集中力で、欠けた紋様の部分を、元の形に復元していく。

ほんの数分で、紋様は完全に繋がった。

仕上げに、特製のクリーナーを染み込ませた布で、植木鉢全体を丁寧に磨き上げた。

すると、長年の汚れが嘘のように落ちていき、陶器本来の深く、美しい艶が姿を現す。


そして、紋様が――その真の姿を現した、その瞬間だった。


フワッ……!


植木鉢から、淡い、翠色の光が溢れ出した。

それはまるで、春の陽光を浴びた若葉のような、生命力に満ちた光。


「なっ……!?」

隣で作業をしていたテイクが、弾かれたように顔を上げた。

彼のエルフの眼(・・・・・)が、信じられないものを見るように、大きく見開かれている。

「この魔力の鼓動……嘘でしょう……!? さっきまで、完全に沈黙していたはずなのに……!」


テイクは慌てて鑑定用のルーペを目に当て、修復された紋様を覗き込む。


「この紋章は……“破壊の魔女(デストロイヤー)”エイヴリン・ランハインダーの個人印!? なぜ、こんなものに……!?」


“破壊の魔女”エイヴリン・ランハインダー。

魔王軍との大戦期において、そのあまりに強力な破壊魔道具の数々から、そう呼ばれた伝説の一級破壊魔道具士だ。

テイクの口から、淀みなく解説が溢れ出す。こいつの脳みそは、まるで生きてる図書館だ。


「彼女の作品は、そのほとんどが各国の軍事機密として厳重に保管されており、市場に出回ることはまずありえません。ましてや、こんな……こんな植木鉢など、記録には一切残っていない……!」


「で、結局のところ、こいつは一体なんなんだ?」


俺がそう尋ねると、テイクは「愚問です!」とでも言いたげな顔で俺を一瞥した。


「ゴル、あなたには分からないでしょうが、今、この植木鉢の内部では、微小な魔力循環サイクルが形成されています。土壌の魔力濃度を最適化し、植物の成長を劇的に促進させる機能があるはずです。それも、外部からの魔力供給なしに、半永久的に……! これは……そう、いわば『生命創造の坩堝テラフォーミング・ポット』! どんな枯れ地でも緑化できるほどの、とんでもないロストテクノロジーの塊ですよ!」


テイクはもはや、鑑定士というより、信仰対象を前にした狂信者のようだ。

まあ、気持ちはわかる。こいつは植物を育てるのが趣味だからな。


「それにしても、なぜ“破壊の魔女”がこんな平和な魔道具を……」


テイクが呟いた、その時だった。

植木鉢の光が、ふわりと強くなった。そして、俺の頭の中に、直接声が響いてきた。


――疲レタ……タダ、静カニ……花ヲ、育テタカッタ……


「!」


植木鉢から流れ込んできたのは、一人の女性の、悲しくも穏やかな想いだった。

戦場で、ただひたすらに破壊の道具を作り続けた彼女が、心の平穏を求めて、たった一つだけ自分のために作った趣味の作品。

それが、この植木鉢の正体だったんだ。


「……そういうことかよ」

俺は、今は亡き“破壊の魔女”に、心の中でそっと手を合わせた。あんたの想い、確かに俺たちが受け取ったぜ。


「……とにかく、これはとんでもない価値があります。エイヴリン・コレクターが見れば、卒倒するほどの逸品です。最低でも……金貨3600枚は下らないでしょう」

テイクは興奮を抑えるように、咳払いを一つした。


金貨3600枚。銀貨一枚が、とんでもねえ大金に化けちまったな。

俺が通信機に手を伸ばそうとした、その時。


「待ってください」

テイクが、真剣な顔で俺を制した。

「この『生命創造の坩堝テラフォーミング・ポット』は、私が買い取ります」


「……はあ!? お、おい、お前、正気か!?」


「ええ。これほどの芸術品を、金儲けの道具として見ることなど、私にはできません。これは、私の個人的なコレクションとして、生涯をかけて研究し、愛でるべき対象です」


「やっちまったもんはしょうがねぇ! 一緒にポッコにどやされようぜ」

俺は肩をすくめて、笑った。金儲けも大事だが、相棒の(ロマン)を笑うほど、野暮じゃねえ。


「ふむ……感謝します」

テイクは小さく頷くと、懐から分厚い革の財布を取り出した。そして、中から金貨を数枚……ではなく、数枚の**紙切れ**を取り出した。


「これで支払います」


「……おいおい、テイク。そいつは『王立銀行券』じゃねえか。こんな辺境の村じゃ、ただの紙くずだぞ?」


俺が言うと、テイクは心底軽蔑したような目で俺を見やった。

「ゴル、あなたと一緒にいると、時々自分の知能が下がっていくのを感じます。よく見てください」

彼が指し示した紙幣――兌換紙幣には、王立銀行の紋章と共に『本券持参人に対し、金貨壱阡枚(1000G)との交換を保証する』と刻印されていた。


「1000G札が3枚に、100G札が8枚……きっちり3800Gです。確かに、この価値を理解できない田舎では無用の長物でしょう。ですが、我々の口座がある王都の銀行ギルドに持ち帰れば、これは正しく金貨3800枚分の価値を持ちます。物理的に金貨を持ち運ぶなど、もはや野蛮人のすることですよ」


そう言ってのけるテイクの姿は、まるで時代の最先端を行く投資家のようだ。


結果、俺たちの店の帳簿上には金貨3800枚の売上が計上され、同時に店の目玉商品になるはずだったお宝が、テイクの私室に飾られることになった。

通信越しにポッコが「あんたたち、いい加減にしなさいよぉぉぉ!!」と絶叫していたのは、言うまでもない。


さて、リリアナさんに挨拶を済ませて塔を出ると、彼女がふと思い出したように言った。

「そういえば、いつも庭の手入れに来てくれるお爺さんが、自分の家の裏にガラクタの山があるって嘆いてましたわ」


ガラクタの山。その言葉を聞いた瞬間、俺のピッカー魂(ソウル)が、再び燃え上がるのを感じた。

俺たちの宝探しの旅は、まだまだ終わらない。


==★==


【今回の発掘品ピック


▼買取品目

【お宝!】生命創造の坩堝テラフォーミング・ポット

 買取:銀貨1枚 予想売価:3600G


攻撃用魔導具(8点)

 買取:1200G 予想売価:1600G


古い魔導素材セット

 買取:500G 予想売価:600G


▼取引結果

生命創造の坩堝テラフォーミング・ポットは、テイクが3800Gで個人購入。


▼総合利益

4300G


▼オペレーター通信ポッコより

「テイクもああ見えてクセが強いのよね。目玉商品がなくなって店の宣伝はしそこねたけど、利益は十分だわ! 次こそは、ちゃんとお店に並べられるお宝をお願いするわよ!」



評判が良さそうなら連載してみようと思っています。

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