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三題噺もどき4

日課(新)

作者: 狐彪

三題噺もどき―ろっぴゃくななじゅうご。

 




 煙草を片手にベランダへ出る。

 後ろ手に窓を閉めながら、まだ青い空を見上げる。

 日が長い分には別段文句はないが、夜を生きる者としては生活のしづらさがあるかもしれない。そんなものはたいしてないので私は気にならないが。

「……」

 若干の曇り空ではあるが、生憎という程ではない。

 昼間はきっと、痛々しい日差しが降り注いでいたことだろう。私自身は太陽の光を浴びたところで多少肌が痛いなぁくらいだが、他のはきっと灰になるだろうなぁ。

 家の従者は普通に陽の光を嫌うので、絶対に浴びることはないな。

「……」

 そうなると、夏祭りに連れて行こうと言うのも、それなりに遅い時間じゃないと難しいな。まぁあれは夜に行ってこそなところがあるし、花火が上がるのは最後の最後だろうから問題はないだろう。……アイツが行くかどうかは別として。最近は割と外出にも付き合ってくれているから大丈夫だと思うが。

「……」

 その従者は私より先に起きて、朝食の準備を進めている。

 きっちりと、ベランダの鍵も閉めてから。

 ここまで来るとこれも一つの日課みたいなものだ。今日は珍しく口に何かを含んでいるのか、頬袋みたいになっている。キャンディでも舐めているのか?期限切れのモノでもあったかな。それなりの頻度で食べるからそういうことはないと思うんだが、分からないな。キッチンの管理はアイツにすべて任せているからな。

「……」

 レースカーテン越しに、部屋の中で少々せわしなく動く従者から視線を外す。

 視界の端に、沈みゆく太陽を写しながら、煙草を取り出す。

 一本、口に咥え、その先に火を点け、息を吐く。

「……」

 今日もまぁ元気に駆けまわっていてよろしいことだ。

 もうそろそろ彼らも新しい環境に慣れた頃だろうか。あぁでも、ゴールデンウイークという長期休みを挟んでいるからどうなのだろう。

 それでも、場所によってはいろんな行事が始まる事だろうからな……コミュニティで生活すると言うのは大変だな。

「……」

 そしてまぁ。

 今日も変わらずと言うか。

 初見のあの日以降、目立った接触こそしてこないものの。

「……」

 今日も、制服を身に纏い、どこか重く見えるスカートは不思議と揺れることなく。

 背中にはラケットを背負って。

 丁寧に結ばれた、肩甲骨までもある長さの髪を風に任せて。

「……」

 まぁ、飽きもせずに。毎日毎日。

 雨の日ぐらいは止めたらいいものを、わざわざ傘をさしてまで。

 そこはいっそ傘をささずにいるモノじゃないのかと思ったが、変に理性があるのか何なのか……全く分からないから困る。

「……」

 顔立ちは整っているように見えるから、きっと教室ではそれなりにいい立場に居るだろうに、それがもったいないほどに、鬼の形相とでも言うのか。

 そこに立って睨んでいるだけのこの時間ももったいないと思うがなぁ。

 あれ以降何もしてこないのも訳が分からないし。睨むだけで何が楽しいのだろう。

「……」

 見た感じ。

 手紙の主と同じような匂いはするが、直接の接触がないものだからどうにも決定打にかける。かと言ってこちらから関わるのも面倒なので、探るならもう少し接触があってからだが。

 その時はその時で、アイツがうるさいかもしれないから、それも面倒なのだ。

「……」

 今のところ実害はないので放置しているが。

 毎日睨まれるのは気分がよくはないよなぁ。

 こちとら寝起きで、気分のいい一日を始めるためにこうして起きてきているだけなのに。

「……ふぅ」

 満足したら勝手に帰っていくが。

 これもどうにかしないといけないのだろうか……。

 いっそ、今年の初めに来た阿呆の方が相手にしやすくてよかった気がする。迂遠にやってくるのは面倒で精神を削られるようで嫌なものだ。それが目的ならたいしたものだ。

「……、」

 半分ほどに減った煙草を灰皿で押しつぶし、視線を戻す。

 飽きたのか、制服姿の背中が遠くに向かって歩いていた。

 いっそ何かしてくれた方がいいんだがなぁ、明日も来るのだろうか。これも当たり前の日課みたいになりそうで嫌だな……。





「よく飽きませんね……」

「お前もな」

「何がですか?」

「……なんでも」








 お題:キャンディ・スカート・教室

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