日本国債格付を下げさせてでも緊縮したい!? 「PB黒字化」に脳がハッキングされている!
◇今の日本の国債格付けは「土俵際」
筆者:
本日は当エッセイをご覧いただきありがとうございます。
今回は政府の経済財政諮問会議の民間議員も務める中空氏がブルームバーグの24年12月2日のインタビューの中で、
「日本のPB黒字化のために格付け機関に日本国債格下げすると言われたいぐらいだ」と発言したことの一体何が問題なのかについて個人的な解説をしていこうと思います。
※PB黒字化とは税金の収入で支出の全てを賄う状況を指します。
質問者:
そもそも「日本国債が格下げ」とか言われてもどういう意味なのかよく分からないのですが……。
筆者:
民間機関の国債格付けと言うのがあるのですが、
実を申し上げますと今の日本はその主要国際民間機関の認定全てにおいて“土俵際”にいるんです。
一つ下のランク(大体がBBBランク)になると、
『良好な信用力。デフォルト・リスクが現在は低いと予想していることを示す。金銭債務の履行能力は概ね十分にあると考えられるが、経営又は経済環境の悪化がこの能力を損なう可能性がより高い。』
という評価になり、投資ランクでは無くなり「投機」とみなされてしまうのです。
質問者:
投機ランクになると具体的に何か不都合なことでも起きるのですか?
筆者:
「投資」とは中長期的な視点に立ち、将来得られるリターンを期待して資金を出資する活動のことを指しますが、
「投機」とは、金融商品の価格変動を利用して短期的な利益を追求する行為です。そのため、価格の動きを予測することに重点が置かれます。
つまり、暗に言うのであればあと一つ格付けが下がることによって「日本は経済不安定国家になったから長期投資はやめとくね」という事を意味するようになるのです。
質問者:
それは嫌ですね……。
筆者:
それだけにとどまればいいのですが、投機ランクになれば、
「カントリーシーイング」と呼ばれる現象が起きる可能性が高いことが分かっています。
どういった現象かと言いますと、
例えば日本法人A社がアメリカで事業を展開しているとします。
そうするとA社は格付けが下がった後にアメリカでの借入が制限、利息の高率化
ドルを円に交換して送金することが制限されてしまう可能性があるのです。
つまり「日本円」と言うだけで取引に支障が出るという事ですね。
これが重なると、日本に本社を置いている会社はどんどん日本から出て行き雇用がままならなくなり大不況といったことも考えられます。
◇中空氏は従来の「緊縮派」が煽っていたことを自ら呼び込もうとしている
質問者:
それは大変な話じゃないですか……。
冒頭のお話に戻りますと、
経済財政諮問会議の民間議員も務める中空さんは、このカントリーシーイングすらも起きかねない「国債格下げ」をして欲しいと言うのはどういった意図があるんでしょうか?
筆者:
注目すべき点はこれまで緊縮財政派は「日本が放漫財政を続けているから国債格下げになってしまう」と主張していたことです。
その中で中空氏の発言の「異様さ」というのは、「(外圧による)国債格下げを行う事でPB黒字化を図る」ということでどうしても緊縮財政を行いたいようなのです。
質問者:
えぇ……どうしてそんな論調になってしまったんでしょうか?
筆者:
これまでの論調としては「国債を発行しすぎると政府が破産しちゃうから国民の皆さん困るでしょ?」というのが一番の主張だったと思います。
ただ、実際問題としては国債発行残高が増えていっても全く持って状況としては破綻する気配が無く、上記の理論に対する疑問と言うのが徐々にではありますが広がってきています。
何せ実際は国債の50%以上は自分(日銀)が発行しているわけですから、
ハイパーインフレ(1年間で物価上昇率100%)にならない限りは、
何の問題も無いわけです。
国家として財政破綻している国の特徴としてはハイパーインフレで自国通貨の価値が無くなるか自国建て通貨を発行しておらず、海外への返済が出来なくなっている状況を指します。
日本は海外への国債の割合は10%ちょっとの段階なので全く問題ないわけです。
最近は減税の機運が高まり「ザイム真理教」と言った言葉広がりつつあります。
それに対して緊縮財政派としては自らの理論を押し通そうと「国債格下げ」を願っているという事です。
脳がPB黒字化に「ハッキング」されていると言っていいでしょう。
質問者:
えぇ……つまり自分たちの「理論の補強」のために格下げを希望しているんですか?
一般の方なら何を主張されていても良いと思いますが、経済財政諮問会議の民間議員も務める方の主張ですから影響力が違い過ぎますね……。
筆者:
僕はこの記事を見るまでは、「緊縮派」は日本のためを思っていながらも「ズレた理論」を展開しているのかと思っていました。
しかし、実際のところは、「自分の理論を通すために手段を選ばない」という事が分かってしまったことが大きな意味があったと思います。
中空氏は先ほどの記事の中で、「実際に格付けが下がるとはみていないが、下がり始めたら本当に早いため、そこは意識する必要がある」と同時に発言しているところからも、
格付けが下がらないことも理解していることが分かります。
最近の減税の論調に対して“焦り“があるのだと思いますね。
◇むしろ緊縮をした方が格付けが下がるリスクがある
質問者:
しかし、国際的な日本国債の格付けが下がると日本経済に大打撃が起きそうなのは間違いないと思うんですけど、どうしたら下がってしまう事が考えられますか?
筆者:
ソブリンという大手の国債格付けの基準があるのですが、
(1)経済・政治社会基盤
(2)政策運営
(3)財政状況・資金調達構造
の3要素の総合的な評価によって決まるようです。
しかし今の日本の現状は(1)を破壊して(3)を保つという本末転倒なことをしています。更に(2)も大企業優遇でトリクルダウンは起きておらず浮上の兆しが見えません。
GDPの50%越えが内需なのにそれを緊縮していたら伸びる余地はほとんど無いのです。
僕の考えでは今の路線の延長線上プラス緊縮では逆に日本国債の格付けが下がるリスクは上がると思います。
質問者:
大企業にばら撒いて、中間層に対して緊縮し続けていたから今の状況ですからね……。
特に筆者さんがいつもおっしゃっている社会保障と年金、消費税の逆進性があるのが一番問題ですよね……。
筆者:
現状予算がかかっているのは社会保障と年金であるのに対して、
「令和6年度経済財政白書」では、85歳を過ぎても金融資産が1割しか減っていないというデータもあります。
現役世代の平均貯蓄は少ないにもかかわらず、70歳以上の高齢者層が保有する割合となると全体の4割弱となっています。
日々の生活に困る高齢者もいますが、「貯めているご老人は貯めている」のです。
僕はどちらかと言うと年金は潤沢に、相続税(政治団体を含む)と海外への資産移転に大幅増税をすることで均衡を保った方が良いと思います。
※ただし農地に限っては相続税をあまりかけない代わりに農地転用や耕作放棄地化を禁じる必要があります。
質問者:
なるほど、最後を締めておけばいいという事ですか。
筆者:
僕はどっちかって言うと「生まれた家によって人生が決まる」という状況の方が問題だと思いますからね。
医者や弁護士は元々裕福な家庭(塾などに行けるから)の割合が高いことも分かっていますしね。
この状況の方が問題でしょう。機会が不平等過ぎて頑張る気が無くなります。
現役世代の機会平等のための資金投入をしていくべきでしょう。
◇「大岩」が動くとき
質問者:
しかしこういった中空さんみたいなこれまでの主張と矛盾している理論が出てきているという事は、何か好転する兆しみたいなのはあるんでしょうか?
筆者:
取り敢えずは淡々と事実のみを伝えることが大事だと思います。
国債を発行しすぎることによる主な問題は、
・ハイパーインフレになること。
・国債を返済できないこと。
この2つだと思います。
しかし、インフレは外国の輸入に頼っていることから起因していることであり、
返済は日本政府が日銀に命じて実質的に自分で自分に対して返済すればいいのが5割超えているために現状においては何の問題も無いわけです。
質問者:
日銀の財務体質と言うのは問題ないのですか? 日銀が潰れてしまったら終わりのような……。
筆者:
日銀は償却原価法式で、時価会計を採用していないため、金利上昇(国債価格下落)の影響はないんですね。
そして資産は日本への満期保有目的債権(国債)であることから返済されないというケースが全くあり得ないわけなんです。
質問者:
これについては全然言われていませんよね……。
筆者:
これは国会議員では高市氏などの積極財政派しか主張しないのですが、
クレジット・デフォルト・スワップ(以下CDS)と言う指標があります。
これについて何回か取り上げましたが、
政府純債務/GDPだけで見た場合では世界で一番悪い数値でこればかりが話題になるのですが、他に対外純資産/GDP、政府債務対外債務比率、経常収支の3つの指標があります。
このうち対外純資産/GDP、政府債務対外債務比率とが断トツで良い方で一位。
経常収支もプラスであることが多く、4つの指標を合計すれば日本の財務状況は先進国ではドイツに次いで2位となっています。
このように本来であれば日本国債格付けと言うのはもっと高くても良いはずであり、
根本の問題として、日本政府が日本国債の信用性を国内外にアピールしていないことが問題なのです。
質問者:
確かに、ニュースなどでは政府純債務/GDPばかり話題になって、
他の指標について聞くことは全くありませんね……。
筆者:
これに対する政府の反論は「日本政府の資産は道路やダムなど売れないものばかり」とか言ってくるんですけど、それなら他の国だって国有の売れない資産ばかりだと思いますので比べ方として対等だと思います。
一般人は抵当権を担保にお金を借りますが、それとはワケが違うと思います。
「国家の赤字」を「さも悪いこと」のように扱う事も違和感がありますが、市場へのマネー供給なのでそれ自体は悪いことではありません。
ただ問題は配分先が社会福祉以外では大企業への優遇(消費税還付や補助金、法人減税)に終始しており、これらの部門の支出を増やしても何も変わりません。
「財政健全化」を言うにしてもこれらを減らすという話にならないという事です。
お金を使うのであれば社会保障費の月額の階層的な減免と、消費税減税の方が遥かに一般国民のためになります。
質問者:
だから、いわゆる「財政赤字」の金額がここまで積みあがっても日本全体はちっとも良くないのですね……。
筆者:
お金持ちに予算を補助金や消費税還付で事実上配分して、逆進性で一般人から多く取っているのだから日本経済全体として見れば悪くなって当然です。
財政再建だのなんだの言うのなら、まずは「金持ちに配分しない」又は「相続税などの穴を埋める」ことが大事です。その上で「低所得者からは取らない」ことをしなくてはいけないと思います。
でも基本的には日本の徴税権は日本国民と日本で事業を行っている企業にしか行使できないので、これを黒字にするという事は国民が出血(赤字)という事ですからね。
30年経済成長できていない日本の状況、国家の財政指標を鑑みると、10年ぐらい毎年20兆円以上プラスで低所得者減税を行っても問題ないと思いますね。
質問者:
でも中々そう言う論調になりませんよね……。
筆者:
地道に主張していくことが大事だと思うので、微力ながら全力を尽くしたいと思います。
という事でここまでご覧いただきありがとうございました。
今回は、
「日本国債の格付けを下げろ」という主張は緊縮財政派の「焦り」ではないかということ、
気づいている人が地道に日本の財務状態は4指標を総合すれば問題ないということを主張していかなくてはひっくり返らないのではないか?
をお伝えしました。
今後もこのように政治経済について個人的な解説をしていきますのでどうぞご覧ください。