fileⅧ~警察官連続襲撃事件~③~
「ちょっと待ったぁ!あんた達何考えてんのか知らないけどぉはっきり言って困んのよねぇ……この一連の騒動…あんた達の後ろで意図引いてる誰かさんをあぶり出す前に勝ってに殺し合われちゃねぇ!リーファン!瑞樹ぃ!そこに居るね?この二人……あたし等の処刑場に連れてくよ!」
すでにあたしのすぐ近くで臨戦態勢に入っているであろう、リーファンと瑞樹さんにあたしは、二人の身柄確保を指示するのだった。
「……ちょっと待って!?何を考えてるのか聞きたいのはあたしの方よ……何の権限も無い民間人の貴女が現役の警察官僚のあたしたちを拉致するなんて事が許されると思うの?完全に泣きを見るのは貴女の方よ……」
あたしの拉致宣言に対して、毅然とした態度で応える恵梨香さんだったが、微妙に隠しきれなかった心の動揺をあたしは見逃さなかった。
「……国家権力ねぇ…そんな言葉もう耳タコなくらい聞き飽きたんだけどぉ……じゃあさ…こういう権限はどうかしらね?あたしたちと麻美さんが貴女にこんな場所で騒ぎを大きくしてほしくないと…貴女のお父様と貴女のお仲間である現警視総監の露木浩行さんに依頼を受けていたって言えば信じてもらえますか?それともう一つ…貴女の実の妹の美奈子さんは無事です……そこにいる美奈子さんに成りすました舞原真奈美が谷崎管理官を襲った時彼女も襲われたのですが谷崎管理官の計らいから美奈子さんは無事脱出…今は彼女浅香瑞樹さんのご実家で療養されています……それでも尚…貴女がそこの舞原真奈美を赦せないというのなら彼女に裁きを下す場所を提供しようと思ったんです……」
あたしはそう言うと、激しく真奈美を睨んだまま、あたしの前に座り込む恵梨香さんに自分の右肩あたりに彫られたローズクロスのタトゥーを見せるのだった。
「……父やヒロ君が言ってた……必ずあたしの強い味方になってくれる存在が居るって言われてたのって貴女達の事だったのね……連れて行ってもらえる?この外道女に裁きを下せる場所に?」
彼女はそう言うと、あたしの差し出た目隠しをしてあたしの肩につかまりながら自らリーファン所有のワンボックスカーに乗り込むのだった。
そして後は、支離滅裂にごねて、ひたすら乗車拒否をする舞原真奈美を彼女の持っていたスタンガンで軽く意識を失ってもらい、目隠しの後、あたしがかつてリーファンの率いる香蘭に所属していたころに、半端者だったり裏切り者だったりを処刑という型で処分していた場所。
そう、西新宿の路地裏のさらに奥、司法の目も届かぬ無法地帯。
そここそが、あたしとリーファンがいう処刑場という名のバブル期に役目を終えた雑居ビル。
道中申し訳無くも思ったが、この場所が第三者に知られてしまのは、リーファンやあたしにとっては命取りなわけで、この場所に着くまては、麻美さんと瑞樹さん。そして例の二人には目隠しをしてもらい、その場所に着くまでは絶対目隠しを外さない事を条件にリーファンの運転で、警察病院を出るのだった。
そして、刑場に着いたとき事態は急変した。刑場にて、恵梨香さんが堕天使の裁きを下すはずだった舞原真奈美は事の真相を語る間もなく、刑場に着いた時彼女はすでに自決して果てており、永遠に物言わぬ存在になっていたのである。
警察官僚たる麻美さんの母親、冬野明日香が引き起こした警察官僚偽装殺人事件。
この事件が明るみになったことで彼女は、警察官としての効力をすべて無くしたはずだった。
しかし彼女は、闇の裏コネクションを利用して、あまつさえ、腹違いとはいえ、実の娘である麻美さんが引き起こした警察官連続襲撃事件に便乗して、後々の自分の障害となりうるであろう邪魔者を実の娘もろとも一斉排除に動き出したようにも思えたのだが、それらはすべて、あたしの推測にしかすぎず、このときの二人の死は、あたし達にとって、事件解決の糸口を完全に断ち切られたことになんら変わりはなかったのである。
「……あきらめるのはまだ早いわよ香菜子……あんたの推測が当たってるか否かを決めるのはね…この一連の事件にあの女が大きく関わってるのは十中八九間違いないわ……それからもう一つ…あの人もまた…哀れな人ってことかしらね……自分は秘密結社を利用してるつもりだろうけど…組織からしたらこの女と同じ…一つのコマでしかないのよ……」
一瞬だけ、事件解決の糸口を見失いかけたあたし達にそう助言をくれたのは麻美さんで、あたしとしても事件解決の糸口に繋がる有力者の死亡に関して疑念を抱かなかった訳ではなく、警察学校時代の同期生でもあった葛城美奈子の言っていたことを思い出していた。
堕天使の烙印。そうこれこそが、門外不出と言われる秘密結社堕天使のメンバーに課せられた死の掟。
その証拠というべきか、現場あたし達の目の前で骸になっている真奈美も、背中から右胸にかけて何か細いキリのような針のような鋭利な凶器で貫かれた跡があった。
しかしこれは、願わくば繋がって欲しくなかった線と線。
すなわちこれは、あたしの両親の殉職現場に彼女、冬野麻美さんもいたことを意味していた。
「……麻美さん…あたし刑事の娘だけど…どうしようもない落ちこぼれでバカだからさぁ!言葉で言われたってわからない!この場であたしと全力でぶつかって!お願い!」
あたしはそういうと、上着の下に着ていたアーミージャケット姿になり、彼女に対して臨戦態勢をとるのだった。
「……すべての線が繋がってしまった以上…あたしにそれを拒む権利は無さそうね……香菜子!あんたの思うまま全力でおいで!」
彼女のその言葉が、これから始まるあたしと彼女の徒手空拳の戦いのゴングだった。
しかしあたしと彼女は、あたしの警察学校在学時に上官と生徒という差はあったにせよ在学時から彼女と互角に渡り合えたのはあたしだけで、他の生徒は皆、彼女の右手から繰り出される破壊力抜群の正拳突きの前に為すすべもなく打ち倒されていたことから、あたしと彼女が本気でぶつかったら、それはすなわちどちらか一方が確実に命を落とす結果になるのは明白だった。
「どこみてんだい?!香菜子ぉ!勝負ぁもう始まってんだぁ!他ごと考えてぇあたしに勝負仕掛けてきてんならぁ!あんた確実に死ぬよ!」
彼女の鋭い叱責と同時にあたしは、彼女の伝家の宝刀ともいうべき右手正拳突きを諸に喰らってしまい、あたしは先ほど立っていた場所から、その建屋の出入り口付近まで弾き飛ばされており、建屋のむき出しになった冷たいコンクリートの壁に背中を強打してしまい一瞬だけ強烈な目まいに襲われ、すぐに立ち上がることができずにいた。
「……香菜子…あんたのあたしに対する憎しみってのはそんな柔な物なのかい?だったとしたら警察学校時代の上官としてあたしがあんたを冥府に送ってあげる……」
彼女がそう言って倒れ動けなくなったあたしに、最後の攻撃に出よう刹那だった。
「……ったく…今さら上官ヅラすんのやめてくんない?ちっと油断しただけで!いい気になってんじゃねぇよ!」
彼女の叱責に、彼女の意図がよめたあたしは、彼女の攻撃を躱すのと同時に起き上がりざま下から彼女の顎めがけて、力いっぱい右手拳を振り抜くのだった。
起き上がりざまに彼女の真下から振り抜かれたあたしの拳は、見事に彼女の下顎をとらえており、骨のひしゃげる鈍い音同時に彼女の身体は宙を舞い、まるでスロー再生されたビデオ映像のように緩やかな下降線を描きそのまま建屋の冷たいコンクリートの床に叩きつけられよう刹那だった。
彼女は瞬時に受け身をとりそれを回避して、外れた下顎を自分で戻してあたしの前に立ってはいたが、立っているだけが限界だったのだろう。
彼女は静かに座り込むのだった。
「…悔しいけど…あんたのそのすさまじい瞬発力にゃあさすがのあたしも負けを認めざるをえないわね……香菜子…あたしを警察に連れてってくれない?警察官連続襲撃事件の容疑者として……」
彼女は座り込みながらも、姿勢を正すとそう言ってあたしに頭を下げた。




