fileⅥ~警察官連続襲撃事件~①~
葛城邸を見張るリーファンから連絡があったのは、それから数時間後だった。
やはり容疑者は、冬野麻美29歳。
一家離散の憂き目を見たことからのあたしに対するというよりは、警察組織全体に対する怨恨だった。
それから、奴が次に狙ったのもやはり、竜三さんの奥様の佳子さんで、彼女の強行事態は未然に防げたものの、自分達の仕掛けたトラップはすべて突破され、彼女は今、次のターゲットに絞った葛城竜三警視監の収容されている警察病院に向かっているというものだった。
「恵梨香さん!美奈子さん!警察病院に急ぎましょう!今の彼女は復讐の念に取り憑かれた一人の修羅!どんな行動に出るかわかりません!それに彼女はもうすでに人を一人殺めている!事は急を要します!」
リーファンからの連絡を受けたとき、あたしの中で、何かのリミットが音を立てて外れた。
そして、あたし達が竜三さんの収容されている警察病院についたとき、そこはまさに地獄絵図そのままだった。
本来彼の警護を主任務にする屈強のSP達なのだが、修羅の化身と化した彼女には、赤子同然に捻りつぶされ、最早、生きているかどうかさえ危うくなっていた。
「恵梨香さんはこの警察病院に収容されている患者さん達の誘導ならびに救出をお願いします!それから美奈子さんは…まだ動けるSPの方達とあたしと瑞樹さんの援護をお願いします!貴女方のお父様の病室には!あたしと瑞樹さんの二人で突入します!」
あたしがそう宣言したとき、姉の恵梨香さんは若干心配そうな素振りを見せ黙り込んだのだが、妹の美奈子さんは違い、あたしに即答の意味を込めて姿勢を正し、敬礼をしてくれた。
「姉さん……今はあれこれ考えてる場合じゃないと思うよ……彼女の強行止められるのって…彼女の気持ちに寄り添ってあげられるのって……心に同じ傷を持つ香那子ちゃんにしか無理なんだから……あたしや姉さんがどれだけ頑張っても負傷者だったり最悪はさらなる犠牲者を増やすだけだと思うの……だから今は…彼女の指示に従おうよ!姉さん!」
あたしが、恵梨香さん達葛城姉妹に決断の采配をしたとき、あれこれいろいろとあたし達の最善のルートを思慮してくれていた。葛城姉妹の姉、恵梨香さんに、妹の美奈子さんがさらなる決起の時を告げてくれていた。
「……わかったわ!そうね……今は二人を信じる他…策はなしってことよね……香那子さん!瑞樹さん!お二人の身の安全は!あたし達葛城姉妹が絶対お守りします!以上!散会!」
彼女、葛城恵梨香さんの最後の決起表明を合図にしてあたし達は、それぞれの持ち場へとその身を踊らせた。
一方その頃、竜三さんの病室では、彼と麻美さんが対峙はしていたものの、殺気をギラつかせているのは麻美さんだけで、彼はと言えば、寝かされいるベッドの上、上半身を起こしただけで、彼女の殺気を物ともせず小さな笑みさえ浮かべて、彼女を諭していた。
「君が…冬野君のご息女か?復讐などしても虚しいだけだ……それともう一つ…君の今の心情でわ…今この病室に向かって来ているであろう本羽君の娘さんとやり合ったとしても…万に一つとして勝ち目は無い!」
竜三さんは語気を強めるでもなく、荒げるでもなくそういうと、やわらかな笑みを湛えたまま、瞑想に入っていった。
「……警視庁随一の変わり者……不思議な方なのですね貴方は……」
彼女は独り言ののようにそういうと、一通の封書を残して、警察病院の二階の突き当たりにある、彼の病室の北側の窓から宵闇に紛れ、あたし達三人が彼の病室に着いたときに彼女は、竜三さんの病室から忽然と姿を消していた。
「……大丈夫だったの?お父様……?」
危機迫る勢いそのままに、竜三さんの病室に駆け込む、あたし達三人。
彼、葛城竜三さんはまるで何事もなかったかのように、駆け込むあたし達を笑顔半分、真顔半分で、出迎えてくれたため、あたし達の先頭を切って彼の病室に駆け込んだ美奈子さんは、思わず、間の抜けた受け答えをしていた。
「……美奈子…香那子ちゃん達
と少し話しがしたい……わるいが…おまえ達は恵梨香の援護にまわってやってくれんか?」
彼はそう言うと、美奈子さんと、自分付きのSPに退出を促した。
そして、美奈子さん達が心配そうにしながらも、彼の病室を出て行った跡。彼、葛城竜三さんは、その場に残ったあたしと瑞樹さんを自分のベッド脇に呼び寄せて、今の今まで彼の病室にいたであろう。冬野麻美が置いて行った封書をあたし達二人に見せてくれた。
「……つい先ほど…彼女が置いて行った……この一連の騒動を起こしてしまった自分の浅はかさを詫びる文章が綴ってあった……そしてもう一枚は彼女の計画した復讐者リストだ……香那ちゃん…瑞樹ちゃん……二人に頼みがある……彼女はこの復讐を成し遂げた跡…香那子ちゃんと瑞樹ちゃん…二人に伐たれる考えでいると…私はこの文章から読みとった
……単刀直入に言おう…彼女を闇から救い出してはくれまいか?」
彼、葛城竜三さんはそう言うと、あたし達二人に病室のベッドの上、半身を起こした状態から、深く頭を下げた。
「……お話しはよくわかりました……できるだけ努力はします……ですがあたしと彼女の間にはすでに…修復できるか否かの確執が生じてしまっいるのもまた事実……」
あたしはそういうと、ベッドの上で頭を下げる彼をそっと抱き起こした。
「葛城警視監…一ついいですか?もしかしたら葛城さんは…あの時の事…おっしゃってるのでわありませか?」
あたしと竜三さんの会話を聞きながら、あれこれいろいろと考えを巡らせていた瑞樹さんが、そういって彼に質問をした。
「あの時のことって…まさか……」
あたしは瑞樹さんのあの時という言葉に聞き覚えがあり、それから先の言葉がうまくつながらなかった。
そうあれは、あたしの懇親会と、瑞樹さんの浅香一家二代目襲名披露の宴がはねた次の日の朝。
あたしが、警視庁近くの殉職警官慰霊塔にある両親の慰霊碑前で、康太さんや里緖さん。そして、今、恵梨香さん、美奈子さん姉妹と怪我人の救護に従事してくれている。リーリーファンに会い、浅草の事務所に戻った。午後8時。浅草駅近くの繁華街にあるショットバーに呼ばれたあたしは、麻美さんは父親丈一郎さんの連れ子で、彼はバツイチ。そして母親の明日香さんは警察官僚一家のお嬢様でバツイチ。当時から純粋過ぎた丈一郎さんが彼女の裏の顔に気づく事はなく、徐々に母親明日香さんの裏の顔に染まり始めているということを聞かされていたのを思い出していた。