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fileⅣ~ 警察官僚偽装殺人事件~④~

「瑞樹さん……どうしてここへ?」


 あまりにも突然すぎる彼女の出現にあたしは、彼女に助けられたのも忘れ、彼女に問いかけていた。


「……あたしの感って言いたいとこですが…冬野親子に不穏な動きがあると気づいたのはあたしの父親……何はともあれここは危険……この三人が息を吹き返す前に…あたくしども浅香一家事務所への避難をおすすめいたします……」


 彼女は傅いたまま、伏し目がちにそういうと、自分の後ろに控える里中兄弟に、あたしの警護を託して、自分は一人、本羽探偵事務所に残る旨のアイコンタクトを交わした。


「……待って…これからの一家を束ねていかなきゃいけない貴女をこれ以上もめごとに巻き込む訳にはいかない!それともう一つ…この三人にはまだいろいろと話しを聞きたいの……これだけの大がかりな隠蔽工作…麻美さんが後ろで意図ひいてたとしても到底なしえないこと……この三人の後ろにはもっと何か大きな闇の力が作用してると思うの……おそらくその闇の力は奴ら三人があたしの手中に落ちたと睨めば必ず奴らを仕留めにくるはず…その時がこの入り組んだ事件を解決に導く最良のチャンスだと思うの!」


 テキ屋道をこよなく愛して、武骨にテキ屋の道を邁進する。

 彼女、浅香瑞樹さんが、父親である達将さんの性格を生き写ししたような、曲がったことは大嫌いな事もよくわかり、とても危険な案件にあたし自身首を突っ込んでいるのはじゅうにぶんに理解しており、彼女のあたしを心配してくれる気持ちも、痛いほどよくわかった。

 けれどここで退いたら、警察組織の闇の陰謀に殉じた両親に、あたしが冥府に行ったとき合わす顔がないと思い、あたしは思いきって瑞樹さんの申し出をことわった。


「……香那子さんの心中も…お察しもうします……ですが…あたくしども浅香一家は父親の代より本羽の家を守るよう定められた家柄……里中兄弟だけでもお側においてやってもらえませんか?」

 彼女はそう言うと、里中兄弟と並び、三人揃って、あたしの前に傅いた。


「……わかった……けど今はもう…そんなシバリ関係ないよ……けどそれじゃあせっかくあたしのピンチを救ってくれた瑞樹さんのメンツが立たない……じゃあこうしない?弘二さんとあたしでこの三人から裏の繋がりを聞き出す……瑞樹さんは裕二さんと一緒に調べてほしいことがあるの?あたし…この一件で命落としたのって…あたしの両親とあたしの祖父……そしてもう一人は信楽深雪さん……この四人だけが命を落として…この件に一番接点のあるはずの冬野明日香はどこかで生き延びてると睨んでる……けどこれはあくまでもあたしの推測にすぎないのよねぇ……悔しいことだけどね……」


 あたしはそういうと、細身のメンソールのタバコを燻らせた。


「……いっさい…承知しました……ですがくれぐれもご用心を……」

 瑞樹さんがそう言って、あたしの事務所を出ようとしたときだった。


 あたしの事務所ビルは、どこでどう、情報が漏れたのか、事務所ビル周辺には非常線が張られ、警視庁の特殊部隊までもが、出張ってきていたのである。


 そしてさらには、建物を包囲する特殊部隊に先がけて何人かの捜査官達が、事務所ビル内に侵入しており、最早あたし達に逃げ場はなく、絶体絶命の危機的状況下ではあったものの、あたし達はまだ、諦めてはいなかった。

 何故なら彼等は、上官の許可なく攻撃を仕掛けられないことを知っていたあたしは、ここで騒ぎたてても、それは得策とは思えず、ここはおとなしく、康太達三人を連れ、事務所内オフィスへと侵入を試みる捜査官達の前に、その姿を晒す事を選択したのだが、それは全くの裏目に出てしまい、結果、あたし達六人のうち、皆上康太警部補と、一ノ瀬里緖巡査長は愚かにも抵抗の意思を示したため、その場で射殺され、残ったあたしと瑞樹さん、弘二さんと裕二さん。

 そして、麻美さんの五人は、警官隊の激しい暴行のすえに、その身柄を確保、拘束されてしまうのだった。


 そしてあたし達五人は、それぞれ個別に取り調べを受けたのだが、あたしの取り調べを担当したのは、やはりあたしのヨミどおりこの事件の渦中にあるはずの、冬野明日香だった。


「……久しぶりね……何故今になってあたしの過去の過ちまで調べはじめたのか?何故あの時の事件依頼があたしの自作自演だと気づいたのか?その辺のとこ…貴女の調べあげた全ての事を…全部話してもらえないかしらね?もし貴女があたしの申し出を断れば…賢い貴女なら察しはつくはずよね?別室で取り調べを受けてる他の四人もさっき現場であたし達に歯向かって愚かにも射殺の憂き目を見た…あの二人のようになりたくないならね……」

 その彼女の挑発的な対応が、あたしの今まで抑えていた怒りの感情を逆なでしたのだが、敢えて冷静を装い、 黙秘権を主張した。


「黙秘するつもり?それはつまり…跡の四人を見殺しにする事になるのよ……?」

 彼女は、すっかり変わってしまっていた。

 あの時の気高く優しい彼女は、どこにいってしまったのか。

 今あたしの目の前にいる、クズ以下に成り下がった彼女からの再びの高圧的な対応に、あたしの忍耐の糸にも限界がきていた。


「……明日香さん…貴女って

 警察官としても…一人の娘をもつ母親としても…ヘドが出るくらいに…最低な方だったんですね!?あたしを…あたし達家族を一家離散に追い詰めたあたしの祖父と同じ!強欲なだけ!祖父が死んだのは強欲な性格からの自業自得だと諦めもつく!けどねぇ…あんたのその間違いだらけの指示に従い…あたしの両親が命を落とした事実だけはいくら消そうとしたって…絶対消えない事実なのよ!あんたこそ!自分の犯した罪と少しでも謝罪の気持ちがあるなら!あたしの両親や麻美さん親子……はたまた深雪さんや里緖さん康太さんにも…まずは詫びを入れなよ!はなしゃあそれからだぁ!」

 最初から、ろくな応えなど期待はしていなかった。


 けれどこの女のせいで、落とさなくてもよかった命を、落とす結果になり、死んで逝った者達の無念を思うとあたしは黙ってなどいられなかった。


「小娘がわかったような口を聞くなぁ!警察組織内において上官の命令は絶対だ!それを無視して現場入りした人間のSOSなど誰が聞く!お前の両親もあの信楽深雪とかいう女も上官反逆罪にあたり職務失脚…果ては仮に命を落としたしてもそいつが愚かだった だけ……私から奴らに詫びることなどいっさい無い!お前のように愚かな小娘はうちのバカ娘と一緒に一生を賭けてでも…頭を冷やすんだなぁ!そうすれば少しは…いくらそのたらぬ頭でも理解できるんじゃないのか?」

 やはりというべきか、彼女は最初から、自分の過失など認める気はさらさら無かったのだ。


「……あんたみたいな女にぃ!彼女をムショ送りなんかにゃさせないよぉ!香那子さん今まで本当にごめんなさい!跡の始末は…あのバカ親父とこのバカ女の間に生まれたバカ娘のあたしの出番だぁ!この女の始末ぁあたしが着ける!あんたはここを出てこの一部始終をマスコミにリークするんだ!そうすれば…この女の一生も浅草東署も!全て終わりよぉ!」

 そう言って、あたしが取り調べを受ける部屋に彼女を押し戻そうとした警官達を押しのけ入ってきたのは、冬野麻美元警部だった。

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― 新着の感想 ―
 本当の悪人は明日香さんだったんですねえ。!Σ( ̄□ ̄;)  いろんな家族がこの作品には出てきますが、一番倖せな家族は誰で不幸な家族は誰の家族だったのかなあ、とちょっと思いました。  麻美さんは倖せで…
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